感染の脅威、当局の圧力から医療・介護従事者を守れ

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2020年7月17日
[国際事務局発表ニュース]
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(C) Luis Alvarenga/Getty Images
(C) Luis Alvarenga/Getty Images

各国政府は、新型コロナウイルス感染症から保護されずに亡くなった医療・介護従事者やその現場を支える人たち、およびエッセンシャル・ワーカーの死に対する責任を取るべきだ。

アムネスティは、新型コロナウイルスが大流行する中、各国の医療・介護従事者が置かれている状況について調査した。

入手した情報を分析した結果、世界で少なくとも3,000人の医療・介護従事者が新型ウイルス感染症で亡くなっていることがわかった。実際の死者数は、この数をはるかに超えると思われる。

感染対策の問題点を指摘した医療・介護従事者が、雇用主からの脅迫や解雇、あるいは当局による拘束や逮捕などの嫌がらせや報復を受けていることも判明した。

パンデミック(世界的大流行)が加速する中、アムネスティは、各国政府に対し医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーの保護対策に直ちに真剣に取り組むよう求める。

まだ大流行に至っていない国は、医療・介護従事者らの感染保護を怠って社会が壊滅的な事態に陥っている国から学び、同じ過ちを繰り返してはならない。

調査結果で特に気がかりなのは、職場で感染するおそれがあると訴えた医療・介護従事者らを処罰している国が複数あることだ。

新型コロナウイルスに対し最前線で尽力する医療・介護従事者は、国の施策が機能しているか否かを最初に知る立場にある。彼らの意見を封じる国に、公衆衛生を語る資格はない。

医療・介護従事者の死者3,000人以上

現在のところ、感染で死亡した医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーの人数を各国が捕捉できる体制にはなっていない。

従ってアムネスティは、入手可能な各種データを集め、分析した。その結果、新型コロナウイルス感染症で死亡した医療・介護従事者の数は、世界79カ国で3,000人を超えることがわかった。

死者が多い国(カッコ内は死者数)は、ロシア(545)、英国(540・介護士262人を含む)、米国(507)、ブラジル(351)、メキシコ(248)、イタリア(188)、エジプト(111)、イラン(91)、エクアドル(82)、スペイン(63)と続く。

各国の数値は、過少に見積もったと思われるため、死者の総数は、3,000人をはるかに超えるとみられる。また、例えばフランスの死者数は、数カ所の病院や医療施設から得られた死者数の合計である一方、エジプトやロシアの数値は保健団体からの提供で政府はその数値を認めていないなど、集計根拠が異なるため、国別の単純な比較はできない。

防護具不足

アムネスティが直接調査した63の国と地域のほぼすべてで、医療・介護従事者が、個人用防護具の不足を訴えた。その中には、インドやブラジル、アフリカなど、まだ、感染爆発が起きていない国も含まれている。

メキシコシティの医師の一人は、「どの医師も、月収の12パーセントほどを防護具の購入に充てている」と話した。

防護具は、世界的な供給不足にあることに加え、輸出制限が不足に拍車をかけているとみられる。

今年6月、56カ国と2貿易圏(EUとユーラシア経済連合)が、防護具やそのパーツの輸出の禁止や制限措置を取った。どの国でも、自国の医療・介護従事者用に十分な防護具の確保が喫緊の課題だが、防護具を輸入に頼る国にとっては、輸出規制で深刻な防護具不足に陥るおそれがある。新型コロナのパンデミックへの対処は、世界各国の協調が不可欠だ。

訴えに報復

アムネスティが調査したうち少なくとも31カ国で、感染のおそれがある労働環境に抗議する医療・介護従事者、エッセンシャル・ワーカーのストや抗議があった。これらの行動に対して、多くの国の当局は、報復的対応を取った。

エジプトでは、3月から6月の3カ月で、9人の医療・介護従事者らが、「虚偽のニュースの拡散」や「テロ」の容疑で逮捕・勾留された。9人とも、職場の感染防止対策への不安や国のパンデミック対応を批判していた。また、ある医師の話によれば、複数の批判的な医師が、国家安全保障局から脅迫、取り調べ、処罰などを受けているという。

「多くの医師は、徒労に終わる要求より、自腹を切って自衛することを選ぶ」「当局が医師に迫っているのは、死か刑務所か、究極の選択だ」と話した。

ストや抗議をしたことで当局から報復を受けているのは、他の国でも同様だ。

マレーシアでは、病院の清掃人5人が満足な防護具を支給されず、防護具を要求すると不当な扱いを受けた。会社に抗議したところ、警官に逮捕され、その後、違法集会の容疑で訴追された。

