中米の難民危機 紛争並みの治安悪化から逃れて

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2016年10月19日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:
トピック:難民と移民

エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの中米3カ国は、激増する犯罪と殺人に対策を講じていないために、数万人が国外に脱出している。

アムネスティは、難民問題が深刻化するこれらの国を調査し、いずれの国も市民をさまざまな暴力から保護する対策を怠り、さらにメキシコや米国に逃れようとして送還された市民に対する保護策も取っていないことを明らかにした。

3カ国ではいずれも殺人が激増し、市民は虫けらのように扱われ、ギャング集団ばかりか警察からも、いつ襲われてもおかしくない状況にある。何百万もの人が苦境に陥っているが、この問題は世界でほとんど知られていない。

メキシコと米国などは庇護を希望する人たちを守るという責任を果たしてこなかった。しかし、この危機の根本は、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスにある。自国の責務を認識し、彼らが母国を逃げ出さなければならないほどの状況に真摯に向き合わなければならない。

かつてない暴力の横行

エルサルバドルでは、激化するギャング同士の縄張り争いの中で、殺人犯罪件数がこの3年間でうなぎ上りとなっている。グアテマラとホンジュラスも、世界ワーストクラスである。

昨年のエルサルバドルでの殺人件数は人口10万人中108件超で、国連は紛争国を除いては最も危険な国であるとした。

ホンジュラスの殺人件数は10万人中63.75件、グアテマラは同34.99件であった。

いずれの国でも最大の被害者は若者で、昨年度の30才以下の犠牲者数は全犠牲者数の半数以上である。

エルサルバドルの教育大臣によると、2015年にギャングに脅しを受けて学校に行かなくなった生徒は39,000人で、2014年13,000人の3倍にのぼる。教職員組合は、その実数は10万以上だとみている。

10代の若者が、警察からギャングの一員だと見なされていじめや暴力を受けるというケースまである。ある16才の若者は、5月に警官に拘束されて以来、身を隠している。拷問を受け「ギャングの銃撃戦に加わって、見張り役をやっていたな」と自白を強要された。警察は、深刻な犯罪に立ち向かっている姿を何が何でも誇示しようとしているようだったという。

保護されない

社会がかつてなく暴力化する中で、メキシコや米国などに逃れ難民として庇護を求める件数は、急増の一途をたどっている。この地域ではかつて各国で内戦があり、多くが母国を逃れたが、それ以来の難民危機である。

国連高等難民弁務官事務所によると、3カ国の難民庇護申請件数は、この5年間で最多を記録し、特に周辺国と米国で多かった。

一方、メキシコや米国などによる送還件数も増えている。申請者の多くが、他国で庇護が得られなければ、恐ろしい暴力と命の危険にさらされる状況にあることが明白であるにもかかわらず、だ。メキシコから送還された3カ国の難民総数は、2010年から2015年までで180%近い増加を示している。

送還されて殺される

ホンジュラスのサウルさんは、その犠牲となった一人だ。2015年11月に国を逃れ難民申請をしていたが、認められずに今年7月にメキシコから送還された。そのわずか3週間後に殺されてしまった。

5人の子を持つサウルさんは、ギャングが巣食うバス業界で運転手をしていた。国を離れたのは、ギャングの抗争に巻き込まれてわが子2人が重傷を負ってしまうという事件があったためだ。訴えを受けた地元警察は事件の捜査をせず、保護もしなかった。

アムネスティは3カ国に対し、米国らが治安対策にと拠出した7億5000万ドルの使途を照会したが、いずれも説明はなかった。

3カ国はそれぞれ、送還された市民の公的な受け入れ施設を設立していた。帰路の道中に何らかの人権侵害を受けたかどうか、入国官が聞くことになっているが、そもそも自国を離れる原因となった暴力や保護が必要かどうかは、ほとんど聞いてこない。

求められるのは、異常事態の解消に向け、今受けている国際的な支援を活用して地域全体で効果的に取り組むことである。

恐ろしいまでに暴力が広がっている事態に対し、首脳陣が断固とした対応をとらなければ、かつての暗黒の時代に戻りかねない。暴力から市民が逃げ出していることを否定するのではなく、社会の根っこにある問題の解決にこそ力を注ぐべきだ。

アムネスティ国際ニュース
2016年10月14日