モロッコ/西サハラ:懲戒処分に直面する人権擁護弁護士

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2008年7月23日
国・地域:モロッコ/西サハラ
トピック:危機にある個人
アムネスティ・インターナショナルは、広く人望のある弁護士であるタウフィク・ムサエフが、人権擁護活動に関連し、彼の活動を抑止し邪魔することを意図していると思われる懲戒処分を受ける可能性があることを憂慮している。

ムサエフ弁護士は、弁明のために、首都ラバトにある控訴院に7月24日に出廷する予定である。彼は、捜査中の事件に関して不適切な発言をしたとして起訴されている。もしも、ムサエフ弁護士が人権活動のために標的にされているのであれば、起訴を直ちに取り下げるようアムネスティは求める。

ムサエフ弁護士は、法律職の行動を規律する法令第1.93.162、特にその第12条と36条に違反したとして訴えられている。これらの規定は、「弁護士は法令、風紀、国家の安全、公共の秩序に反する発言・出版を一切しては」ならないとしており、「捜査中の事件の秘密を守り、事件記録から得た情報を漏洩してはならず、公開調査に関する記録、書類、手紙の公表」が禁じられている。今回の起訴は、2006年8月19と20日にアナハル・アルマグリビ紙が掲載した、「アンサル・アルメディの弁護士、事件は捏造されたと語る」と「この事件は捏造だ」と題された2つの記事であり、ムサエフ弁護士自身が語ったとされるコメントが掲載されている。

この記事はムサエフ弁護士とのインタビューを受けて出されたもので、インタビューの中で彼は、依頼人の一人バドゥル・ブジキが「テロ」容疑者として拘禁中に拷問ないし虐待を受けたことに懸念を表していた。ムサエフ弁護士は、また、ブジキ被疑者がジャマアート・アンサル・エルメディ事件に関与したとする当局の法的根拠に疑問を呈していた。モロッコ内相は、この事件を武装集団によるテロと断じているが、事件は2006年8月、ジャマアート・アンサル・エルメディのメンバーとみなされた50人以上が逮捕され、観光地、軍事施設、外国施設へのテロ攻撃を計画したとして起訴されたものである。

事件は捏造だとムサエフ弁護士が発言したと、アルマグリビ紙の記事には書いた。しかし同弁護士はこれを否定し、記事が出て数日後、新聞社に書簡を送り、真偽を明確にするよう求めた。新聞社が彼のコメントを捻じ曲げて加筆したことに対して、彼自身に法的責任を負うものではないと主張した。

それにもかかわらず、検事総長はムサエフ弁護士を弁護士の倫理規定違反で訴え、懲戒処分を求めた。この訴えは、法律職を所管するラバトの弁護士会の評議会に付託された。2006年10月3日、評議会は、ムサエフ弁護士は捜査中の事件に関する秘密情報を漏洩してはいないとの結論を下した。さらに評議会は、新聞が誤解を招く表現を使って同弁護士のコメントを報道したことも確認した。

2006年11月9日、同評議会の決定に対し、検事総長はラバト控訴院に控訴し、法律職倫理法第60条に基づき、警告、戒告、3年以下の停職または弁護士資格剥奪のいずれかの懲戒処分をムサエフ弁護士に科すよう求めた。

アムネスティは、ムサエフ弁護士が人権弁護士であることを理由にこのような懲戒処分の訴えを受けていることを懸念している。ムサエフ弁護士は多くの「テロ」関連の被疑者や被告人の弁護に携わり、捜査過程で蔓延する拷問や虐待、公正な裁判を受ける権利が無視される状況などを世論に公表し批判してきた。

弁護士の役割に関する国連の基本原則は、弁護士が人権に関する問題について自由に発言できることが重要であると明言している。同第14原則では、「弁護士は、依頼人の権利を守り、法の正義を促進する上で、国内法および国際法で認められた人権尊重と基本的自由を追求するとともに、いかなる時も法および公認された基準と法律専門家の倫理に則り、自由かつ忠実に活動する」と定めている。また同第23原則では、「弁護士は、他の一般市民と同様、表現の自由の権利を有する・・・・とりわけ、弁護士は法、法の執行、人権の擁護と促進に関する公の議論に参加する権利を有している」と定めている。

アムネスティは、人権侵害に関わる事件など、担当する事件について意見を表明した弁護士に対する妨害行為は、弁護士の役割およびその職務を保護すべき国家の義務に反すると考える。アムネスティはモロッコ政府に対し、国際諸基準に従い、妨害行為や嫌がらせから弁護士を保護するよう求める。国連の弁護士の役割に関する基本原則の第16原則は、「各国政府は、認められた職務上の義務、諸基準および倫理に従った弁護活動に対して、弁護士が起訴、行政的制裁、経済的その他の制裁を受けることがないように政府は保証しなければならない」と定めている。

背景:
2003年5月に発布されたモロッコの「テロ」対策法は、「テロ」容疑を受けた人びとの人権を十分に保護していない。この法律は「テロ」事件における無令状での警察拘禁期間を12日まで延長し、弁護士と被疑者の接見を制限している。このために被疑者は拷問や虐待その他をより受けやすい状態になっている。数百人にのぼるイスラム教徒やイスラム教徒とみなされた人びとが、ここ数年にわたって「犯罪組織」に所属したという容疑や、暴動を計画または実行したという容疑で拘禁されている。多数の人びとが拷問や虐待により引き出された供述によって有罪とされ、長期刑の判決や、少なくとも12件で死刑判決を受けた。2005年以降、拷問その他の虐待などの行使はなくなったようだが、モロッコ政府はこうした事件の責任者を処罰していない。拷問その他の虐待をはじめとする不服申立てが出された事件の多くは、捜査が行われなかったか充分に捜査されないまま打ち切られた、あるいは加害者が起訴されないままである。

アムネスティ発表国際ニュース
2008年7月23日
AI Index: MDE 29/012/2008

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