オーストラリア:一進一退の難民政策-移民法改正案の即時廃案を求める

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2006年5月13日
国・地域:オーストラリア
トピック:難民と移民
移民法改正案の即時廃案をアムネスティ・インターナショナルはオーストラリア政府に対し求める。

改正案は4月13日に移民大臣のアマンダ・バンストン上院議員により提出されたもので、5月には議会で審議が行われる予定である。入手可能な情報による と、同改正案では船舶でオーストラリアに到着するすべての庇護希望者を違法とし、域外の遠隔にある収容センターに送り手続きをするようになるとアムネス ティは考えている。これは1951年国連難民条約に違反する可能性があり、国際人権法で保証された基本的人権を否定する。

国際的義務違反の可能性

難民審査過程で本人の意思に反して他国へ移送させることは本質的に違法であり、移送中や移送後に人権侵害が起きる危険性が高いと考える。

1951年国連難民条約におけるオーストラリアの義務として、入国方法を理由に庇護希望者を罰してはならない。庇護希望者を遠隔で域外の収容センターに送ることは罰則の一形態とみなされるため、船舶で入国した人を域外で手続きすることはオーストラリアの国際的な義務違反である。

改正案では船舶で入国した庇護希望者が法的支援を受けたり独立した異議申立て過程を経る権利を否定する。オーストラリアはすでに難民認定制度を十分に確立させており、入国の手段にかかわらず庇護希望者は同制度にアクセスする権利を有し差別なく平等に扱われなければならない。オーストラリアの人権法遵守義務は、庇護希望者が領域内に入るか、オーストラリアが庇護希望者に法律を適用した瞬間に発生する。

オーストラリア政府の庇護希望者(難民不認定者も含む)に対する扱いは深刻な懸案事項である。過去の例では恣意的で無期限の可能性がある収容や、少なくとも移動の自由の不法な制限の対象となることが明らかである。無期限収容の精神的影響は明白であり、このような状況における収容は残虐、非人道的または品位を傷つける扱いや処罰に相当する。

2005年にオーストラリア政府は入国者収容センターから子どもを放免するなど重要かつ必要な収容政策の改正を数多く行なった。過去のオーストラリアの全件収容主義により、人びとが苦しんだという多数の証拠があるにもかかわらず、獲得した進歩が失われるかもしれないことにアムネスティは懸念を表する。

世界と周辺地域への悪影響

今回の改定案は難民が母国を離れる原因となった人権侵害に対処しないまま、難民流入を止めるための政府の狭量な施策であると考える。人権は国益の二の次であると示すことで、近隣諸国に対して場合によっては人権を尊重しないこともあってよいと示すことになる。最終的には人権侵害のため母国や最初に難民申請した国から他国へ移動する人びとが増加することになる。オーストラリアは庇護希望者のニーズや権利の尊重を他国に訴える国際的な取組みに参加しているが、今回の改正案は笑いの種となる。

4月18日の記者会見において、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はオーストラリアの管轄権下にある者でオーストラリアで申請の審査をうけるべき人びとが域外に移送され審査を受けることに懸念を表明している。特にオーストラリアは十分に機能し信頼できる難民制度を有し、大量の庇護希望者の流入はありえないが、オーストラリアは庇護希望者と難民への責任を回避する「不幸な前例」を作ろうとしているとUNHCRは指摘している。

オーストラリアによる国際的な責任回避の前例

2001年8月にノルウェーの貨物船MV Tampa号がインド洋のオーストラリア領クリスマス島付近で遭難し大破していたインドネシア漁船から430人以上を救助した。Tampa号船長がけがをしているものも何人かいると報告したにもかかわらず、オーストラリア当局は430人の領内への入国を拒否した。そのほとんどがアフガニスタン人庇護希望者であった。彼らの苦しい体験は大きく報道され人間の尊厳を極度に無視したオーストラリアの難民政策を変えるきっかけとなった。

その430人を含む庇護希望者たちは、太平洋にあるパプアニューギニア領のナウル島とマナス島という小さな島に域外の申請手続きのため移送された。オーストラリアがこれらの国に二国間援助を申し出た後である。この措置は「パシフィック・ソリューションとして知られるようになった。

オーストラリアまたはその領域内付近に到着した船舶は同様にこれらの島に移送されるようになった。域外に移送された1547人の庇護希望者の大多数がオーストラリア政府とUNHCR(MV Tampa号に救助された人たちの審査を主に行った)により難民認定された。そのうちの多くが現在オーストラリアに在住し、一部の人が安全な別の国に住んでいる。しかしそれから5年たった今も、2人のイラク人がUNHCRから(後にオーストラリア当局からも)難民認定を受けた後もナウル島に収容されたままなのである。

Tampa号事件は悪しき前例を作り、他国の政府が国際難民・人権法上の責任を同様に回避するようになるのではないかとアムネスティは懸念していた。2003年に英国政府は英国に入国した庇護希望者を隣接したEU加盟諸国に隣接する国ぐにのトランジット審査センターへ移送することを提案をした。EUも同様の行動計画の策定を考えていた。しかし国際法上、合法性に深刻な問題があったため、この案は両方とも実現されなかった。

最近では、同様の好ましくない傾向として、イタリアへ船舶で入国しようとする庇護希望者と移民の審査をする目的で、リビア国内に3件の施設を設置する合意にイタリアとリビアが署名した。この施設の真の目的についてイタリア政府は公表していない。

このような案や手段は庇護制度や庇護希望者と難民の権利の価値を損なう影響を与える。庇護希望者の増加でこのような提案は正当化されない。
UNHCRは「2006年世界の難民現状」報告書の中で先進国に難民が入国した水準が近年著しく減少していると述べている。オーストラリアの場合、2000年から2001年に4000人だった難民認定者は2005年から2006年にはわずか54人に減った。2004年から2005年にかけて、適切な許可がなく船舶で入国した庇護希望者は1人もいなかった。

アムネスティは域外または他国での審査には反対しており、基本的人権と難民法の義務を重大な違反であると考えている。

アムネスティ国際ニュース
(2006年4月26日)
AI Index ASA 12/002/2006

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