ベトナム:沈黙させられた政府批判者たちの釈放を

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2007年4月24日
国・地域:ベトナム
トピック:危機にある個人
ここ数カ月の間に、多くのベトナム人弁護士、労働組合員、宗教指導者やインターネット上での政府批判者たちが拘禁、投獄されている。アムネスティ・インターナショナルは、平和的に意見を表明しただけの人びとをベトナム政府が取り締まっていることに対し、深い懸念を表明する。

ベトナム政府は4月30日の「解放記念日」に、ベトナム戦争の終結を記念して多くの囚人を釈放する。アムネスティは、情報や意見を探し、受け取り、伝達する権利を平和的に行使したこと、また集会や結社の自由を平和的に行使したことによって逮捕、拘禁、投獄されている人びとを、この2007年4月30日に、国際法上のベトナム政府の義務に則って釈放するよう、ベトナム政府に要請する。

60歳のグエン・ヴァン・リー神父は2007年3月30日にフエで行われた裁判で、刑法第88条の「ベトナム社会主義共和国に反対する宣伝を指揮している」という罪で、8年間の刑を言い渡された。神父への起訴内容は、ブロック8406の民主化運動への参加、禁止されている政治団体の創設に参加したことなどである。4名の仲間も同じ容疑をかけられて有罪となった。そのうちグエン・フォンとグエン・ビン・タンの2名はそれぞれ5年と6年の刑を言い渡され、他の女性2名はそれぞれ執行猶予つきの2年と18カ月の刑を言い渡された。また、彼女たちはそれぞれ「試験期間」という、3年と18カ月の警察による監督期間を言い渡された。

4度目の良心の囚人となったグエン・ヴァン・リー神父の裁判は1日で行われ、今月行われる予定の、政治改革や人権擁護を公に呼びかけた活動家たちの裁判の最初となった。ベトナム政府は11月にアジア・太平洋経済協力(APEC)会議を開催し、その1カ月後に米国に働きかけて同国との恒久通常貿易関係(PNTR)を達成した。そして2007年1月に世界貿易機構(WTO)に加入した。この期間、市民的・政治的権利への制限は若干緩やかになっていたが、その後、今回の弾圧が始まった。

2007年4月10日、グエン・ミン・チエット国家主席は、APECのレー・コン・フン議長が「活発で、開かれていて、安全な国というポジティブなイメージを作り上げた」という言葉でAPECフォーラムの成功を讃えた。アムネスティは、現在行われている弾圧は明らかな国際人権法違反で、この発言と正反対のイメージがはっきりと作りあげられていると考える。

最初の一連の逮捕は、APEC会議開催中に起こり、新設された統一労働者農民団体(UFWO)の4名の主要メンバーが治安当局によって連行された。2006年10月に創設されたUWFOは、ベトナム国内法で禁止されている、独立した労働組合を組織し、また加入する権利を主張している。4人は正式に起訴されていないが、国家に反対する「宣伝の指揮」(刑法第88条)に関連した容疑をかけられていると報告されている。

公に知られている一番最近の逮捕は、2007年4月21日の小説家でありジャーナリストでもあるトラン・カイ・タン・トゥイである。国が管理するメディアの報道によると、トラン・カイ・タン・トゥイは「ベトナムの社会的、政治的、経済的状況を歪めて伝え、ベトナムが人権侵害をしていると非難し、そのような記事をインターネットに載せるか、または海外の反動的な組織に送っていた」(ベトナム政府が反対活動者の女性記者を逮捕 AFP通信2007年4月23日)

3月8日に警察によって連行された弁護士レ・クォッ・ワンも、最近逮捕された一人である。彼は1年間米国で特別研究員として、台頭しつつある民主主義諸国での市民社会の役割についての研究を終え、帰国したところだった。レ・クォッ・ワンは民主活動家で、宗教と政治の自由を提唱していたが、国家治安維持法上の政府転覆罪(第79条)で訴えられており、最高刑は死刑となる。

