ミャンマー(ビルマ):国連人権理事会での報告に向けた岡田外務大臣宛公開書簡

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2010年3月 4日
国・地域:ミャンマー(ビルマ)
トピック:国際人権法
外務大臣 岡田克也 殿

国連人権理事会第13会期(2010年3月1~26日)におけるビルマ(ミャンマー)報告に向けて

公 開 書 簡

拝啓時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。

来る3月15日、国連人権理事会において、ビルマ(ミャンマー)特別報告者から同国の人権状況についての報告が予定されています。

アムネスティ・インターナショナルはこの機会に、人権理事国である日本がビルマの人権状況の改善に向けて、人権理事会で積極的な役割を果たすよう要請します。

これまでもアムネスティは、ビルマの人権状況の危機について、日本を含め国際社会に向けた報告を再三行ってまいりました。しかし今回は、これまでにない極めて重要な時期です。軍政はその日程をいまだ明らかにしていませんが、今年後半に、20年ぶりの総選挙および地方選挙が予定されています。前回の選挙では、国民民主連盟(NLD)が圧勝したにもかかわらず、軍がこれを無視し続けてきたことは周知の通りです。

すでに軍政は、2008年の新憲法によってその基盤固めを済ませているともいえます。新憲法は軍政の統治を保証するもので、例えば、外国籍の家族を持つ者は議員になれない(アウンサンスーチーさんは息子が英国籍です)、軍部が議席の4分の1を保有し憲法改正に拒否権を行使できる、治安担当大臣が軍を掌握する、軍の統制に関しては軍内部で決定する、などの条項が規定されています。このような憲法草案には、NLDをはじめ、少数民族を含む多くの人びとが反対していました。しかし、2008年5月、同国がサイクロンに見舞われた1週間後に、甚大な被害と混乱のなかで強硬に国民投票が行われ、「投票率98.12% 賛成票92.48%」という公式発表のもとに承認されました。さらに、このような承認のプロセスに反対した少数民族の活動家たちが多数逮捕・投獄されました。中には超法規的に処刑された人もいます。

アムネスティは、今回のビルマ総選挙が、軍政による恣意的な手段で進められようとしていることを危惧しています。軍部は少数民族の武装勢力を選挙前に壊滅させるか、国境警備隊などの正規軍に組み込もうとしており、市民権を与えていないロヒンギャにも働きかけ、その票を取り込もうとしています。国軍とその同盟軍による共同攻撃により、2009年だけでカレン5000人、シャン1万人、コーカン3万人が避難民となり、コーカンの民兵組織であるMNDAAは壊滅させられました。NLDは今回の選挙の不公正さを指摘し、不参加を表明しています。他の少数民族の政党はまだ明白な表示をしていません。これは、前回の選挙では選挙法が投票日の20カ月前に公布され、多くの政党が結成され選挙に参加したのに対し、今回の選挙では選挙法がいまだに公布されていないためでもあります。

アムネスティは、アウンサンスーチーさんとNLD、そして少数民族出身者を含め、さまざまな人びとからなる政治団体すべてに対し、公正な選挙への参加が保障されることが極めて重要であると考えます。

国連はビルマ軍政の人権侵害に関する勧告を長年続けてきました。非暴力に徹した2007年10月の「サフラン革命」を当局が武力で弾圧する中で、日本人ジャーナリスト長井健司さんが軍に殺害されたことは記憶に新しいところです。当時の日本政府は軍政に対し非難声明を出しましたが、それが真摯に受け止められることはありませんでした。

ビルマの総選挙を今年後半に控えた今、アムネスティは、日本政府がビルマにおける人権保障のために確固たる行動をとるよう強く訴えます。

とりわけ、国連人権理事会におけるビルマの人権状況の審査において、以下を要請いたします。

(1) 国連人権理事会がビルマ政府に対して以下の点を求めるよう、日本政府から各国への働きかける  こと。

 ・ 軍政がビルマの人権状況に関する国連特別報告者に全面的に協力し、人権条約諸機関の勧告を実施すること。 ・ 2011年はじめに予定されている国連人権理事会の普遍的定期審査(UPR)に建設的に取り組むこと。 ・ 総選挙に向けて、集会・結社の自由への制限を解除し、平和的な政治活動に対する処罰を抑制すること。 ・ 平和的な政治活動、民族、宗教のみを理由に拘束された政治囚を、即時無条件に釈放すること。 ・ 選挙キャンペーンと開票状況を取材することを目的とした海外ジャーナリストを含む独立メディアへの規制を解除すること。 ・ 拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約、国際刑事裁判所規程など、国際人権諸条約とその選択議定書を批准し、実効的に国内で実施すること。

(2)少数民族の置かれた人権状況への懸念を表明すること。

長きにわたり、ビルマの人びとは軍政による人権抑圧に苦しみ続けてきました。今年の総選挙という重大な機会を逃すことなく、日本政府が人権を基盤とした新たな外交姿勢を示すことを願っております。

敬具

2010年3月4日
社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
事務局長 寺中 誠

同封資料:アムネスティ・インターナショナル報告書
THE REPRESSION OF ETHNIC MINORITY ACTIVISTS IN MYANMAR

複写送付:外務省総合外交政策局人権人道課外務省アジア大洋州局南東アジア一課

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