- 2021年3月24日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:
- トピック:強制立ち退き
(C) Amnesty International
新型コロナウイルスの流行が続く中、アフリカ南部の国々では、住民数千人が強制立ち退きを余儀なくされ、悲惨な状況におかれている。アムネスティの調査では、特にエスワティニとジンバブエで、当局が土地開発の名の下に、代替住居の提供などの保護手段を取らないまま、住民を強制的に立ち退かせている。
エスワティニのマドンサでは、100人以上が、国の年金管理機関「国家積立基金」による強制立ち退きに直面しながら、何年も暮らしてきた。住民らは最近、3月5日までの立ち退きを要求する通知書を受け取り、替わりの住居のあてもなく途方に暮れている。一方ジンバブエでは、チロンガの村で暮らす先住民族シャンガニの人びと1万2千人以上が、先祖代々の土地からの立ち退きに直面している。3月6日までの立ち退きの一時停止命令が裁判所から出たが、当局の脅しや嫌がらせは絶えない。
強制立ち退きにより、住民は困窮し、生きていくことさえ難しくなる。チロンガとマドンサの住民は、何年もの間、いつ我が家を失うかもしれない恐怖の中で生きてきた。
ジンバブエ政府もエスワティニ政府も、長年、利益のために人権を蔑ろにしてきた。法を無視し、住民との協議や代替住居の提供などすることなく、居住者を強制退去させている。新型コロナウイルス感染が拡大する最中、両政府が住民に路上生活を強いるのは、特に衝撃的だ。政府は、強制立ち退きを即時停止し、立ち退きの対象者の権利を守る法的措置を取らなければならない。
エスワティニでは、国家積立基金が2月16日、マドンサの住民に3月5日までの立ち退きを命じる通達を出し、106人が立ち退きを迫られている。
アムネスティは2018年の調査で、エスワティニの土地制度では、住民は土地の権利を保障されず、スワジの人びとの多くが強制立ち退きを受けやすいという重大な問題があることを明らかにした。
大部分の土地は国有地で、圧倒的な権限を持つ国王が部族長を通して個人や家族に「信託」という形で配分する。残りの土地は、企業や政府が所有する。
マドンサの住民は、伝統的手続きを踏んで土地を取得したと主張する。伝統的手続きとは、個人が部族長に忠義を誓い、その引き換えに部族への所属を認められ、土地が配分されるというものだ。
強制立ち退きは2012年に始まり、現在までに数千人が立ち退かされ、極度の貧困の中で暮らす。一方で、部族長に土地を配分されているため立ち退きは受けないと信じ、家を建てる人も多い。
当局は、立ち退きにあたり住民との協議や代替家屋を提供することはない。あまりに一方的だが、暴力的な追い出しを避けようと、すでに家を解体し始めている人もいる。
ジンバブエでは、先住民族シャンガニの1万2,000人以上が、家を失う危機にある。さらに、都市・周辺地域開発省が2月26日、数千人に居住地から直ちに出ていくよう通告した。酪農会社が牧草用の土地を確保するためだという。
国が、住民に即時の立ち退きを強いるのはもってのほかだが、さらに深刻なのは、何の補償も代替住居も提供されないという問題だ。ジンバブエが批准する国内・国際人権法では、いかなる状況でも強制立ち退きは認められない。
3月6日、裁判所は、強制立ち退き命令は不当だとして命令の一時差し止めを命じた。「何人も法律を無視して、住民をその住居から立ち退かせることはできない」とあらためて断じた。しかし、住民は、いつ立ち退きに遭うかもしれず、怯える日々を送っている。
背景情報
強制立ち退きとは、法的な保護や他の保障措置を受けず、住民の意思に反して自宅や土地から居住者を引き離すことだ。強制立ち退きは、住宅、水、衛生、食料に対する権利、生活手段の入手など、人びとの権利に直接的影響を及ぼす。
国際人権法では、立ち退きは、最終手段としてのみ認められる。実現可能なあらゆる代替手段を検証し、対象住民と十分な協議をするなどの適切な手続きで、住民を保護しなければならない。エスワティニとジンバブエは共に、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約(社会権規約)や、人および人民の権利に関するアフリカ憲章など、強制立ち退きを禁じる国際的、地域的人権条約を批准している。
アムネスティ国際ニュース
2021年3月11日