「アムネスティ・レポート2009」発表:経済危機の下に置かれた、人権をおびやかす時限爆弾

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2009年5月28日
[国際事務局発表ニュース]
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(ロンドン)「世界は今、人権の危機が次々と連なった、社会的、政治的、経済的な時限爆弾の上に乗っているのです」。アムネスティ・インターナショナル事務総長アイリーン・カーンは、本日、「アムネスティ・レポート2009 世界の人権」の発表記者会見でそのように述べた。

「経済危機の下には、人権危機という爆弾が置かれています」と、事務総長は続けた。「経済の下降は、人権侵害を悪化させ、人権侵害から注意をそらし、新たな問題を引き起こしています。治安の名の下に人権は踏みにじられてきました。現在は、経済再建の名の下、後方に追いやられています」

「世界には、地球規模での人権への新たな取り組みが必要です。単なる紙の上の約束ではなく、各国政府の責任感を持ったかかわりと具体的な行動こそが、この人権の時限爆弾を除去できるのです。世界の指導者たちは、経済に投資するのと同じくらいの決意を持って、人権に投資しなければなりません」

「膨大な数の人びとが、安全や正義、そして尊厳を踏みにじられ苦しんでいます。この危機は、食料不足、失業、飲料水の不足、土地や住居の欠乏などですが、これはまた、不平等や外国人嫌悪、人種差別が世界中に広がる中で起きた貧困と差別、暴力や抑圧でもあるのです」。アイリーン・カーン事務総長はそのように語った。

・ ブラジル、メキシコ、インドといった国々では、経済成長にも関わらず、社会の周辺に追いやられた人びと、先住民族の人びとは、人間らしい生活を送るための基本的な権利すら認められてこなかった。
・ スラムや農村地帯の数十万人の人びとは、経済発展のためという名目で強制立ち退きの被害にあった。食料価格の高騰はさらなる飢餓と病気を引き起こした。
・ 特に、ビルマ(ミャンマー)、朝鮮民主主義人民共和国、ジンバブエの政府は、食料を政治的武器として利用した。
・ 女性に対する差別と暴力は、相変わらず続いた。
・ 移住労働者の増加に呼応して、受け入れ国や通過国は、欧州連合の主導の下、モーリタニア、モロッコ、リビアなどの政府と示し合わせ、移住労働者の締め出しのための規制策をさらに強化した。

「社会不安、政治的暴力の兆候が増大し、不況がさらなる抑圧を引き起こす危険が大きくなっています」。アイリーン・カーン事務総長はそのように語り、チュニジア、エジプト、カメルーン、その他のアフリカ諸国では、経済、社会、政治状況に対する抗議行動に向けて、各国政府が手厳しい対応をしていると指摘した。

「開放された経済が必ずしも開放された社会をもたらすわけではないということを、中国とロシアは証明しています。昨年、世界のあらゆる地域で、人権擁護活動家、ジャーナリスト、法律家、労働組合役員、その他の市民活動のリーダーたちは、嫌がらせや攻撃を受け、さらには殺害されました。しかも、その犯人らは裁きを受けることもありませんでした」

世界の指導者たちは、世界経済を回復させることには焦点をあわせているが、大規模な人権侵害を発生させている恐るべき紛争を放置している、と事務総長は語った。

「ガザからダルフールにいたるまで、そしてコンゴ民主共和国東部からスリランカ北部にいたるまで、紛争の犠牲者はすさまじい数に上りましたが、あきれたことに国際社会の反応は生ぬるいものでした。ソマリア沖から海賊を撃退するために莫大な資源が投下されていますが、その国の民間人が犠牲になっている武器の流入を止めるための方策は何らとられていません。アフガニスタン、パキスタンでは、軍事行動が増強されていますが、人権や紛争の危機に対する人道援助は抑えられています」。アイリーン・カーン事務総長はそのように語った。

「一方の危機を無視してもう一方だけに注目することは、両方を悪化させます。各国政府が貧困を生み、深刻化させる弊害に対処し、また、新たな人権侵害を生む武力紛争を解決しようとしなければ、経済復興は持続的なものにも、公平なものにもならないでしょう」
 
「G20という新たなリーダーシップには、これまで人権にまともに取り組まなかったという悪い過去があります。人権侵害や、美辞麗句ばかりで行動を伴わない態度、他国に対しては人権を口にしながら自国内ではそれを無視する態度、あるいは同盟国の責任が問われないようにかばう行為。こういった状態では、G20全体が人権についてリーダーシップを発揮するという信頼を勝ち得ることはできません」

アムネスティは、人権に対して新たに地球規模で取り組む際に「選り好み」をやめるべきであると警告する。世界の指導者たちが、人権における自分たち自身の汚点と二重基準に立ち向かうことができなければ、その指導力は信頼できるものにも、効果的なものにもならないだろう。

「私たちは、オバマ大統領がグアンタナモの閉鎖と拷問をやめると決意したことを歓迎します。同時に、私たちは、責任者を裁きにかけるよう要請します。説明責任は世界の安全と米国の道徳的権威を強化こそすれ弱めることはないのです」

人権の危機が今直ちに変化しなければならないという必要性を作り出したと述べつつ、アイリーン・カーン事務総長はアムネスティの新しい国際キャンペーンである「人間の尊厳キャンペーン」の開始を発表した。これは貧困を生み深刻化させる人権侵害と闘う取り組みである。

「この新しいキャンペーンをはじめるにあたり、私たちはまず米国と中国に対して要求します。米国は経済的、文化的、社会的権利の考え方を認めておらず、中国は市民的、政治的権利を尊重していません。両政府はすべての人びとのためのすべての人権を認めなければなりません」

「国際的な問題を解決するには、人権に関する国際的な基準によって支えられるべきです。世界の指導者たちは、まず自らがその範を垂れるべきです」

編集者への注:
1, アムネスティ・インターナショナルの世界の人権状況に関する年次報告書「アムネスティ・レポート2009」は、2008年の1月から12月までの世界157カ国について報告している。その序文では、経済危機の影響と人権の進展について分析している。地域概況では剥奪、排除、不安定、人びとの声の抑圧など例に注目している。

2, アムネスティ・インターナショナルの「人間の尊厳キャンペーン」は以下のことを求める。

・ 貧困の中に暮らす人びとが権利を主張できるようにエンパワーすること。

・ 政府と経済主体による人権侵害に対する説明責任を求めること。

・ 貧困を根絶するための取り組みの中で人権を中心に据えること。

<特に取り上げるテーマ>
・ スラム
・ 強制立ち退きをやめさせること。
・ 妊産婦の死亡、性と生殖に関する女性の権利を要求すること。
・ 大企業が人権侵害に対し説明責任を果たすこと。
・ 人権を尊重し、米国が国連の社会権規約を批准し、中国が自由権規約に批准するよう求めること。

アムネスティ発表国際ニュース
2009年5月28日