香港:逃亡犯条例改正案に関する要請書

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. 公開書簡
  4. 香港:逃亡犯条例改正案に関する要請書
2019年6月13日
[公開書簡]
国・地域:
トピック:

2019年6月5日

香港特別行政区行政長官 林鄭月娥 殿

公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
事務局長 中川 英明

逃亡犯条例改正案に関する要請書

アムネスティ・インターナショナルは、香港政府が進める容疑者引き渡しに関わる逃亡犯条例と刑事共助条例の改正につきまして、重大な懸念を表明いたします。

現行の条例は、容疑者の引き渡しと刑事共助の適用から中国本土を明確に除外しています。この対応は、中国本土の深刻な人権状況に対する市民や法律家らの懸念を、熟慮の上、反映させたものです。

しかし、改正案では対象が拡大され、香港特別行政区にいる人物の中国本土への引き渡しが可能になります。居住者、訪問者、労働者、さらに空港のトランジット客、旅行者の所持品なども引き渡しの対象となります。

特に懸念されるのは、逃亡犯条例が定める違法行為の事前・事後のほう助、教唆、助言、あっせん、扇動、共犯などに問われれば、誰もが中国本土への移送の対象となります。

司法の独立性が欠如し、司法手続きの不備が不当な裁判の温床になっている中国本土の状況を考えますと、改正案は、香港にいる人権擁護者、記者、NGO関係者、ソーシャルワーカーなど、中国本土に関わる仕事に従事する者すべてにとって脅威となりかねません。例え違法と見なされる行為時に中国本土内にいなかったとしても対象となります。

アムネスティは、香港政府に対して、逃亡犯条例と刑事共助条例の改正案の即時撤回を求めます。

また、刑事共助条例の改正案では、中国本土から要請を受けた警察に、個人の取り調べや家宅捜索、所持品・財産の押収・差し押さえなどの対応を認めています。

押収した証拠が違法行為を明白に裏付けると見なされれば、裁判所は、容疑者の引き渡しを命令することができます。

改正案の重大な欠陥

香港保安局は、改正条例案には人権に対する保護措置が十分盛り込まれており、裁判所は、引き渡しを判断する際は、相手国の人権状況を考慮すると強調しています。しかし、これらの保護措置規定が、現実に機能するとは思えません。

  1. 出入国管理条例では、中国に対して拷問のおそれがあることを理由にした引き渡し要請の拒否を認めていない。
  2. 裁判所は、中国本土を含む他国の人権問題を調査する司法権も法的義務も持たない。
  3. 逃亡犯条例の改正案は、香港の刑事司法制度が個人に認める最低限の権利と同等の権利を保障していない。
  4. 裁判所の審理の範囲は、逃亡犯条例が定める要件を香港政府が遵守しているか否かの確認に留まる。
  5. 香港が協定を結ばない国から逮捕・引き渡しの要請を受けた場合、これまでは法的審査を行っていたが、それが除外されている。

香港にも適用される自由権規約(市民的および政治的権利に関する国際規約)、香港も法的義務を負う拷問等禁止条約(拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰に関する条約)、国際慣習法は、劣悪な環境での無期限拘束や、拷問や虐待などの重大な人権侵害を受けるおそれが高い国への送還を禁じています。また、現行の法律と実情に照らせば、香港政府が、容疑者が死刑を受けるおそれのある国への引き渡しを拒否するのは、当然の義務です。もし、この義務に従わないのであれば、政府は、その判断の信頼性・合理性を、司法による審査において、すべての情報を開示して説明しなければなりません。

中国では、過去に恣意的拘禁、拷問や虐待、公正な裁判の権利の重大な侵害、強制失踪、隔離拘禁などが行われてきたことが明らかになっています。司法機関が、政府や中国共産党からの独立性がないことで引き起こされる数多の人権侵害は、深刻になるばかりです。従って、容疑者が中国へ引き渡されると重大な人権侵害を受けるおそれが十分あり、非常に懸念されます。

アムネスティは、香港政府に対して逃亡犯条例および刑事共助条例の改正手続きを直ちに中止するように求めます。

※オリジナルの英語版の書簡は、6月5日に提出しています。

最新のニュースを配信中!メールマガジンに登録する