医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーは、不当な扱いに対して抗議する権利を持っている。

医療・介護従事者は、市民を感染から守る国の対応を後押しする役割を担っている。しかし、収監されたり、当局の報復をおそれて声を上げられなかったりすれば、こうした役割を果たすこともできなくなる。

数カ国で、医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーが、解雇や懲罰処分を受けたという報告があった。

米国では、イリノイ州の老人ホームで働く女性準介護師が、防護具を要望するメッセージを読み上げる動画をフェイスブックに投稿して、解雇された。女性によると、老人ホームのスタッフは、施設が感染者を受け入れていることを知ったのは、メディアの報道だったという。5月29日現在、その施設の感染者数は34人、感染による死者は15人だった。

ロシアでは、2人の医師が防護具不足を訴えたことで、一人は嘘のニュースを流した罪で罰金を、もう一人は懲戒処分を、それぞれ受けるおそれがある。

不当な賃金と手当

医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーの中には、感染の脅威にさらされる労働環境に加え、賃金が不当に低かったり、中にはまったく受け取っていなかったりする人もいる。

例えば南スーダンでは、国立病院の医師らが2月から給料が支払われておらず、福利厚生や医療保険から外されていた。グアテマラでは、新型コロナ患者がいる病院で、清掃業務に就いていた46人が、賃金を受け取っていなかった。

新型コロナ流行の中、医療・介護従事者とエッセンシャル・ワーカーが、特別手当の支給を受けられるか否かは国により異なる。手当を支給しない国もあれば、職種により支給している国もある。

アムネスティは、各国に新型コロナウイルス感染を業務上の疾病と認定するよう求めている。国は医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーが感染した場合、補償や手当てを受けられるようにしなければならない。彼らが、PCR検査を優先的に受けられるようにすることも、言うまでもない。

恥辱と暴力

医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーの中には、感染者と接触する仕事であることから、はずかしめや暴力を受ける人たちがいる。

メキシコでは看護師が街を歩いていて塩素を浴びせられ、フィリピンでは病院の施設管理員が顔に漂白剤をかけられた。

嫌がらせの発生は、デマや誹謗中傷を許す空気があるということであり、政府がウイルス感染について正しい情報を発信することがいかに重要かということだ。

パキスタンでは4月以降、医療・介護従事者に対する暴力が相次いでいる。一件では、病院が襲撃を受け、複数の医師が襲われ、そのうちの一人は、あろうことか出動した反テロ部隊に射殺された。また、各地の病院は、ベッドや人工呼吸器などの不足で重症患者さえ受け入れることができなかった。この状況は周知のことだったにもかかわらず、数人の政府閣僚が「どの病院の設備も整っている」と発言した。その結果、病院側がこれ以上患者を受け入れる余地がないと説明しても来院者は耳をかさず、病院関係者は厳しい対応を迫られた。

提言

アムネスティは、新型コロナウイスの影響を受けているすべての国に対し、今後、大規模な集団感染が発生したときにどう備え、人権と人命をどう守るかについて、市民を交えた検討を第三者機関の主導で実施するよう求める。

医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーが、公正で安全な労働環境で働く権利や表現の自由の権利などを守られているか、という視点も欠かせない。

各国政府は、勤務中に感染した医療・介護従事者やエッセンシャル・ワーカーらには、十分な補償を持って対応すべきだ。また、感染のおそれがあると指摘したために報復を受ければ調査に乗り出し、解雇されれば職場に復帰させるなどの救済措置を取らなければならない。

背景情報

本記事では、「医療・介護従事者」は、医師、看護師、介護福祉士、清掃員、救急車の運転手、施設管理者など、医療や介護現場の専門家とその裏方を指す。

当記事は、得られた情報の関係で、医療・介護従事者を主に取り上げたが、エッセンシャル・ワーカー(社会に不可欠な職業の従事者:公共交通機関、電力、ゴミ収集などの公共サービス、食料品店や配送などウイルス流行中も営業を許可されている分野等)も、新型コロナ危機の最前線で感染の脅威にさらされ、同様の問題を抱えていることを忘れてはならない。

いずれのデータも、7月6日現在。

アムネスティ国際ニュース
2020年7月13日

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