イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ:ガザ地区、レバノン、およびイスラエルに関するアムネスティ日本公開書簡

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2006年7月26日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ
トピック:地域紛争
アムネスティ・インターナショナル日本は、世界最大の人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルの日本支部として、また世界の180万人以上のアムネスティ会員・支援者とともに、現在のガザ地区、レバノン、およびイスラエルにおける民間人を標的とした攻撃について深く憂慮しています。

イスラエル軍、パレスチナ武装勢力およびレバノンのシーア派組織による一般市民への意図的な攻撃はすべて国際人道法に反しており、アムネスティ・インターナショナルは、すべての当事者がそのような攻撃を直ちに停止するよう求めます。

去る6月28日未明に開始されたイスラエル軍によるガザ地区への攻撃は、7月20日時点で110人以上の死者を出し、その多くは非武装の民間人でした。また水道、発電所や橋、その他の民間のインフラに対する空爆・砲撃による被害も甚大です。国連人道調整事務所(UNOCHA)によると、電力は1日に6~8時間しか供給されず、中心地区で水道が使えるのは、1日にわずか2~3時間です。電気と水の供給不足は、住民の健康、とりわけ衛生状態に深刻な影響を与えています。食糧や医薬品も、イスラエル軍による検問所の閉鎖によってガザ地区に運搬することが困難になっています。燃料の不足は、自家発電や送水ポンプを動かすことさえできなくしています。

私たちはまた、イスラエル軍による、現在激しさを増しているレバノンに対する攻撃についても強く非難します。7月12日以来、空爆と砲撃などのイスラエル軍の攻撃により、300人以上の民間人が殺害され、数百人の人びとが負傷しました。国連機関によると、犠牲者の3分の1は子どもたちです。イスラエル軍はガザ地区への攻撃同様、レバノン国内の橋、道路、発電所、国際空港、港、民間工場などを狙った大規模な攻撃を繰り返しています。

イスラエル政府は、このようなガザ地区およびレバノンに対する攻撃は、パレスチナ武装勢力とレバノンのシーア派組織ヒズボラがそれぞれイスラエル兵を拘束し続けていること、イスラエルの住宅地域に向けてロケット弾を発射し続けていることへの対抗措置であると主張しています。例えばヒズボラは、イスラエル北部の町や村を狙ってロケット攻撃を行い、イスラエルの民間人を死傷させています。市民の生命を軽視するようなこうした攻撃は許されるべきではなく、アムネスティ・インターナショナルは、パレスチナ武装勢力とヒズボラによるイスラエルの民間人を狙ったいかなる攻撃も非難し、そのような攻撃を止めるよう双方に繰り返し要請しています。また双方が拘束されたイスラエル兵士を直ちに解放するよう求めています。

しかし、ガザ地区およびレバノンに対する民間施設を意図的に狙ったイスラエルの攻撃は、どのような状況下においても決して正当化できるものではありません。第四ジュネーブ条約は、「・・・自己が行わない違反行為のために罰せられることはない。集団に科する罰および全ての脅迫またはテロ行為による措置は禁止する」(第33条)として、「集団的懲罰」を禁止しています。また、私有もしくは公共の財産の破壊は「その破壊が軍事行動によって絶対的に必要とされる場合を除いて」(第53条)禁止することと定めており、「民間の人や物を意図的に狙った攻撃」もまた、国際刑事裁判所のローマ規程第8条(b)(ii)において戦争犯罪とされています。一部の武装勢力への抵抗・報復のために、意図的に民間人や民間施設を標的とすることは、許されない行為なのです。

去る7月上旬、小泉首相は中東各国を訪問し、同月12日にはオルメルト・イスラエル首相と、また翌13日にはパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談しました。会談の中で小泉首相は、イスラエル政府による自制を促し、パレスチナとイスラエルの早期の対話再開を求めました。同時に日本政府は、ガザ地区における水道整備事業や診療所への医薬品・医療器材などの供与として2500万ドルの支援を表明しました。

アムネスティ・インターナショナル日本は、首相が現在の事態に対して懸念を表明し自制を促したことについて、歓迎の意を表します。しかし残念ながら、ガザ地区における人道状況に改善は見られず、紛争はレバノンの地上戦にまで拡大しています。

それゆえ私たちは、日本政府に対して以下を要請いたします。

  • ガザ地区およびレバノンにおいて、民間施設を意図的に標的とした攻撃は明らかな国際人道法違反であるということをイスラエル政府に対して伝え、繰り返し明確に懸念を表明すること。
  • イスラエル側とパレスチナ武装勢力双方によってなされた人権侵害、国際人道法違反、そしてその影響に鑑み、適切かつ断固とした外交的努力を行うこと。とりわけ、全ての当事者に対して、民間人に対する攻撃を自制し、すべての当事者が国際人道法と国際人権法を尊重するように要請してください。
  • アムネスティ・インターナショナルは、レバノン、イスラエル、ガザ地区のそれぞれに、民間人および民間施設に対する攻撃、その他の国際人道法違反を調査することを目的とした国連調査団を派遣することを国連安保理が決定するよう働きかけています。日本政府は国連安保理非常任理事国として、調査団派遣にむけた外交努力を尽くしてください。派遣団は、必要な専門知識を有する中立的な調査員で構成されなければなりません。
  • イスラエル政府が占領者としての義務を果たし、ガザ地区において破壊した発電所や水道施設の復旧など、人道状況の改善のために早急な措置を講じるよう要請してください。

7月24日、米国のライス国務長官がベイルート入りし、イスラエルとの停戦合意に向けた調停を開始しました。私たちはこうした停戦に向けた取り組みを歓迎するとともに、すべての当事者による人権侵害や戦争犯罪の事実調査が行われ、市民の犠牲者に対する正義がなされるべきであると考えます。

小泉首相は、オルメルト首相との会談の際に、イスラエル/パレスチナ問題について「お互いに自制心と平和への強い希望を持って、和平への努力を続けて欲しい」と発言されました。「和平への努力」はイスラエル、パレスチナの当事者のみならず、国際社会にも強く求められています。アムネスティ・インターナショナル日本は、今まさに起きている市民の犠牲と暴力の応酬を早急に止めるために、また日本からパレスチナへの人道援助がこれから真に役立つためにも、日本政府が強い意思を持って最大限の外交努力を行うよう要請いたします。

内閣総理大臣
小泉純一郎 殿

外務大臣
麻生太郎 殿

2006年7月25日

社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
理事長 搆 美佳
東京都千代田区神田錦町2丁目2 共同ビル(新錦町)4階
TEL:03-3518-6777 FAX:03-3518-6778