ポーランド:ヘイトクライム犠牲者を切り捨てるのか

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2015年9月18日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ポーランド
トピック:

ポーランドの司法制度は、レスビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス(LGBTI)などの人びとを憎悪犯罪から保護する上で、はなはだしく不十分だ。アムネスティ・インターンショナルは、その実情を最新の報告書にまとめた。

報告書は、ホームレス、障がい者、LGBTIなど少数派の人びとが、憎悪犯罪の法律の対象から排除されてきた実態を明らかにしている。

同国の司法制度は、一部の少数派は保護するが、他の少数派は自己責任だとして突き放す、2重構造になっている。ゲイ、障がい者、ホームレスが、その存在を理由に暴力をふるわれても、憎悪犯罪とはみなされず、通常犯罪として扱われる。これらの少数者らにとって、この扱いは脅威であり、早急に是正する必要がある。

ポーランドのLGBTIの人びとは、各地で根深い差別を受けている。同国の主要LGBTI団体「同性愛嫌悪撲滅キャンペーン」によると、同性愛者やトランスジェンダーの人びとへの憎悪犯罪が、昨年1年で120件も発生している。実際の数は、もっと大きいという。

シュチェチン市で昨年1月、ゲイの男性(20才)がゲイクラブから出てきたところを、激しく殴打され、顔を繰り返し水たまりに押し付けられて、死亡した。最終的な死因は、でき死だった。事件以来、LGBTIの人びとは、おびえながら暮らしている。

12月には、反ナチス活動家のストリート・アーティストが、虹を描いた自作の壁画の前で、「ホモ売春婦」と嘲られながら、蹴られ唾をかけられた。しかし、加害者に対する判決文では、侮辱的言動は「同性愛嫌悪」ではなく、単なる「下品」と記された。

ポーランドではまた、ここ数年ホームレスに対して、数多くの悪意に満ちた暴力事件が起きている。しかし中には、被害者の社会経済的状況が動機の一部を構成するにもかかわらず、通常の犯罪扱いにされたケースもあった。

国際法に従いポーランドは、すべての少数者を差別から等しく保護する義務がある。当局がそれを怠っていること自体が差別である。

保護の格差とは、障がい、性的指向、性自認、社会経済的状況に対する差別に基づく暴力に対して、専門の検察官や警察官を置くなどの制度がないことを意味する。また、憎悪犯罪の防止、事件の捜査、加害者の起訴などに実効性ある政策を実現する取り組みもない。

国は、憎悪犯罪の実態調査も実施していないため、実情の把握もできていない。

状況を改善するため、刑法改正の動きはある。2012年には、LGBTIの人びと、障がい者、高齢者らを憎悪犯罪から保護する法案が提出された。しかし、社会の一部から改正案に対して猛烈な反発があり、行き詰っている。「性の病を広めようとする病的なジェンダー思想の導入だ」という議員もいた。

10月25日の総選挙を前にして、この問題はまた論争を呼びそうだ。

ポーランドは今度こそ、すべての少数派が同等の保護を受けられる法改正に向けた対応を取るべきである。次の政権と議会は、人権を優先し、差別をなくすことを最優先事項に置くべきである。自分が自分であるというだけで、暴力を恐れて生きるようなことがあってはならない。

アムネスティ国際ニュース
2015年9月17日