ワクチンの知的所有権の一時停止を急げ

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2020年12月15日
[国際事務局発表ニュース]
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(C) Bloomberg via Getty Images
(C) Bloomberg via Getty Images

12月10日の世界貿易機関(WTO)の主要国会議で、「知的所有権の貿易に関連する側面に関する協定(TRIPS協定)」に対する提案が議論された。提案は、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬等に関し、知的所有権保護に関する規定を一時的に適用停止にすることを求めている。WTO加盟国はワクチンが世界に適正に行き渡るようにするために、この提案を認めるべきだ。

同提案は、インドと南アフリカが提起し、ケニア、エスワティニ、モザンビーク、パキスタンの4カ国が共同で提出したもので、知的所有権の壁を取り払うことで技術移転を促し、後発の製薬会社がワクチンや治療薬を迅速に製造し、安価に提供できるようにする狙いがある。

富裕国の中には、すでに来年供給が見込まれるワクチンの大量購入契約を結んでいる国がある。さらに、すでにワクチン接種が始まった英国や、間もなく始まるとみられている国もある。この提案が実現すれば、貧しい国の人びとへのワクチンの供給を後押しすることにつながる。

WTO会議において、加盟国は、新型コロナウイルス用ワクチンの公平な供給の促進に向け、ワクチンや治療薬の知的所有権規定の適用停止の提案を受け入れるべきだ。その結果、より多くの国が、自国の人びとの生命と健康への権利を尊重する義務を果たすことが可能になる。

今回の提案は、世界が直面する公衆衛生の危機に取り組む国を支援することを目的としている。各国政府は、迅速な手続きでこの提案を承認し、ワクチンなど救命につながる医薬品が、必要とするすべての人に安価に届けられるようにするべきだ。

共同提案が出された10月のWHO会議では、主に低・中所得の100カ国が、歓迎あるいは支持した。しかし、ブラジル、欧州連合、カナダ、米国、日本、英国など少数の富める国とその貿易相手国からは、反対の声が上がった。

反対国の中には、世界の知的財産権に関する諸規則にはすでに柔軟性があり、低・中所得国で強制実施権(発動されると、当該特許権者の事前承諾を得ることなく、その技術を使うことができる)が発動されれば十分だと主張する国もある。しかし、これまで強制実施権の発動は容易でなかったため、世界で猛威を振るう新型コロナウイルスに対応するには、より柔軟な対応が求められている。

世界の国々が、人権上の義務を認識し、ワクチンを最も必要とする人びとが置き去りにされないよう保障するのでなければ、新型コロナウイルス感染を封じ込めることはできない。何十億人もの人が国を問わず、健康の権利の保護を求めている今、その状況に即応する姿勢を示す上で、知的所有権規定の一時適用停止は、極めて重要な意味を持つ。

各国は、すべての国が科学的研究の恩恵を共有し、健康と生命の権利に対する義務を果たそうとする他の国の取り組みを阻害しない義務を負う。その取り組みには、ワクチンや感染対策に必要な医薬品の確保や治療などがある。

こうした人の命を守る対応が、国や地域を問わず公平に行われるようにするため、すべての国が今回の提案を支持すべきだ。また、ファイザーとビオンテック、モデルナ、オックスフォード大学とアストラゼネカなどワクチン開発に取り組む会社は、WHOが推進する新型コロナウイルス感染症関連技術の共同利用に参加し、知的財産とノウハウの共有を促進すべきだ。

国連の人権専門家グループが最近、現行の枠組みには、医薬品の低価格化や利用を妨げるおそれがあると指摘した上で、TRIPS協定の今回の提案を歓迎する共同声明を出した。共同声明は、知的所有権が、科学的研究の恩恵を共有するという国際的な人権義務を果たす上で障害になってはならないことを各国政府に再確認させている。

アムネスティ国際ニュース
2020年12月10日

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