米国:米国最高裁判事 死刑の合憲性に異議

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2015年7月10日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:米国
トピック:死刑廃止

「死刑における法の不備にその都度応急処置を施すよりは、より根本的な問題、すなわち死刑は合衆国憲法に違反しているのではないかという疑問について十分な説明を求めたい。死刑は憲法修正第8条に違反する可能性がきわめて高いと私は考える」米国最高裁スティーヴン・ブライヤー判事はこう意見を述べ、ルース・ギンズバーグ判事もこれに加わった(2015年6月29日 グロシップ対グロス裁判)

米最高裁は、オクラホマ州の3種の薬物注射による死刑執行手続きにおけるミダゾラムの使用について、賛成5反対4で支持の決定を下した。オクラホマやフロリダをはじめ、この薬物を採用している州では、この件が未決のあいだ中断されていた死刑執行が再開される恐れがある。

アムネスティは、米国のすべての死刑存置州の行政府、立法府、司法府に対し、また連邦レベルにおいても、死刑の全面廃止を視野に入れ全米で死刑執行の一時停止を行うよう繰り返し呼びかけている。死刑はとうの昔に歴史に葬り去られたはずの刑罰である。

グロシップ対グロス裁判でとくに注目すべき点は、スティーヴン・ブライヤー判事が起草し、ルース・ギンズバーグ判事も賛同した詳細な反対意見書である。2人の判事は最高裁で40年以上の経験を重ねている。反対意見は、最高裁が、執行方法のいかんにかかわらず、死刑制度そのものの合憲性についての議論に耳を傾けるよう要請している。ブライヤー判事は、死刑は「残酷で異常な刑罰」を禁じた憲法に違反する「可能性がきわめて高い」という考えを表明することで、意見書を締めくくっている。

ブライヤー氏は1994年8月に最高裁判事に就任した。死刑はそれ自体が法で禁じられた残酷で異常な刑罰に相当する可能性が高いという、現在の彼の信念を育てたのはまさに、最高裁における20年の経験であるという。

信頼性の問題に関してブライヤー判事は、研究者たちが見出した説得力ある根拠を示している。過去30年間に処刑されてきた人びとの中には、無実だった人びとが含まれているという。また1973年以来、死刑の判決を受けながら後に無実であることが判明した事件が、150件以上もある点にも注目している。米国で死刑を適用することには重大な信頼性の問題があるようだと彼は書いている。

さらに、死刑適用の恣意性について、意見書は以下の研究結果を挙げている。

「死刑の適用に最もはっきりと影響をおよぼすはずの要因は、犯罪の悪質性の程度だが、実際には悪質性が決め手となっていないことが多い。また別の研究によれば、人種、性、環境など、死刑の適用に影響してはならない要因が影響をおよぼしているケースも多い」

またブライヤー判事は、囚人が死刑囚監房に収容される期間についていくつか例を挙げたあと、死刑存置州のほとんどすべてが、死刑囚を1日22時間以上独房監禁状態においていると述べた。独房監禁という非人間的処遇の影響は、死刑が実際に執行されるかどうかが不確かであることによってさらに深刻になる。死刑執行をだらだらと引き伸ばすことは、死刑の残酷さをさらに深刻にすると彼は主張する。多くの死刑囚が控訴の望みを捨てて死刑執行を望んだり、自殺を考えたり実行したりしても驚くにはあたらない。

意見書は、死刑囚監房での長期収容は、いわゆる懲罰や抑止の効果といった正当化の根拠を弱めることにもなる、と続く。だからといって、有罪判決と死刑執行の間の期間を短縮すれば、信頼性は一段と損なわれ、手続き上の不公正が起きやすいなど、死刑の合憲性が疑われることになるだろうとも述べている。当然の指摘である。執行までの期間が短かければ、無実の罪で何十年も死刑囚監房に入れられ、後に釈放された人びとの何人かは処刑されていたかもしれないのだから。

合衆国最高裁が最後に薬物注射による死刑執行を検討したのは、2008年のベイズ対リーズ裁判で、このときの最高裁で最高齢だったジョン・ポール・スティーヴンス判事は、死刑適用は無意味で不必要な生命の断絶であるとの結論を表明している。

ブライヤー判事の反対意見は歓迎すべき展開だが、私たちは、死刑が本質的に問題のある刑罰であることを、個々の判事が経験から学ぶまで待っているわけにはいかない。

死刑はいかなる状況においても残酷で非人道的な刑罰である。死刑は取り返しのつかない過誤や不公正の恐れがあり、人間の尊厳とは相いれないものである。

アムネスティ国際ニュース
2015年6月29日

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