G7国の市民約7割がワクチンの特許放棄を支持

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2021年5月13日
[国際事務局発表ニュース]
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(C) Bloomberg via Getty Images
(C) Bloomberg via Getty Images

ワクチンの普及を目指す団体「民衆のワクチン連盟」の調べでは、G7各国の市民の圧倒的多数が、製薬企業がワクチンの製法と技術を広く共有するよう政府が動くべきだと考えていることがわかった。また、製薬企業はワクチン開発に伴うコストの正当な対価を受けるべきだが、製法の独占は問題だとみている。

5月5日、ロンドンでG7外務・開発大臣会議が2年ぶりに対面形式で開催され、世界貿易機関総会がオンラインで開かれる一方で、インドでは新型コロナウイルス感染による死者が急増している。

「民衆のワクチン連盟」によると、G7諸国では、市民の70%が、ワクチンの製法と技術の共有を国に求めている。ワクチン共有に向けた政府の対応について、国は企業に介入すべきだとの意見は、イタリアでは回答者の82%と最も多く、2番目に多いカナダでは76%だった。

英国ではジョンソン首相が、国内でのワクチン開発が首尾よく進んだ要因として「貪欲と資本主義」をあげた一方で、市民の74%は、国は大手製薬企業による製法や技術の独占をやめさせるべきだと考えている。国の介入への支持は、支持政党の枠を越え、保守党支持層73%、労働党83%、自由民主党79%だ。また、EU残留派83%、離脱派72%が国の介入に賛成する。

米国ではバイデン大統領がワクチンの製法の共有に対して、「希望と期待」を表明し、国民の69%も同じ意見を持つ。昨年の大統領選での投票別では、バイデン氏に投票した人の89%、トランプ支持者の65%が賛成する。日本では58%だ。EU加盟国でも賛成派が多数を占め、ドイツでは70%、フランスでは63%だ。

グローバル・ジャスティス・ナウのハイジ・チョウ・キャンペーン・政策部長は次のように語る。

「市民は、大手製薬企業の独占をいいとは思っていない。開発にはかなりの公的資金が注ぎ込まれおり、開発されたワクチンは世界の公共財であり、誰でもどこでも利用できるようにすべきだ。この考え方は、G7国の人びとにはかなり浸透する一方で、各国首脳は、周辺地域で大勢が亡くなっているのを見て見ぬふりをしている」

ワクチン製法のノウハウ共有を支持する市民が多いにもかかわらず、G7国は、依然として企業によるワクチン独占を擁護している。世界貿易機関では、インドと南アフリカほか100カ国以上が、ワクチンの知的財産権の一時放棄に賛成するが、米国、英国、日本、カナダ、EUなどが反対した。その後バイデン政権は、特許放棄に反対する立場を考え直す方針を打ち出した。

これまでのところ製薬企業も、ワクチン製造に関わるノウハウの共有を拒否している。開発に成功した製薬企業は、ワクチンと治療に関する技術の共有促進を目指して設立された「新型コロナウイルス感染症に関わるテクノロジー・アクセス・プール(C-TAP)」には参加していない。

ストップエイズのサーシャ・フィッツパトリック推進部長はこう話す。

「(感染拡大が)ひどい状況にあるインドを見れば、G7首脳は震え上がるはずだ。今は、特許保護がどうとかと言っている場合ではない。製薬企業間の調整はうまくいっていない。国が介入し、企業がワクチンの特許とノウハウを世界で共有するよう強く働きかける必要がある」

直近のG7大臣会合で、議長国英国の提案でパンデミック(感染大流行)対策が議論されたが、ワクチンの独占と知的財産の問題には触れられなかった。ファイザーなどの製薬企業は知財問題の提案準備作業に参加したが、新興国や他のワクチンメーカーには参加の声はかからなかった。

アムネスティのスティーヴ・コックバーン経済・社会正義部長はこう語る。

「G7各国は、資金を提供した製薬企業の利益より、世界の数百万人の命を優先する義務がある。命を救う技術を共有しないのは、国の指導者として大失敗。パンデミックで多数の市民が苦しんでいる状況を長引かせるだけだ」

4月、ゴードン・ブラウン元英国首相、エレン・ジョンソン・サーリーフ元リベリア大統領、フランソワ・オランド元フランス大統領など各国の元リーダーやノーベル賞受賞者ら175人が、バイデン大統領に書簡を送り、ワクチンの特許権の一時放棄を支持するよう訴えた。また、ローワン・ウィリアムズ前カンタベリー大司教、ケープタウンのタボ・マクゴバ英国国教会大司教、ローマカトリック教会のピーター・タークソン枢機卿など宗教指導者150人はG7各国に対し、ワクチンを「世界の共通財」と捉えるよう求めた。

オックスファムのアンナ・マリオット健康政策部長は次のように語る。

「富裕国が、ワクチン接種を待つ国々を尻目に接種を進める一方で、低中所得国では何千もの人びとが亡くなっている。G7の首脳は、現実を直視する必要がある。全員に行き渡るほどのワクチンがない。ワクチンの供給を拡大する上で最大の障壁は、利益に飢えた製薬数社が、ワクチン製造の特許保護に頑ななことだ。企業は自社の利益より人命を優先し、特許を放棄し生産増を進めるべきだ。今こそ、『民衆のワクチン』が求められているのだ」

聞き取りをした世界的疫学者の3人に2人が、新型コロナウイルスのまん延がこのまま続くと、1年以内に現在のワクチンが効かなくなるおそれがあると指摘した。 公衆衛生で国に助言する英国の緊急時科学助言グループ(SAGE)は、ワクチン問題に対応するために特許放棄を求めた。

モデルナ、ファイザー/ビオンテック、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ノババックス、オックスフォード大/アストラゼネカは、複数の国から数10億ドル、米国からは120億ドルの資金援助を受け、それぞれの国にワクチンの供給を約束している。オックスフォード大/アストラゼネカのワクチン開発費のおよそ97%は、公的資金だ。

各企業は今年、総額260億ドルの配当や自社株買いを行ったが、この額は、アフリカ大陸の人口と同じ13億人分以上のワクチン費用にあたる。

アムネスティ国際ニュース
2021年5月5日

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