アイルランド:セックスワークの犯罪化がセックスワーカーへの偏見と虐待を助長

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2022年1月27日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:アイルランド
トピック:

アイルランドで2017年に買春が犯罪化されたのは、人身売買の被害者やセックスワーカーを暴力や偏見などから保護するためたが、実際はセックスワーカーへの偏見や虐待を助長し、セックスワーカーを暴力から守ることはできていない事態にある。アムネスティが新たに発表した調査報告書で明らかにした。

聞き取り調査で、法律でセックスワークの一側面が犯罪になったことで、セックスワーカーは、警察への通報を控えるようになり、その結果、強かんや虐待などの暴力にさらされるリスクが高まっていることがわかった。また、セックスワーカーが他の仲間と同じ場所で仕事をすると売春宿とみなされ違法となるが、仲間がそばにいないと身の安全の確保が難しくなるという。

聞き取りに応えたセックスワーカーの多くは、セックスワークの全面的非犯罪化を望んでいる。また、他のセックスワーカーと同じ建物内で仕事をする方が安全で、暴力を受けるリスクが少ないと指摘する。アイルランド政府は、セックスワーカーの声に耳を傾けるべきだ。

セックスワーカーの一人はこう話す。「男性と一対一では、女性に勝ち目はない。仲間が同じ建物にいれば、何か起きても気づいてもらうことができるけれど、一人ではとても危険だ」

別のセックスワーカーは、「ある夜、私たちは目立たない袋小路に入って行ったので、警察に見つかることはなかった。車で入ることはできないから。でも、何かあったときの逃げ道もない。警察が入り口で客を待ち構えているから」と話す。

警察は盾ではなく脅威

また法律により、警察への不信と社会的な偏見は増し、これらの点もセックスワーカーの大きな懸念になっていることが、調査で明らかになっている。

聞き取りをした人たちの圧倒的多数が、仕事中に暴力を受けたことがあるという。それでも警察に通報しない。警察への不信と、通報しても何もしてもらえないという諦めがあるからだ。さらに、警察から嫌がらせを受けたり、警察から通知や嫌がらせを受けた大家に退去を言い渡され、ホームレスになったりするおそれがあるという。

一人のセックスワーカーは、「警察は、盾というより脅威」と話す。別のセックスワーカーは、「セックスワークは全面的に非犯罪化されるべき。でなければ、通報するのが怖い。どんな仕事でも悪い客はいるから、何かあれば通報できるのがいい。私たちにとって安心できる環境かどうかということ」と語る。

移住セックスワーカーの場合には、警察に通報すると在留資格や市民権の申請に影響する可能性もある。一人の移住ワーカーは、「警察を呼ぶとしたら死ぬ間際だけ。同じリスクなら、警察より客のほうがまし」と話す。

聞き取りをしたセックスワーカーにとっては、買春を違法とする法律は、人種、民族、性別、性自認、障がい、薬物使用、ホームレス、移民などの属性による偏見や差別を一層助長しているということだ。

調査で明らかになったのは、セックスワーカーの経験に基づく情報が不足していること、また政府に問題があるのは、性的搾取を目的とした人身売買とセックスワークを混同する時代錯誤や不備がある調査結果に依存していることだ。2017年の法案作成にあたり、政府は、当事者のセックスワーカーから十分な聞き取りをしていなかった。

政府は現在、性犯罪法の見直しに着手しているが、「今回は当事者の声を聞いてほしい」とセックスワーカーは訴えている。

この法律の見直しは、セックスワーカーの保護に向け必要不可欠だ。実効性のある保護の実現には、セックスワーカー自身の経験が、法律や政策に反映されるようにしなければならない。

背景情報

昨年12月にアムネスティが行った世論調査では、アイルランド市民の70パーセントが、法改正においてセックスワーカーの意見を聞くべきと考えており、73パーセントが、セックスワーカーは自らの身体と命について決定する権利があると考えている。

同国では2017年、刑法(性犯罪)法第4部で買春を犯罪化し、2人以上のセックスワーカーが同じ建物内で性的サービスを提供する売春宿に対する罰が厳罰化し、罰金5,000ユーロまたは最大12カ月の禁錮刑が科されるようになった。

アムネスティ国際ニュース
2022年1月25日

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