今年7月にジュネーブで行われる自由権規約の日本審査に向けて、アムネスティを含む26のNGOが、取り組む人権のテーマを超えて共同の記者ブリーフィングを開催しました。会場には20名を超える報道関係者のほか、主催団体関係者も大勢集まりました。

憲法98条2項は、日本は締結している条約を「誠実に順守する義務」があると規定しています。しかし、こと人権については、日本が条約に誠実に向き合う姿勢はまったく不十分といえます。6年ぶりの自由権規約日本審査に、ぜひ注目してください!

自由権規約って?

自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)は、1966年に成立した条約です。表現の自由、生命に対する権利、拷問や残虐な刑の禁止、公正な裁判を受ける権利、外国人の追放の制限、差別唱道の禁止、民族的少数者や子どもの権利などを規定した、最も基本的な国際人権条約のひとつです。日本は1979年に批准しています(注1)。

規約人権委員会は、自由権規約の締約国が、規約に規定されている基本的な人権を保障しているか、また、保障するためにどのような努力(対策)をしているか、を定期的に審査します。今回は第6回の審査ですが、2008年以来、6年ぶりとなります。

審査の前に、政府は委員会に自国の人権状況への対策について報告書を提出し、委員会も政府に対して質問を出します(注2)。NGOも事前に、人権状況に関する情報を委員会に提供することができます。日本政府の報告書の審査直前には、委員がNGO関係者と会合を持ち、直接、情報提供を受ける機会があります。

注1:自由権規約の全文訳は外務省のサイトで参照できます。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/

注2:委員会からの事前の質問事項と日本政府の回答(2014年)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000031106.pdf

6年ぶりの日本審査~何が注目点?

今回の記者ブリーフィングでは、特定秘密保護法・ヘイトスピーチ・「慰安婦」問題・袴田事件という注目すべき4つの問題について取り上げました。

【特定秘密保護法】

特定秘密保護法については、秘密の対象が明確でない、独立した監視機関がないなどの批判がなされています。これについては、自由人権協会の升味佐江子さん、海渡雄一さんが発言しました。

升味さんは、規約人権委員会が出した人権規約19条の解釈基準について述べ、「政府が持っている情報には全市民がアクセスできることが前提であり、これを制限する場合は必要性・比例性の厳格な基準を満たさなければなりません。また、制限は法律によって細心の注意を払ってなされなければならず、これを政府の裁量に任せてはなりません。」としました。

また、海渡さんは、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)と秘密保護法の関係について、「ツワネ原則は、人権規約19条を基にした立法のガイドラインのようなものであり、両者は限りなく近寄っているもの」として、ツワネ原則の重要性を訴えました。

【ヘイトスピーチ】

ヘイトスピーチに関しては、人権差別撤廃N G O ネットワークの師岡康子さんから報告がありました。

師岡さんは、「ヘイトスピーチは日本に蔓延しているにもかかわらず、日本政府は現実を直視せず、国際的に隠そうとしています。また、池袋でナチスの旗を掲げて行進したという事件については、日本の新聞も取り上げていません。そればかりか、ヘイトスピーチは表現の自由として保障されているという主張さえまかり通っています。」として、日本のヘイトスピーチを取り巻く状況について危機感を示しました。

また、師岡さんは、「近年、京都朝鮮学校に対するヘイトスピーチに対して違法判決が出されました。しかし、この判決は、特定できる対象へのヘイトスピーチを侮辱罪や名誉棄損罪という現行法で何とか対処しているにすぎません。例えば、「韓国人皆殺し」などと不特定人に向けて街頭宣伝がなされた場合には、これを規制する法律はありません。」と、政府が法整備を含む対策を怠っている問題を指摘しました。

【「慰安婦」問題】

近年、公人による発言が問題になっている「慰安婦」問題については、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」の渡辺美奈さんが報告しました。

1993年と1998年には委員会からの最終所見に「慰安婦」問題への勧告がなかったにもかかわらず、2008年に非常に厳しい勧告が出されました。その背景について渡辺さんは、2007年、当時の安倍総理が「慰安婦」になることに強制はなかったという発言をしたからではないか、と指摘しました。この発言を発端に、公人によるさまざまな形での強制否定発言がなされ、国際社会において『日本はまだ事実を認めていないのか』という認識が生まれ、これが厳しい勧告を招いたものと考えます。」としました。

また、渡辺さんは、2012年の日本報告書の『植民地支配と侵略によって』『アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた』という記述が2014年の日本報告書では削除されている点を指摘し、「日本政府の歴史事実の認識がどんどん後退している」と報告しました。

【袴田事件と日本の刑事司法】

本年3月27日、死刑囚であった袴田巌さんが47年7カ月ぶりに釈放されたことで注目を集めている袴田事件については、日本国民救援会の生江尚司さんが報告しました。

生江さんは、「この事件は、捜査機関による証拠のねつ造、証拠隠し、弁護士の立会なく23日間警察に留め置かれるという代用監獄の問題、平均12時間、最長16時間に及ぶ長時間の取調べ、といった冤罪を生み出す日本の刑事司法の構造を浮き彫りにするものです。」と、袴田事件における数々の問題点を挙げました。

また、「もし自由権規約が守られていれば、これらの問題は生じないはずです。総括所見では、不名誉な通称として国際的にも認知されている『daiyoukangoku』を廃止し、自白に依存した日本の刑事司法の全面的な転換が求められています。」と、日本政府の対応の遅れを厳しく指摘しました。

日本政府に求められることとは

7月の日本審査にあたって、多くのNGOが委員会にレポートを提出し、ジュネーブに足を運ぶ予定です。これはむしろ、日本政府がNGOと十分に対話していないことの表れであるとも言えます。

6年ぶりとなる自由権規約日本審査。勧告を無視し、人権問題を放置するのではなく、どのように改善していくのかを前向きに考える----そんな日本政府の姿勢こそが、求められています。

 

開催日 2014年4月22日
開催場所 参議院議員会館

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