ヨーロッパ・中央アジア地域:信仰を表明したために、差別されるイスラム教徒

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2012年4月27日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ヨーロッパ・中央アジア地域
トピック:
欧州諸国の政府は、イスラム教徒に対する差別をなくすために、とくに教育と就業面におけるイスラム教徒への否定的な考え方や偏見を克服する、積極的な取り組みをすべきである。

アムネスティ・インターナショナルは24日、『選択と偏見:欧州におけるイスラム教徒への差別』と題した報告書を発表した。本報告書は、欧州において、宗教がらみの差別やイスラム教徒についての考え方が、いかに就業や教育面などで、彼らの生活に影響を与えているかを明らかにしている。

「イスラム教徒の女性は、独自の伝統的な衣装、たとえば頭にスカーフを着衣しているという理由だけで、仕事につくことを拒否されます。また、イスラム教の女子生徒は、同じ理由で学校の普通の授業への出席を認められません。男性は、イスラム教を思わせるあごひげを生やしたために、解雇されることもあります」。アムネスティの差別問題に関する専門官、マルコ・ペロリーニはこのように述べた。

「政党や官僚たちは、偏見をなくす努力を怠り、票集めのために偏見を許してしまっているのです」

本報告書はとくに、ベルギー、フランス、オランダ、スペイン、さらにスイスといった、アムネスティがすでに問題があると指摘した国々に着目している。これらの国々では、礼拝の場所を制限し、顔全面を覆うヴェールを禁止するなどしている。また本報告書は、各国の個別的差別ケースを多数取り上げている。

「宗教的、文化的表現や服装を身に付けることは、表現の自由としての一つの権利です。宗教・信条の自由という権利でもあり、これらの権利はどのような信仰に対しても、平等に認められるべきです」とペロリーニは主張する。

誰もが、自分の文化や伝統、どのような宗教を信じているのかを表現する権利がある。逆に、何人も特定の方法への圧力を受けたり、強要されたりしてはならない。特定の服装を全般的に禁止することは、自分の意志で特定な服装を着るという権利を侵害する。これは、正しいやり方ではない。

報告書は、就業上の差別を禁じる立法措置が、ベルギー、フランス、オランダでは、適切に履行されていないと強調している。雇用者は、宗教的、文化的表現が、顧客や同僚のそれと合わないとか、会社のイメージ、会社の「中立性」と相反するところがあるという理由で、差別を認めてきたのである。

これは、「業務上とくに必要とする場合に限り、就業上の異なった処遇を認める」とするEUの反差別法に直接、抵触することになる。

「就業上の宗教や信条を理由とした差別を禁じたEUの法律は、ヨーロッパ全体には浸透していないようだ。イスラム教徒の失業率は高く、中でも外国出身のイスラム教徒の女性はとくに高い」とペロリーニは述べている。

フランスでは 2009年に、市民権を持つ女性の就業率が60.9%だったのに対して、国内のモロッコ人女性は25.6%、トルコ人女性は14.7%であった。2006年オランダは、少数民族出身以外の女性の就業率が56%だったのに比べ、トルコやモロッコの出身女性は、それぞれ31%と27%であった。

過去10年間に、イスラム教徒の生徒はスペイン、フランス、ベルギー、スイス、そしてオランダを含む多くの国で、学校で頭を覆うスカーフなど宗教的、伝統的服装を身に付けることを禁じられてきた。

「学校で宗教的、文化的表現や服装を制限することは、どのような制限であれ、個々に制限する必要性がどれだけあるかを、よく検討すべきです。全般的な禁止は、イスラム教徒の女子生徒が教育を受ける権利を逆に危うくし、表現の自由と信条を表明する権利を侵害することにもなりかねません」とペロリーニは述べた。

礼拝の場所を設けることは、宗教と信条の自由の権利の核心を構成する。にもかかわらず、欧州のいくつかの国々では、その権利が制限されている。この権利を守り、尊重し、実現していくことは国家の義務であるにもかかわらず、果たされていない。

2010年以来、スイスの憲法はイスラム教徒を特定の標的として、(ミナレットと呼ばれるイスラム教寺院に特有の)尖塔の建築を禁止している。このような法律は、反イスラム教的な固定観念を暗に前提としていて、国際的な義務を尊重するというスイスの約束に反するものである。

スペインのカタロニアでは、イスラム教徒は、今ある礼拝の場所が手狭で、すべての信者を収容できないので新しいモスクを建築する要請を出した。しかし、その願いは、カタロニアの伝統や文化を尊重する目的にそぐわないとして反対され、彼らは野外で礼拝しなければならなくなっている。これは、適当な場所で集団的な礼拝を行う権利も含めた宗教の自由に反するものである。

「欧州の多くの国々では、イスラム教そのものは差支えない、イスラム教徒がとくに目立たなければいい、という世論が趨勢を占めている。このような人びとの姿勢が人権侵害を生む土壌であり、これをなくすための対応が必要です」とペロリーニは述べた。

▼報告書『選択と偏見:欧州におけるイスラム教徒への差別』(英文)
http://www.amnesty.org/en/library/asset/EUR01/001/2012/en/85bd6054-5273-4765-9385-59e58078678e/eur010012012en.pdf

アムネスティ国際配信ニュース
2012年4月23日