パキスタン:ベーラム・カーンの死刑執行停止に関する緊急の要請

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2012年6月12日
[公開書簡]
国・地域:パキスタン
トピック:死刑廃止

アムネスティ・インターナショナルは、パキスタンのザルダリ大統領宛てに、ベーラム・カーンの死刑執行の中止、および死刑執行の停止と死刑判決の減刑を求める公開書簡を提出しました。


パキスタン・イスラム共和国行政府
アシフ・アリ・ザルダリ大統領閣下

敬愛する大統領

公開書簡「ベーラム・カーンの死刑執行停止に関する緊急の要請」

アジア死刑反対ネットワーク(ADPAN)およびアムネスティ・インターナショナル(AI)は、ベーラム・カーンの死刑執行の中止、死刑廃止を前提とした死刑執行停止の決定、およびすべての死刑判決の減刑について、大統領が配慮されますようお願い申し上げます。

ベーラム・カーンの死刑執行は、2012年6月30日に予定されています。これはパキスタンにおいて4年ぶりの死刑執行であり、現在の政府による初めての執行となります。この死刑執行が実施されれば、死刑の廃止へ向かっている世界の潮流にパキスタンも合流する、という2009年に発表された現政府の歓迎すべき方針に終止符を打つことになるでしょう。ベーラム・カーンの死刑執行は、パキスタンにおける死刑廃止へ向けた長年の努力をくつがえし、さらに多くの死刑執行への扉を開くことになるかもしれません。大統領だけがこの死刑執行を止めることができるのです。

ベーラム・カーンは、弁護士モハマド・アシュラフを殺害した容疑で、2003年6月23日に反テロリズム裁判所において死刑の判決を受けました。2003年4月15日、カーンは彼の母方の伯父を殺害したとされる男性の弁護士であるクルバン・アリ・チャウハンを殺害するために、シンド高等裁判所を訪れました。カーンは誤ってチャウハンの代わりにアシュラフ弁護士を殺害したのです。

ご承知のように、死刑に対する控訴はシンド高裁およびパキスタン最高裁によって却下され、最後の恩赦の請願は大統領によって拒否されました。5月10日、反テロリズム裁判所はベーラム・カーンの死刑執行を5月23日とする最終的な執行令状を発令し、大統領は執行を6月30日とする延期令状を発令されました。

1999年に「裁判の迅速な遂行を目的として」設立された反テロリズム裁判所は、公正な裁判を受ける権利を損なっています。反テロリズム法1997は、制定以来たびたび改正されてきました。しかし、ADPANはアジア全域における死刑に至った訴訟に関する報告書「正義が果たされない時、アジアにおいて数千人が不公正な裁判により処刑されている」(ASA01/023/2011)の中で、不公正な裁判が行なわれていることに懸念を表明してきました。その報告書のコピーを同封いたします。ADPANは、反テロリズム裁判所への入場がきびしく制限されていることに対して、また裁判は7日間で結審させるという条項があるため、判決を下す判事が極度の重圧にさらされることに対して懸念を抱いています。

アムネスティはあらゆる死刑に対して例外なく反対しています。ADPANは、独立的な地域ネットワークとして、パキスタンを含む24カ国の弁護士、NGO、市民団体から構成されており、アジア太平洋地域において死刑廃止の活動に取り組んでいます。

パキスタンでは2008年末から死刑執行が行なわれていないという事実を歓迎いたしますが、死刑判決は引き続き下されており、2011年には少なくとも313人が死刑判決を受けました。2011年における死刑判決の内、半数以上は殺人容疑によるものですが、麻薬売買や強かん、身代金目当ての誘拐などにより有罪とされた人びともいます。3人が宗教冒涜により死刑判決を受けましたが、この容疑で死刑を執行された者はいません。パキスタン人権委員会(NGO)は、現在8300人を越える死刑囚がいると推計しています。

約4年にわたる死刑執行停止の後に執行が再開されたことにより、パキスタンは死刑廃止という世界および地域の潮流に逆らうこととなりました。2012年5月の時点で、世界の約3分の2以上の国が死刑を廃止し、また事実上廃止しています。最近では2012年3月に、モンゴルが自由権規約第2選択議定書を批准して141番目の締約国となり、死刑廃止をめざすこととなりました。

アジア太平洋地域における41カ国の内、17カ国がすべての犯罪について死刑制度を廃止しており、10カ国が事実上死刑を廃止しています。フィジーは例外的に軍事的犯罪に限って死刑を適用しています。長年にわたり国連および地域団体は、死刑廃止を推進する決議、勧告、声明を採択してきました。2007年以来国連総会は、死刑廃止を推進するために死刑適用の停止を呼びかける決議を提案し、大多数の国ぐにの賛同を得て採択してきました。

アムネスティとADPANは、ベーラム・カーンの死刑執行の中止、および死刑執行の停止と死刑判決の減刑について、大統領のご配慮を重ねてお願い申し上げます。

敬具

ポリアンナ・トラスコット
アムネスティ・インターナショナル国際局アジア太平洋部副部長

カムラン・アリフ
パキスタン人権委員会共同議長

 

アムネスティ・インターナショナル公開書簡
2012年5月28日

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