スリランカ:国連人権監視ミッションの必要性

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2007年12月 9日
国・地域:スリランカ
トピック:地域紛争
アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは、12月9日のスリランカのラージャパクサ大統領来日に際し、以下の公開書簡を福田総理に送付した。

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福田内閣総理大臣殿

拝啓 

 スリランカ民主社会主義共和国マヒンダ・ラージャパクサ大統領と福田総理間の会合に先立ち並びに国連人権理事会の第6期会合の開始にあたり、ヒューマン・ライツ・ウォッチおよびアムネスティ・インターナショナル日本は、スリランカにおいて急速に悪化している人権状況に対して日本政府が緊急に行動を取るべき必要性について注意喚起したく、本書簡を送付します。
 タミル・イーラム解放の虎(LTTE)と政府軍との間の激しい戦闘の再開に伴い、民間人に対する計画的かつ無差別の攻撃が国際人道法に違反して行われています。 
 これらの民間人の安全への拡大する脅威を受けて、アムネスティおよびヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本政府がスリランカ政府およびLTTEに対して、民間人の保護の改善等の行動を取るよう求めます。 
 2007年11月の最後の2週間で、50人以上の民間人が殺害されました。このうち、20人以上の民間人が2007年11月28日のコロンボでの2回の爆撃で、他の民間人は北スリランカにおける空爆、爆撃および地雷攻撃で殺害されました。スリランカ政府およびLTTEによる、戦闘の方法および手段に関する慣習法並びに危害から民間人を保護する実行可能な全ての手段の実施等の、国際人道法に基づく義務の不履行によって、民間人の人権に対する侵害が裁きを受けずに助長されています。 
 アムネスティおよびヒューマン・ライツ・ウォッチは、強力な監視権限を付与された国連のフィールド・オペレーションを即時に設立し、紛争当事者が民間人を保護する国際法に基づく義務の遵守、並びに人道的支援組織による民間人への支援を許容することに、合意するようスリランカ政府に対して要求することを、日本政府に対して求めます。

民間人保護の欠如 
 北部および東部の民間人は、政府軍とLTTE間の戦闘により、過酷な窮状に直面しています。2007年9月以降、両紛争当事者が北部および東部において対立を深めた結果、民間人に多数の死傷者が生じ2万人以上の人々が強制退去を余儀なくされました。多くの民間人が国際人道法の明らかな違反により、死亡しました。11月27日に起きた事件では、乗車中のバンがトゥヌッカイとコッカービル間の道路で地雷により爆破され、7人の小学生を含む11人が死亡した。政府とLTTEは、この死亡事故の責任をなすり付け合い、同日、スリランカ軍はキリノチのLTTE本部付近に位置するLTTE運営の放送局である「虎の声」を爆撃しました。報道によると、同爆撃により放送局の従業員3人を含む8人の民間人が死亡しました。また、2007年12月5日にはアヌラダプラのケビディゴレワでバスが爆撃され、少なくとも15人が死亡し、23人が負傷しました。 
 北部と南部をつなぐA9高速道路の2006年8月11日の閉鎖以来、ジャフナ半島北部は、スリランカの他の地域から孤立しています。交通網の不備により同半島内の50万人以上への食料供給が引き続き限定的になっています。

