日本:政府は差別の実態を直視し、具体的対策を

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2010年3月19日
国・地域:日本
トピック:国際人権法
アムネスティ・インターナショナル日本は、3月17日、国連人種差別撤廃委員会が日本報告書審査にともなう総括所見を発表したことを受け、日本政府がただちに、勧告の完全実施に向け必要な措置を講じるよう要請する。

同委員会による日本報告書審査は、2001年に行われた審査に続き、2度目の審査である。

委員会は審議の中で、朝鮮学校の「高校無償化」からの排除など、日本国内において現在起こっているさまざまな事情にも言及した。今回の総括所見は、そうした社会情勢も適切に反映したものとなっている。

総括所見は、勧告の冒頭で、同条約の履行が極めて不十分であると指摘し、委員会の勧告を実施するよう強く求めている。これは、前回の勧告を日本政府がきちんと受け止めず、日本社会の人種差別撤廃が進んでいないことの表れである。

パラグラフ12において、日本の人権擁護法案について触れ、同法案の成立が遅れていることに懸念を示し、国内人権機関の設置に関する国際基準を示した「パリ原則」に沿った形での国内人権機関設置を再度訴えている。この国内人権機関は、現代的な差別の形態についても扱うことができるものとするよう求められている。

日本の国内立法は、差別の禁止を明確に規定していない。そのため、差別行為、嫌悪発言、公人による差別的な発言の流布、扇動が横行しているのが現状である。パラグラフ13では、人種的偏見に満ちた思想を流布、扇動することは、表現の自由の名の下に認めてはならない行為であるとして、日本政府に対し、人種的偏見の流布、扇動を禁じる条項についての留保を撤回するよう求めている。そして条約の趣旨に従い、包括的な差別禁止法を制定し、刑事上、民事上の責任を明らかにするよう要請している。

特に、国会議員や閣僚、地方自治体の首長をはじめとする公人による差別発言については、直ちに禁止規定を設けるとともに、人種差別による被害が生じた場合の国内裁判手続による救済手段について、法の明文で規定するべきであるとした(パラグラフ14)。さらに、政府に対し、そのような差別的発言を、公人だけでなく、一般の私人間でも防止するため、必要な措置を講じるよう要請している。

このような強い勧告は、日本において公人が女性や特定のマイノリティ集団に対する差別発言を繰り返しており、それらに対して司法を含めた救済措置がきわめて不十分であるという委員会の認識の表れであると言える。

また、パラグラフ18では、戸籍制度を利用した雇用、結婚、入居差別に対して、刑事罰を含めた取り扱いを求め、同時にプライバシーの保護を勧告した。さらに続けてパラグラフ19では、被差別部落出身者への差別に取り組む体制の整備を求めた。

パラグラフ20では、アイヌ民族について、国連先住民族権利宣言にもとづく権利の保障体制の構築を求めたほか、ILO第169号条約(独立国における先住民族及び種族民に関する条約)の批准が勧告された。さらに、パラグラフ21では、沖縄固有の言語や歴史、文化、伝統に対する政府の認識が不十分であること、そして沖縄の人びとが経済・社会・文化的権利について今も差別を受けていることに懸念を表明した。そして、沖縄の人びとの諸権利を保障するための立法や政策を取るよう求めた。

委員会はパラグラフ23において、難民申請者に対して国際水準に合致した難民申請手続を確保し、公共サービスの平等な享受と必要な医療、生活保障を受ける権利を保障するべきであるとしている。また、何人も生命や健康に深刻な被害が及ぶ可能性が高い地域に送還されない権利を保障されるべきであると勧告している。

委員会はまた、日本政府が個人通報制度を規定した条約第14条の受託宣言を行うことを求めている(パラグラフ29)。千葉景子法務大臣は、昨年9月の就任記者会見において、国際人権条約の個人通報制度への加入に取り組みたいと表明したが、その後、加入に向けた動きは進んでいない。日本政府は、速やかに個人通報制度への参加を進めるべきである。

今回、日本のメディアが広く報道したのは、教育の分野においての勧告であった。委員会は、パラグラフ22において、アイヌ民族やその他の民族の子どもたちが、彼らの母語による教育を十分に受けられていないことに懸念を表明し、外国籍の子どもたちに対する教育に差別的な取り扱いがあってはならないことを強調した。さらに、外国籍の子どもたちにとどまらず、多様な教育機会が保障されるべきことが指摘され、そのための検討を進めることが求められた。その上で、ユネスコの「教育における差別待遇防止条約」への加入が勧告された。

教育の問題に関連して、委員会は去る3月16日に衆議院を通過した「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」案の問題にも触れ、鳩山内閣が、朝鮮学校高級部をその適用対象から当面除外しようとしている動きに懸念を示している。現在、鳩山内閣は、第三者機関を設置して教育内容を確認するまで無償化対象に含めないとしているが、政治家からの働きかけによって教育に関わる内容に差別を設けることは、条約上許される施策ではない。当局はただちに朝鮮学校高級部について高校無償化の対象に含めるべきである。

朝鮮学校高級部の無償化対象からの排除は、現在日本社会を覆っている排外主義と関わりがある。朝鮮学校初級部などへの嫌悪発言も、これと連動している。委員会はそうした差別行為を非難しつつ、パラグラフ26では、メディアの状況、とくにテレビ、ラジオ放送において人権の視点が十分に統合されているかについての懸念を表明した。その上で、差別を撤廃するために、寛容や人権の尊重を目的として掲げた一般社会向けの教育や啓発活動に力を注ぐとともに、国籍を問わず、マイノリティ集団の問題について、メディアでの適切な報道を保障するよう求めた。また、人権教育を向上させ、人種差別やそれにつながる偏見を克服するためにメディアが果たす役割についても特段に注目するよう勧告した。こうしたメディアの役割を果たすためには、情報や報道に携わる人びとの十分な理解と協力が必要である。

日本政府は、9年ぶりとなる今回の勧告が指摘する問題から目をそらしてはならない。アムネスティ日本は、政府が差別と闘う姿勢をより明確にし、そのことを具体的な法整備などによって示すよう、日本政府に要請する。

アムネスティ・インターナショナル日本声明
2010年3月19日

注:
勧告の全文(英語)は以下からダウンロードできます。
http://www2.ohchr.org/english/bodies/cerd/docs/co/AdvanceUnedited_Japan.doc

*勧告はこのほか、排外主義に対する取り組みとして、パラグラフ24で、公衆浴場や商業施設、宿泊施設など、公共に開かれた場所への立ち入りについて、人種や国籍の異なる人びとに対して拒否しようとする行為を犯罪化するよう求めている。またパラグラフ25で、差別禁止に向け、マイノリティの文化、歴史についての教育に力を入れるよう求めている。

*さらに、今回の総括所見では、パラグラフ12(国内人権機関の設置)、20(アイヌ民族の権利)、21(沖縄の人びとへの差別)について、一年後に勧告の履行状況を報告するフォローアップ手続を求めている。これは、委員会がこれらの項目について早急な改善や取り組みが必要であると判断したことを示しており、日本政府は速やかに勧告に沿った政策を実施すべきである。