平和的に自らの意見を表明して重罪の容疑をかけられている弁護士はレ・クォッ・ワンだけではない。他にもレ・ティ・コン・ニュンとグエン・ヴァン・ダイの人権専門弁護士2名を含む4名の弁護士が少なくとも逮捕されている。ヴァン・ダイはリー神父同様、ブロック8406の創設に関するオンライン署名の最初の署名者の一人である。前進党のスポークスマンでもあったレ・ティ・コン・ニュンは、ヘロイン密輸で起訴されていた英国人の国選弁護人に任命されていた。2006年11月の公判の数日前にレ・ティ・コン・ニュンは自宅軟禁となり、他の弁護士が訴訟を引き継いだ。レ・ティ・コン・ニュンとグエン・ヴァン・ダイはともに第88条の罪で訴えられており、誰も彼らを訪問できない状況にあると報告されている。前進党は、ベトナム共産党の独占支配を許すベトナム国内法に違反しつつも創設された数多くの野党の一つである。

5番目の弁護士、ブイ・ティ・キム・タンは土地の権利問題に取り組む活動家で、2006年11月に強制的にホーチミン市の50キロ北東にあるビエンホア精神病院に入院させられた。アムネスティは、政府が民主党での彼女の活動を罰しようとしたのだと考えている。

他にも、政治的批判者と政府に見なされた多くの人びとが自宅軟禁や監視を受け、電話線を切られ、コンピューターを押収され、あるいは政府から嫌がらせや尋問を受けている。政府は活動家の親族にも、彼らの活動をやめさせるように圧力をかけている。

リー神父やグエン・ヴァン・ダイに代表される人びとが政治的動機に基づいて起訴されたことは、批判者を沈黙させ、その他の潜在的な批判者を怯えさせ、おとなしくさせようとする政府の戦略である。アムネスティは、平和的に意見を表明したことで刑事罰に問われている人びとを含む、全ての良心の囚人を釈放することによって、ベトナム政府が国際人権法上の政府の義務を遵守するよう求める。またアムネスティは、平和的な手段で政府を批判する人びとへの嫌がらせをやめるように呼びかける。

ベトナムの刑法が国際法に反して平和的に表明された反対意見を犯罪化している事実に照らして、アムネスティは、ベトナム政府が早急に、治安に関連した多くの不明瞭な法律を改め、それらの法律を廃止もしくは国際法に準ずるように改定することを求める。

背景
表現と集会の自由の権利は、市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR、自由権規約)で保障されている。1982年から締約国であるベトナムも同規約に拘束される。しかし、平和的な手段で国家を批判する人びとが、「宣伝を指揮」したり、「民主的な自由を悪用して国家の利益を侵害」したり、また「スパイ活動」をしているとして訴えられている。

グエン・ヴァン・リー神父は1970年代から政府の宗教政策を平和的な方法で批判し、人権のより一層の尊重を提唱したために、すでに15年間近くを刑務所で過ごしている。リー神父は、2006年4月8日に開始し、平和的に政府を変革しベトナムにおける人権の尊重を呼びかける118名の民主化活動家の署名を得たオンライン署名を計画した一人であった。このオンライン署名は人びとを瞬く間に惹きつけ、ブロック8406というインターネットを基盤とした民主化運動の効果的な創出を印象付けた。

2006年11月以降に平和的な方法で批判をしたことにより逮捕されたことが判明している人びと、その年齢と所属(判明している場合):

ブイ・キム・タン 47歳 ベトナム民主党
ドァン・フイ・チュオン 21歳 UFWO
ドァン・ヴァン・ダオ 52歳 UFWO
ホアン・ティ・アン・ダオ 21歳 前進党、ラック・ホン派 
ホン・チュン 45歳 ヴィ・ダン党、ラック・ホン派
レ・クォッ・ワン  36歳 所属不明
レ・ティ・コン・ニュン  28歳 前進党
レ・ティ・レ・ハン  44歳       前進党
レ・ヴァン・シ 人民民主党
グエン・バッ・チェン 37 歳 人民民主党
グエン・ビン・タン 51歳 前進党、ラック・ホン派
グエン・フォン 32歳 前進党、ラック・ホン派
グエン・タン・ホアン 22歳 UFWO
グエン・ティ・トイエン 所属不明
グエン・トアン 人民民主党
グエン・ヴァン・ダイ  38歳 ブロック8406、ベトナム人権委員会
グエン・ヴァン・リー  60歳 前進党、ブロック8406
フアン・ヴァン・ロイ ブロック8406
トラン・カイ・タン・トゥイ 所属不明
トラン・クオッ・ヒェン    UFWO
トラン・ティ・レ・ハン 47歳 UFWO
トラン・トゥイ・チャン 所属不明

AI Index: ASA 41/004/2007
2007年4月24日

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