強制的失踪、恣意的逮捕・拘留 
 2つの緊急事態令(2005年8月の権限法の雑則および2006年12月の特定テロ活動防止・禁止法)が現在実施されていますが、これらの法令が、逮捕および勾留を含む広範な権限を治安部隊に付与し、国際人権法および基準に違反して移動の自由を不必要に制限しています。ジャフナでは、軍隊による交通遮断と捜索が日常で、主にタミル人男性、時には女性も検挙され、身分証明書が押収される。その多くが拘留され、「捜査」目的で軍隊のキャンプに送致されます。報告によると、極めて多数の違法な殺害および強制失踪が相次いでいます。当局筋によると、2007年1月以降200人以上の民間人がジャフナ地区で行方不明になっています。 
 ジャフナでの強制失踪の多くが、政府の厳重警備地域や外出禁止時間の間で起きているという事実は、同地区における治安の第一義的責任を負う治安部隊、特にスリランカ陸軍の関与を示唆しています。国連人権理事会強制的失踪作業部会は、2007年にスリランカで発生した強制的失踪事件の件数の多さに懸念を表しています。 
 2007年11月28日に起きたコロンボ爆撃についてLTTEに容疑をかけて、2007年12月2日、スリランカ警察が1000人以上のタミル人を大規模逮捕したことを、アムネスティおよびヒューマン・ライツ・ウォッチは非難します。スリランカのメディアは、当局がバス一杯にタミル人を詰め込み、尋問のため連行したと報道しました。50人の女性を含む400人以上もの逮捕者は南部ガラ付近のブーサ・キャンプに送致されました。報道によると、同キャンプは収容人数を超えており、適切な公衆衛生施設および十分な飲料水も不足しているとされています。 
 アムネスティおよびヒューマン・ライツ・ウォッチは、スリランカ政府が、国際人権法、特にスリランカが締約国である市民的及び政治的権利に関する国際規約を厳格に遵守し、逮捕および拘留を実行することを、スリランカ当局に注意喚起するよう、日本政府に求めます。治安部隊は、スリランカ人権委員会(SLHRC)に対して48時間以内に逮捕および拘留場所について報告し、家族と被拘留者の交流を許可すべきとする2006年7月の大統領令を遵守すべきです。

国内避難民の苦境 
 2006年4月以降の戦闘により、20万人以上の国内避難民(IDP)が発生しました。家族は長期的な安全や解決策の保障もなく、避難を繰り返しています。多くのIDPが安全に対し常におそれを抱えて生きています。 LTTEは、違法な殺害および拉致を含む広範囲の人権抑圧に関与し続けています。また、報道によると、親政府系グループのカルナからの武装団が東部のIDPキャンプから子どもや若者を誘拐したとされています。 
 民間人に安全を保証する代わりに、政府は、自発的並びに安全かつ尊厳ある状態での帰郷を保証する国際基準に何度も違反して、IDPを強制的に帰郷させています。最近の週間モニタリング・レポートによると、安全その他の不安のため帰郷の意思のない何千人もの民間人の避難民がバッティカロア西部地域から「帰郷するよう強制されている」とスリランカ停戦監視団(SLMM)が、述べたといいます。

民間人の保護の緊急の必要性 
 スリランカ政府はあまりに長い間、同国内の人権状況の深刻さを否定してきました。スリランカ政府は、状況の重大性を過小評価することに労力を費やすのはなく、民間人を保護するために、真に有効な対策を実施すべき国際法上の義務を守るべきです。LTTEによる人権侵害は、政府の無策の言い訳にはなりません。 
 アムネスティおよびヒューマン・ライツ・ウォッチは、国際人権および人道法の重大違反に対応するためには強力な監視権限を付与された国連のフィールド・オペレーションが緊急に必要であると考えています。現場における国連の存在は、人権をめぐる状況のさらなる悪化を抑制するだけでなく、紛争当事者による侵害を記録し監視することにより、民間人を保護するためのメカニズムとなることができます。アムネスティおよびヒューマン・ライツ・ウォッチは、ラージャパクサ大統領との会合および国連人権理事会の第6期会合の再開にあたっては、同国の人権状況の深刻さを事実として認めるよう日本政府に要請します。人権理事会はこの18カ月間に渡りスリランカの危機的状況につき何度も警告を受けていますが、何の対応もしていません。 
 アムネスティおよびヒューマン・ライツ・ウォッチは、人権理事会および総理とラージャパクサ大統領との間の会合において、日本政府が、スリランカ政府およびLTTEに対して、以下のとおり、民間人保護を改善するよう要求することを求めます:

1. 国際人権基準および国際人道法の遵守を確保すること
2. 強力な監視権限を付与された国連のフィールド・オペレーションを受け入れること。スリランカにこうしたミッションを設置するようスリランカ政府が人権高等弁務官事務所に要求するよう日本政府は要請すること。

 私たちは、こうした緊急課題に対する総理の関心に感謝し、本書簡で提起されたさまざまな問題についてさらなる議論を重ねるため、総理との会合を希望します。

敬具

2007年12月9日

ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局長
ブラッド・アダムズ

アムネスティ・インターナショナル日本事務局長
寺中誠


(写し)高村正彦外務大臣宛て

*書簡の原文(英語)はこちらからご覧いただけます。

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