中国政府の弾圧に屈せず、長年、人権と民主化のために粘り強く闘ってきたノーベル平和賞受賞者の劉暁波さんが、自由を奪われたまま2017年7月13日に亡くなりました。さらに、劉暁波さんの逝去後、彼の妻であり、自宅で軟禁生活を強いられていた劉霞さんの居場所が分からなくなっています。

劉暁波さんと劉霞さんはどんな人物で、何を考えていた人であったのか。8月4日、二人のことを伝える集会を行い、作家の劉燕子さん、劉夫妻と交流があった及川淳子(桜美林大学専任講師)さんにお話を伺いました。

当日は、60名以上の参加者とともに劉暁波さんの死を悼み、劉霞さんの自由のために、一人ひとりにできることを考えました。主催したアムネスティ日本・中国チームが報告します。

劉暁波さんと劉霞さん、二人をつなぐ詩

劉燕子さん劉燕子さん

生前、劉暁波さんはたくさんの文章を書かれていますが、劉霞さんへ宛てた詩だけで本が出版されるほど、彼女への愛も詩という形で残されています。

一方、劉霞さんもアーティストであり、詩人でもありました。二人は、詩を通して、家族や社会、人権への想いをつづっています。

二人の詩を朗読した作家の劉燕子さんは「詩人にとって、言葉を封じられることは何よりも辛いこと。彼らの声は聞こえない。でも、2人の詩は私たちの命の大切さ、尊さを教えてくれる」と話されていました。

劉夫妻を知る、劉暁波さんの思想を読み解く

現代中国の知識人・言論空間を研究されている及川淳子さん(桜美林大学専任講師)は、劉夫妻とも親交が深く、夫妻について、そして劉暁波さんの思想についてお話しくださいました。

劉霞さんはお酒とたばこと旅行が好きな、よく笑う人。スライドで紹介された劉霞さんの写真は笑顔のものばかりでした。彼女の笑顔が消えたのは、夫が投獄され、自らも自宅軟禁に置かれ当局の厳しい監視を受けるようになってからだといいます。

及川淳子さん及川淳子さん

また、及川さんには劉暁波さんの思想を読み解くいくつかのキーワードを紹介していただきました。

劉暁波さんは2005年に出版された書籍の中でこのように述べています。

「中国の民間レベルで権利の意識と自由の意識が覚醒したとき、中国の変革を推進する根本的な希望は政府でなく民間にある」。

身体的、精神的に自由が奪われる辛さを知っているからこそ、市民一人ひとりが権利と自由を意識的に求めることが重要であることを訴え、また、市民が目覚めることを信じていたのかもしれません。

「怒りや悲しみを感じるだけではいけない。彼の考え方、生き方を知り、劉さんの想いを次につなげなければならない。私たちにできることは必ずあるはずだ」と、及川淳子さんは話されていました。

中国の市民社会を見つめる視点と日本

自宅軟禁中の劉霞さんが習近平国家主席に宛てて書いた公開書簡があります。彼女はそこに「公民 劉霞」と署名しました。「公民」という言葉には、「憲法や法律で権利が保障された人である」という主張が込められているのだそうです。

もともとは政治的な言動はしなかった劉霞さんが「公民」を名乗り公開書簡を発表したように、中国社会の中で自立した市民として人権や社会のために闘う人びとが少なからず出現しています。

集会の議論の中で、中国の人権問題を考える時には、国家のひどい行いに注目するだけではなく、中国で育ちつつある市民社会に目を向け、私たちはそれとどのように関わっていくかを考えていくことも重要なのではないか、という意見がありました。「公民」という言葉を見つけたら、皆さんにもこのことを思い出してほしいと思っています。

私たちにできること

劉暁波さんは、ひどい迫害を受けながらも、中国国内に残ることにこだわり、言論活動を続けてきました。そんな彼が、生前、国外への亡命を望んだのは、劉霞さんの健康と身の安全を案じてのことでした。

劉霞さんは、長年の軟禁生活でうつ病も進行していました。夫と再会できたのも、彼が末期がんであることが明かされた後の短い間だけです。

今、世界中の市民団体や活動家たちが声を上げ、劉霞さんを自由にするよう中国政府に訴えています。アムネスティでも世界中で署名活動を実施しています。ぜひ署名にご協力ください。

【劉暁波さんと劉霞さんを知るための書籍】

劉暁波『天安門事件から「08憲章」へ 中国民主化のための闘いと希望』(藤原書店、2009年)/矢吹晋ほか『劉暁波と中国民主化のゆくえ』(花伝社、2011年)/劉暁波・劉霞ほか『「私には敵はいない」の思想 中国民主化闘争二十余年』(藤原書店、2011年)/劉霞『写真集・沈黙の力』(フォイル、2013年)/劉暁波『詩集 牢屋の鼠』(書肆侃侃房、2014年)

【劉霞さんのアートを紹介するサイト】

開催日 2017年8月4日(金)
場所 東京・港勤労福祉会館「第一洋室」
主催 アムネスティ・インターナショナル日本 中国チーム

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