トランスジェンダーの人々にも自分らしく生きる権利を ~ハンガリーの#Drop33ムーブメント~

更新:2020.06.19

人は産まれたときの身体的な特徴によって「女の子」「男の子」といった性別を割り当てられます。トランスジェンダーの人たちは、その割り当てられた性別とは違う性別を自認していたり、割り当てられた性別にとらわれない生き方を選んでいたりします。

トランスジェンダーの人たちは、性別の垣根を越えて生活を送っています。例えば、「私のことはhe じゃなくてsheって呼んで!」と宣言したり、自分の名前を変えたり、戸籍の性別を変更したり、ホルモン治療や性転換の手術を受けたり。方法はさまざまですが、性別を変更することは、トランスジェンダーの人たちが自分らしく生きるために欠かせない手段の一つです。

国によっては、法的に性別の変更が認められている場合があります。しかし、アルゼンチン、ベルギー、コロンビア、デンマーク、アイルランド、マルタ、ノルウェーを除くほとんどの国で、法的に性別を変更するためには屈辱的な手続きを経なければなりません。性別変更の条件として子孫を残せなくなる手術を課すところもあります。

ハンガリー出身でトランスジェンダーのアデルさん

ハンガリー出身でトランスジェンダーのアデルさん(写真)は、男の子として産まれましたが女性の性別を自認しています。幼少期はいつも「女の子っぽい」といじめられたといいます。自分の部屋に閉じこもって化粧をしたり、女性歌手のまねをしたりしているときが、唯一の自由と癒しの時間だったそうです。19歳のときに法的に性別を変更し、現在は女優・歌手になるための勉強をしながら、トランスジェンダーの人権を守るための意識啓発にも携わっています。

ハンガリーで性別の変更が禁止される事態に...

ハンガリーではこれまで、法的な性別変更が認められていました。しかし、2020年5月19日、その自由が、奪われてしまいます。議会で性別の変更禁止を含む法案が可決されたのです。可決されたのは包括法で、その条項のひとつが、生まれたときに性別を届け出ることを義務化し、登録された性別からの変更を認めないとしています。たとえば産まれたときの登録は「男」だけれど自分は女性だと自認しても、公的な書類では「女性」と書けなくなるのです。

ハンガリーに暮らすトランスジェンダーの人たちは、自分らしく生きる手段を奪われてしまったのです。

この差別的な法案が可決された背景にあるのは、LGBTIの人たちに対する根強い差別です。ハンガリーのLGBTIの人たちは、ヘイトクライムや暴力、そして政治家による差別的な発言を受けたりしています。2019年ブタペストのプライドイベントで、極右集団によって襲撃をされるという痛ましい事件も起きています。

© AI Hungary

自分らしく生きることの難しさ

私たちの日常には、公的な書類が必要となる局面がたくさんあります。例えば、学校に入学するとき、銀行口座を開設するとき、就職するとき、部屋を借りるとき、その他さまざまな場面で、身分証明として、公的な書類の提出を求められます。

出生時と異なる性別として生活をしているトランスジェンダーの人たちは、公的書類を提出する場面に出くわすたびに、目の前のよく知らない初対面の人たちに、自身のプライベートな情報を説明する必要に迫られるのです。このようなプライバシーの侵害が日常的にずっと続くことでトランスジェンダーの人たちが受ける精神的苦痛は、計り知れません。

ハンガリーのこの差別的な法律は、自分らしく生きる権利をトランスジェンダーの人たちから奪うだけでなく、プライバシーの権利まで侵害してしまうものなのです。

ハンガリーで起こった#Drop33 ムーブメント

ハンガリーで起こった#Drop33 ムーブメント

3月に法案が提出されると、トランスジェンダーへの差別に反対する市民が、差別的な条項である第33条の撤回を求めて #Drop33というハッシュタグで抗議の声を上げ始めます。

法案可決後も、この条項を白紙に戻そうと、ツイッターを使った抗議の波は世界中に広がっています。

 

 

5月28日の大統領による署名でこの差別的な法律は現実ものものになってしまったわけですが、まだ第33条を廃止する手段が残されています。それは、ハンガリーの国内人権機関が憲法裁判所に訴えかけ、法律を審査するよう司法に介入してもらうことです。

ハンガリーのトランスジェンダーの人たちの人権を守るため、条項を白紙に戻す手段が残っている限り、#Drop33のムーブメントから始まった市民の訴えは続きます。