グローバル・コンパクトでのアイリーン・カーン事務総長の発言

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2007年7月 5日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:
トピック:企業の社会的責任
(アイリーン・カーン、アムネスティ・インターナショナル事務総長によるグローバル・コンパクト・リーダーシップサミット2007の開会総会における挨拶)

現代のグローバル経済は、私たちのこの世界を劇的に変えました。新しくて複雑な課題を私たちにつきつけています。特に大きいのは、人権に関して企業が持つ力とその影響です。私たちが今暮らしているのは、危険で存続が危ぶまれ、分裂した世界です。世界は、暴力や紛争、政情不安などによって危険なものとなり、環境悪化によって存続が危ぶまれ、格差と貧困によって分裂しています。そうしたことが、重大な人権問題を裏から支えているのです。企業活動の課題に人権を取り入れること、企業が持つ人権への影響力を国連の課題として取り入れることは、極めて重要なのです。

グローバル・コンパクトには二重の価値があります。まず第一に、国連が主導しているということ。そして第二に、真に地球規模のイニシアティブであること。国連というブランドはとても貴重でまた強力です。そして世界中の企業にとって魅力あるものなのです。

グローバル・コンパクトは、国連の重要な草分け的なイニシアティブであり、国連にとってはこれまでなじみのうすかった分野を切り拓いた勇気ある試みです。企業にとっても、グローバル・コンパクトは、市民社会などの今までにないより多様なステークホルダーと協働し、社会の中における自分たちの役割を理解するような新しい方法です。グローバル・コンパクトは、人権を守ることを含め、企業の社会的責任を促進する重大な可能性を秘めています。

私たちが問いかけなくてはならない疑問は、そのような可能性が十分に発揮されているのかということです。外の世界を、現場では何が起こっているのかを見れば、グローバル・コンパクトを、責任ある企業の社会的行動のための真のコンパクト(盟約)とするためには、やらなければならないことがまだたくさんあるということがわかるでしょう。であればこそ、私はこのサミットが、グローバル・コンパクトを効果的にするためにさらに何を出来るのかということを真剣に考えて欲しいのです。

世界のすべての地域から3000社もの企業が集まる1つの「大きなテント」として、グローバル・コンパクトは活動しています。各企業は、そこで社会的責任について、知識や理解を深めることができます。グローバル・コンパクトは、重要な学びの場であり、良い実践例を共有し、各原則を具体的な方針に変えるためのツールを生み出しています。「学び」は重要です。変化を起こすには、企業が何をすることを望まれているのか、どうすれば一番よくそれができるのか、ということを理解することなしには実現できません。

しかし、学んでいるだけでは、行動を変えることはできません。グローバル・コンパクトの参加企業の多くは、真剣に学ぼう、能力を高めようとされています。しかし、残念ながら、どのような行動をとろうとも、グローバル・コンパクトのメンバーであれば自動的にお墨付きが与えられるのだと考えている企業がたくさんあることも事実です。そして、そのようなことが起きてしまうと、グローバル・コンパクトが打ち立てている筋が崩れてしまいます。

単に透明性と情報公開について、教え、主張し、そのまま放っておくだけでは、グローバル・コンパクトは十分とは言えません。諸原則に署名するだけなら簡単です。もしも、誰もその実施についての責任を問わないのであれば、です。

グローバル・コンパクトは、参加企業に原則遵守の責任を持たせるための方法を見出さなくてはなりません。リストから削除するという方法が、最近はじめられましたが、これはグローバル・コンパクトの筋を打ちたてようという試みの一歩です。しかし、削除は技術的、手続的な理由によるものが大きく、実際に諸原則の内容の遵守を確保するためには使われていません。経験によれば、遵守の要素を含めた自発的なアプローチのほうが、単なる奨励よりも、はるかに公的な信頼を勝ち得ることができます。

お互いに学習する場として、グローバル・コンパクトに加盟するすべてのメンバーは、より高度な実践ができるよう、お互いがお互いを押し上げる義務があります。アムネスティは、各加盟企業に対し、強固な相互評価のメカニズムを導入するようお勧めします。最も成功している企業こそが、基準を上げ、お互いに責任を持たせることができるのです。さあ、遵守の基準を上げようではありませんか。

