死刑廃止 - 著名人メッセージ:山口由美子さん(西鉄バスジャック事件被害者)

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山口由美子(西鉄バスジャック事件被害者)

西鉄バスジャック事件から4年半が過ぎ、やっと西鉄バスを見ても平常心でいられる ようになりました。2000年5月、私はこの事件で亡くなられた塚本達子先生(*)と一緒 にバスに乗り、重傷を負いました。

そのころ、ほかにも少年事件が続き、少年法改正に向けての動きが出てきました。 2000年11月、私は参議院法務委員会に招かれ、年齢を下げて罰することには反対とい う立場で意見を述べました。それまで私は、悪いことをしたら罰せられて当然、そし て殺人を犯した人は死刑になって当然と思っていました。そういうことを深く考えも せずにそう思いこんでいたのです。

自分が事件に遭遇し、事件を起こす側の人の気持ちに触れました。ほとんどの加害者 は、それまでまわりの人々からの被害者だったということに、バスジャックをした少年を通して気づきました。いろんな人から心を傷つけられ、そのやり場のない気持ち をだれにも理解されずに、ぎりぎりのところで自分の尊厳を守るため、他人に刃物を 向ける人がいるのです。

人を殺すということは絶対にゆるされる行為ではありません。でも、そういう状況を 考えたとき、死刑や厳罰では何にもならないと思うのは私だけでしょうか。そこに至 るまでの生命の軌跡に共に向き合い、人として尊重されて初めて謝罪の心が生まれて くると思います。私たち被害者がいちばん望んでいるのは、加害者の心からの謝罪、 そして再び罪を犯してほしくないということです。

もちろん、被害者の中には事件直後、そのつらさのため、極刑を望む人もいます。し かし、事件後にどういう対応がなされたかでその受け止め方が違ってきます。まわり の人から被害者が必要としている援助があり、心からの謝罪がなされたときには、心 は癒され、平常心を取り戻していけます。反対に、そのまま放置され、援助も謝罪も ない状態では、恨んで極刑を望むしか道はありません。

今、被害者やご遺族の方々の活動のおかげで、少しずつ被害者にも光が当たり始めました。もっともっと被害者側に立って支援をしていくことで、被害者も加害者の気持ちに思いをはせることが可能になると思います。

私は、被害者と加害者を分けて考えるのではなく、同じ船に乗り合わせた運命共同体 だと考えます。一つの事件を通して、お互いどう折り合いをつけていくのかが大事な ことではないでしょうか。  

*塚本達子先生
1931年生まれ。小学校教師を29年間務め、その後モンテッソーリ養成コースを受講さ れ幼児室を開設。2000年、バスジャック事件の犠牲となり死亡。著書に『お母さんわ が子の成長が見えますか――私の手づくり幼児教育論』(河出書房新社、2000年)が ある。約20年前、山口さんは子育てに悩み、お子さんを幼児室に入室させ、その後、子育てや教育をテーマとした交流をもとに、親交を深められました。

山口 由美子(やまぐち・ゆみこ)さんのプロフィール

2000年5月に遭遇した「西鉄バスジャック事件」の体験を通し て、少年犯罪に対しては安易な「厳罰化」ではなく、事件の背景を考えるべきである と訴え続けている。事件後、親と子が学び育ち合う居場所を開設。現在、不登校の子 どもたちのためのフリースペースをサポートし、子育てに悩む親の会の代表を務める。

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