医療従事者に「医の誓い」を破らせる薬物処刑

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2007年10月 4日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:
トピック:死刑廃止
医師や看護師は、国家の命令で行なわれる死刑執行に、医の倫理に反して立ち会うべきではない、とアムネスティ・インターナショナルは10月4日に発表された新しい報告書で述べた。

『薬物注射による処刑―国家による毒殺の四半世紀―』と題された新しい報告書は、世界中で行なわれている薬物注射の法的および倫理的意味について考察している。

アムネスティの保健人権コーディネーターのジム・ウェルシュは次のように述べた。「医療の専門家は、患者の健康のために働くよう訓練されているのであって、国家の命令で死刑執行に関与するためではありません。医師や看護師を殺人に利用することによって起きる倫理的葛藤を解決する最も簡単な方法は、死刑を廃止することです」。

1982年以降、世界で少なくとも1000人が薬物注射で処刑された。グアテマラで3人、タイで4人、フィリピンで7人、米国で900人以上、そして、死刑執行が国家機密である中国では数千人に上る人びとが処刑された。

薬物注射による処刑では、死刑囚は一般的に3種類の薬物を筋肉に注射される。すみやかに意識を失わせるためのチオペンタール・ナトリウム、筋肉を弛緩させるための臭化パンクロニウム、そして心臓を停止させる塩化カリウムである。

チオペンタール・ナトリウムの投与量が不適切であった場合、心臓が停止する前に麻酔が切れ、心停止を起こす薬物が血管に入る際に激痛を伴うおそれがあると医師らは懸念する。もしそうなっても、臭化パンクロニウムによって筋肉が麻痺しているため、囚人は誰にもその苦痛を伝えることができない。

上記の理由から、獣医は動物を安楽死させる際にこれらの薬物を使用しない。米国で最も薬物注射による死刑執行数が多いテキサス州では、苦痛を与える可能性があるとして犬や猫への使用が禁止されている薬物が、死刑の執行に使用されている。

ジョセフ・クラークは2006年12月にオハイオ州で処刑された。この時執行の技師がカテーテルを挿入する血管をみつけるのに22分を要した。投与が始まってすぐ、血管が破れクラークの腕がはれ上がり始めた。クラークは頭を持ち上げ、「うまくいってない、うまくいってないぞ」と言った。それから処刑台はカーテンで囲われた。技師らは別の血管をみつけるのに30分かかった。

「薬物注射は、死刑につきものの問題を解決できません。その問題とは、残酷であること、取り返しがつかないこと、無実の人を処刑する危険があること、差別的で恣意的に適用されること、犯罪対策として効果的でないことなどです。政府は、医師や看護師に倫理の誓いに反する行為をさせることで、彼らを困難な立場に立たせているのです」と、ウェルシュは語った。

死刑の世界最多執行国である中国では、薬物注射による死刑執行の多くが移動式のバンの中で行なわれている。後部にある窓のない処刑室には金属製のベッドが置かれ、死刑囚はそこにくくりつけられる。医師が注射針を刺すと、警官がボタンを押し、自動注射器が致死薬物を死刑囚の血管に注入する。執行のようすは運転席の隣にあるモニターで見ることができ、必要なら録画もできる。

「医療に携わる人びとの間には、全世界共通の合意事項があります。それは、医療の専門家が、とくに医学的な技術や知識を使って死刑執行に関与することは医の倫理に反するというものです。なのに、医療従事者たちは死刑執行にかかわっています。専門機関は先ごろ、この倫理違反について強く発言しましたが、各国政府は、死刑執行に立ち会う医師たちの身元を隠そうとしています。同僚の医師たちとの摩擦から、執行に関与する医師を守るためです」とウェルシュは言った。

アムネスティは世界の指導者らに対し、死刑を廃止するよう求める。そしてその手始めとして、今期の国連総会で採決される執行停止決議を支持するよう要請する。

*『薬物注射による処刑―国家による毒殺の四半世紀―』は以下でご覧いただけます。
http://web.amnesty.org/library/Index/ENGACT500072007 (英文)

AI Index: POL 30/023/2007
2007年10月4日