国連は価値あるブランドであり、国連と企業双方ともに、グローバル・コンパクトにただ乗りする者がいないことをはっきりさせる責任があります。

グローバル・コンパクトは、自発的なイニシアティブです。自発的な取り組みは重要ですが、しかしどれほど良いものであろうが自発的であるが故の、固有の限界があります。例えば、その名の通り、「選択的に加入する」という取り組みもあります(それゆえ、企業によっては、選択的に外す、という可能性もまたあります。)自発的な取り組みである以上、参加しないであろういわゆる「怠慢な」企業は入ってこないし、入れさせる方法もありません。

人権面から見た場合も、自発的なイニシアティブには限界があります。いくらかの人びとのいくらかの人権のために、いくらかの保護を提供するだけなのです。これは問題です。なぜなら、人権というのはその根本的な性質からして、世界中のすべての人にいついかなる時でも普遍的に保障されるべきものだからです。

アムネスティが自発的イニシアティブを支持しつつも、中国で操業していようがカナダであろうが、マラウィかスイスであろうが、どこで操業しているにかかわらず、国境を越えてすべての企業に適用されるような、企業活動と人権に関する国連のグローバルな基準を求めているのは、そのことが理由です。このようなグローバルな基準は、人権に関する企業の行動に対して政府がどう取り組むべきかについて、明確で共通のガイドラインを提供してくれます。それによって、公平な場が作り出され、共通の期待値が設けられ、顧客や株主、投資家、地域社会の間に信頼関係が作り上げられるのです。

政府は人権に対して第一義的な責任を持ちます。そして、人権に対する企業の責任についてのグローバルな基準によって、企業や人びとに対する政府の責任は明確な強固なものになることでしょう。

だからこそ、アムネスティは、このグローバル・コンパクト自体は自発的なイニシアティブでありながら、グローバル・コンパクトとその加盟企業それぞれが、法的拘束力のあるグローバルな基準を支持し、それを作り上げようとする国連での動きに寄与することを望んでいます。

財界には、さらなる規制、特に国際法による制限、を警戒している人びとが大勢います。しかし、企業は、このグローバル化した世界において、国際法による統治がどれほど価値があるものかを知っています。企業は、自分たちの投資を守るために、国際法の発展を支えてきました。過去10年の間、国際経済法の取り組みは、その量と範囲ともに、著しく拡大してきました。数多くの国際投資協定、貿易協定、調停メカニズムが、投資家に対し、高レベルの国際法による保護を提供しています。

私は、企業、特にグローバル・コンパクトに求めます。企業活動における投資の保護を保証するために行ってきたのと同じだけ、人権に対する保護も支援してください。

残念ながら、人権擁護の国際的な基準に反対している企業がまだ数多く存在しています。グローバル・コンパクトは、国連と国際法の統治に努力をはらってきた財界指導者たちの集まりです。だからこそ、グローバル・コンパクトは、そのような企業の態度や取り組みを大きく変えることができるのです。

最後に、グローバル・コンパクトは、もっと大きなパズルの一片でしかないということを認めることが重要です。国連、政府、ビジネス、市民社会を含む、私たち全員が、パズルの他の部分への取り組みにもエネルギーを注いでいかなくてはなりません。とりわけ各国政府の責任です。

グローバル・コンパクトは、国連の重要なイニシアティブ、特に、国連事務総長の個人的なイニシアティブが始まりでした。このイニシアティブに国連の名前が冠されることで、グローバル・コンパクトは、他のどの自発的なイニシアティブも持っていない価値を、国連から与えられたのです。国連はその名誉を賭けて、グローバル・コンパクトを主導してきました。そのことによって、国連には、グローバル・コンパクトが、優れたものであることを保証するべく、特別の動機付けができたのです。

企業の社会的責任について、市民社会の信頼は一種の危機にあります。この部屋を出れば、企業の社会的責任に本気で取り組む気があるのかということについて疑問を持つ人がたくさんいます。国連事務総長は、グローバル・コンパクトは、世界で最も大きなグローバルな企業市民としてのイニシアティブであると説明しました。もし、それが本当にその偉大な称号にかなうものであるなら、このイニシアティブは、世界の市民の信用を勝ち取るためにもっと努力しなくてはなりません。

事務総長の主導の下、私は、国連が、グローバル・コンパクトの自発的な取り組みを強化しつつ、同時に、人権に対する企業の責任について、政府が国境を越えて実施できるようなグローバルな基準を積極的に促進するよう願っています。強固で理路整然とし,すべての局面に通用するような取り組みが、国連とグローバル・コンパクトの信用には不可欠なのです。

AI Index:IOR 10/004/2007
2007年7月5日