果たされぬ約束 紛争下で続く市民の犠牲

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2019年6月 1日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:
トピック:地域紛争

ジュネーブ諸条約の締結から70年、世界各地の紛争地では、一般市民数百万人が戦時国際法違反の武力攻撃にさらされ、その日常生活を破壊されたり、命を奪われたりしている。国連安全保障理事会は、戦禍の民間人が置かれているこの状況に終止符を打たなければならない。国連安保理は5月23日、武力衝突時の民間人保護について協議する。

20年前、民間人保護の議論が初めて安保理の議題にのぼり、この問題に全力で取り組むことが確認された。さらに遡れば、第二次大戦中などで起きたような残虐行為から民間人らを守るジュネーブ諸条約が締結されて70年が経つ。しかし現状は、目を背けたくなるほど悲惨だ。

軍事大国は、戦闘員と民間人を区分する精密誘導兵器やピンポイント攻撃を可能にする技術を誇る。その一方で、紛争地では、軍事攻撃で市民の日常生活が破壊され、多数の死者を出しているのは、なんとも皮肉である。

数百万人もの市民が、負傷し、命を奪われ、土地を追われ、計り知れない苦難を背負う。一方、各国首脳は、この事実に背を向け、戦争犯罪を放置し、責任を転嫁してきた。

国連安保理常任理事国のロシア、中国、米国は拒否権を乱用して、残虐行為をやめさせる決議案の採択を阻んできた。その結果、罪のない市民が、生活も命も脅かされる事態にさらされ続けてきた。

この数年をみても、武力衝突の際、民間人保護と国際人道法に対する露骨な無視があった。そこに加担したのが、安保理常任理事国の4カ国、ロシア、米国、英国、フランスだった。残る常任理事国の中国は、隣国ミャンマー(ビルマ)の戦争犯罪、人道に対する罪を犯し、ジェノサイド(集団虐殺)も疑われる政権をあからさまに擁護してきた。

民間人が大きな犠牲を払った近年の紛争

例えば、シリア・ラッカでの米国主導の空爆で、市民1,600人以上が亡くなった。アレッポとイドリブでは、ロシアとシリアの攻撃により市民のライフラインが破壊され、数百万人が難民・国内避難民になった。戦争犯罪および人道に対する罪と思われる事例もあった。

イエメンの武力紛争では、サウジアラビア・アラブ首長国連邦主導の連合軍が、西側からの武器で市民数千人を殺傷し、前例のない人道危機を引き起こした。

ソマリアでも、これまでで最悪レベルの人権と人道危機が続いている。米国を含む紛争当事者は、国際人権法および国際人道法違反を犯してきた。ソマリアの紛争に加担する米国は、過去2年、秘密裏に行なっている空爆の回数を増やす中、アムネスティの指摘を受けて、民間人に犠牲者を出している事実を、ようやく認めた。

イスラエルは、2008年以降、ガザでの軍事作戦で民間人と民間施設を繰り返し攻撃し、多くの人命を奪った。昨年3月から今年3月にかけて、パレスチナ人のデモ隊に発砲するなどして、医療従事者、ジャーナリスト、子どもら、少なくとも195人を殺害した。一方、パレスチナの武装グループは、イスラエルの市街地に向けてロケット弾を発射し、複数の犠牲者を出した。

弱者が標的に

南スーダンを含む世界各地で、紛争中の性暴力やジェンダーに基づく暴力が、激増している。南スーダンでは昨年4月から7月にかけて、女性、子ども、老人、障がい者を含む住民が、銃、放火、装甲車などで惨殺された。目撃者や被害者らの証言だ。

国連アフガニスタン支援ミッションによると、昨年の民間人犠牲者は10,993人に達する。

リビア・トリポリでは、5月半ばの無差別攻撃で、難民や移民を含む民間人の生命が脅かされた。

国連自身も、潔白ではなかった。

南スーダン、中央アフリカ共和国などで国連平和維持部隊が駐留するにもかかわらず、市民が紛争に巻き込まれるケースが何度かあった。さらに驚くべきことに、国連平和維持軍兵士が、一般女性や少女を襲い、強かんする事件を引き起こした。

また紛争下では、社会的弱者が武装グループなどに狙われている。体が不自由な高齢者や障がい者が惨殺されたり、子どもが兵士として駆り出されたりした。

クラスター爆弾や地雷など国際法が禁止する無差別殺傷兵器の使用も続いている。シリアやスーダンなどでは、国際的に禁止されている化学兵器が使用された。

国連難民機関によると、昨年、紛争で住み慣れた土地を追われて暮らす人の数は、世界で6,850万人に達した。ジュネーブ諸条約締結から70年、これだけの数の国内避難民・難民を生んだのは、世界各国が、彼らを保護する対策を取らなかったからだ。戦禍の市民を見捨てたも同然だ。

今回の国連安保理の協議では、見せかけと空約束を排し、民間人を保護し、戦争犯罪を阻止し、加害者を裁きにかけるための具体的な行動が必要である。

アムネスティ国際ニュース
2019年5月22日