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【書評連載13】アラーの神にもいわれはない

アラーの神にもいわれはないアマドゥ クルマ著/真島 一郎訳、人文書院、ISBN:978-4409130261

これにしよっと。『アラーの神様にだってこの世のことすべてに公平でいらっしゃるいわれはない』。ぼくのとんちき話の完全決定版タイトルは、こんなだよ

......という書き出しでギニア生まれの男の子ビライマ少年の体験談は始まる。昔、仏領西アフリカと呼ばれた地域を少年兵として転々とするビライマ少年の一人称の物語だ。ビライマは実際の年齢を知らない。物心が付いたときにはすでに生まれていたからだ。そして学校も抜け出してしまったので難しい話は分からないし、言葉遣いは汚い。

西アフリカの言葉の混ざったフランス語と、彼の村でよく使われる罵り言葉、そしてラストで語られるちょっと込み入った経緯で手に入れたフランス語の辞書4冊から構成されるごちゃごちゃな言語で、統治の仕組みが壊れてしまったごちゃごちゃな世界を話してくれる。

ビライマ少年の心は実にさまざまな要素がつぎはぎにされて構成されている。アフリカの土俗宗教の迷信、商人の部族であるマリンケの家庭で教わったイスラム教の価値観、ヨーロッパからもたらされたカラシュ(カラシニコフ自動小銃)の持つ力。そういうものがほとんど統合される事なく、強引につなぎ合わされて彼の脳内は成立している。そしてギアナ、コートジボアール、リベリア、シエラレオーネというそれぞれの事情を持つ国を渡り歩き、それらの国の体験もバラバラなまま組み合わさっている。結果として彼の話す言葉は、私たちの世界の言葉とかけ離れてしまう。読者の知らない名前、習俗、道具の名前が剥き出しで登場する。

私たちは、彼の言葉のほとんどを知らない。

本書には膨大な訳注がついているのだが、280ページほどの本文に対して注釈は60ページ以上。私はこの注釈と本文とを、指を挟んで往復しながら読んだ。今のインターネット風に言うならば、wikipediaと本来のサイトを往復しながら読み進むような感じだ。

指の間に未読の本文と既読の注釈に当たるページを挟んで読み進めていくと、ビライマ少年が旅をする西アフリカと私達が暮らす日本との距離が指先の触感であるかのように思えてくる。本文はビライマ少年の軽妙な語り口によって進んでいくのだが、私たちの世界である注釈は逃げ水のように先へと行ってしまう。この距離感は私達とビライマ少年を隔てる認識の壁であると同時に、本書によって旅をできる距離であると感じた。

書いてある事実はもちろん決して楽しいものではないし、文体の乾いた笑いは絶望で今にも壊れそうなビライマ少年の心の最後の堤防だ。その私たちの心に迫るせつなさがあって、なお楽しいのは、この本の魅力である。

それから最後に一つ。この本を読み終わるととにかく語尾に「ニャモゴデン!」という言葉を付けたくなることを附言しておこう。意味は......口汚い罵り言葉なのでここでは秘密。

実際に読んでみて、皆さんも立派なニャモゴデン使いになって欲しい。

(執筆:アムネスティ書評委員会 N.T)

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アラーの神にもいわれはない

 

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