フィリピン:マギンダナオ大量殺人への対処で司法制度に懸念

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2010年4月21日
国・地域:フィリピン
トピック:
2009年11月のマギンダナオ大量殺人事件への関与で訴追されているアンパトゥアン一族の主要メンバー2人の起訴を国政選挙の3週間前に取り下げることは、法の正義や人権よりも政治的なかけ引きを優先することになる。アムネスティ・インターナショナルはそのように述べた。

4月17日土曜日に司法省が下した、ムスリム・ミンダナオ自治区知事のザルディ・アンパトゥアンとマギンダナオ州副知事代理のアクマド・アンパトゥアンの起訴取り下げの決定は、主に2人が事件当時マギンダナオにいなかったというアリバイに基づくものであった。

しかし、彼らが大量殺人事件の際にその場にいなかったということは重要なことではない。2人は直接的な関与ではなく、共謀罪で訴追されているからだ。司法長官が行政官としての決定を下したタイミングとやり方が、大統領に任命された司法長官がなぜ介入したのか、その理由について様々な疑念を呼んでいる。

ジャーナリスト33人を含む63人が殺害された、フィリピン史上最悪の選挙前の暴力であるマギンダナオでの大量殺人は、同国の人権状況に世界の注目を集めた。被害者らは、州知事選立候補者の資格証明書の提出に向かう途中で武装集団に待ち伏せされ、殺害された。

アルベルト・アグラ司法長官代理は、起訴取り下げの判断をしたのは、起訴するに相当な理由がないことによるものであり、よってこの大量殺人事件の捜査資料から2人の名前を削除すべきであると述べた。しかし、政府の検察調査委員会は、大量殺人事件において複数の人物による犯罪実行の申し合わせがあったとする説を追究しており、2人の容疑者は事件に関与するために犯行現場にいる必要はなかったとしている。

また検察当局も、メディアを通じて初めて司法長官の決定を知ったことに不満を表明した。検察当局は次のように述べている。

「被告人に関して私たちが持っている証拠、私たち一人ひとりの良心、善悪の観念、正義と不正義の考えからすれば、アグラ司法長官の命令に従うべき余地はどこにもない・・・。容疑者に政治的影響力がある場合、刑事司法制度が無力なものになってしまうという懐疑的な考えを一般大衆は長い間抱いてきたが、今回の決定はその疑念をなおさら確信させてしまうのではないかと、私たちはたいへん危惧している・・・。私たちは、特権を持つ容疑者が免責を受けることに対しては、沈黙で応えることはないだろう」

マギンダナオ大量殺人によって、フィリピン政府はこれまでよりさらに、国際的な監視の目にさらされるようになっている。今まさに、この事件の処理を通して法の正義が達成されることを立証する、その責任を負っているのは司法省と裁判所である。

2004年の投票では、不正選挙の疑惑があり、特にマギンダナオ州では地方政治家の命令で民兵組織や武装集団が拉致や国際法違反の殺人を行ったことが知られており、来たる選挙に重苦しい影を落としている。5月に迫った選挙に当たりフィリピン政府は、政治的利益のための人権侵害に対する免責を容認することはない、ということ身をもって示すべきである。

マギンダナオ大量殺人は、地方政治家とその私的武装集団が、自らの政治的利益を高めるために白昼堂々と50人以上の人びとを殺害するということが実際にあるということをはっきりと示す事件であった。

フィリピン政府は、国際人権法に則ってその責務に従い、人権侵害の被害者とその家族に対して効果的な救済処置を保証するとともに、免責を排しなければならない、とアムネスティ・インターナショナルは述べた。

追加説明:
当初、マギンダナオ大量殺人事件は地方裁判所が担当していた。フィリピンの法律の下では、地方裁判所は司法長官の決定を尊重するか、もしくは政府の独立した機関として独自に司法権を行使することができる。 

フィリピン法においては、人を訴追するために要求される証拠の程度は、「相当の理由」があるかどうかであり、検察官によって行われる予備調査を通して判断される。検察官が相当の理由があると認めると、事件は裁判所に付される。その後、証拠の価値を評価し、被告人が有罪か無罪かの判断を下すのは裁判所の責任である。

アルベルト・アグラ司法長官代理は、航空機の搭乗名簿と電話代請求書、目撃証言に基づいて、大量殺人事件に関するアンパトゥアン家のザルディおよびアクマドに対する起訴の取り下げを命じた。2人の容疑者が大量殺人の計画に参加していたという、アンパトゥアン一族の元私兵メンバーの証言など、他の証拠がそろっているにもかかわらずであった。

アグラ長官は2010年2月に現在の職務に就いた。彼は2004年の大統領選ではアロヨ大統領の選挙弁護士であり、また2006年の大統領に対する弾劾裁判の際には私的法律顧問であった。

大量殺人事件の容疑者として、これまでに197人の名前が挙がっている。メディアの報道によると、4月13日現在、59人の容疑者が政府施設に拘置されている。内訳は、警察官47人と民兵2人、アンパトゥアン一族数人である。また、メディア報道によれば、これ以外に「民間志願兵組織」所属の民兵97人と警官13人、兵士4人、アンパトゥアン一族13人、その他の者が容疑者と見なされており、この者たちはまだ捕まっていないということである。

アムネスティ発表国際ニュース
ASA 35/005/2010
2010年4月21日
 

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