ペガサスプロジェクト:スパイウェアによる被害続く 強い規制が急務

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2022年7月27日
[国際事務局発表ニュース]
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昨年7月、「ペガサスプロジェクト」で個人がスパイウェアによる監視下にある実態が公表されてから1年、スパイウェアの世界的な規制は進まない中、監視業界が野放しにされている状況が続いている。

ペガサスプロジェクトは、イスラエルの企業NSOグループが開発したスパイウェア「ペガサス」についての調査プロジェクトで、パリの非営利団体「フォービドゥン・ストーリーズ」のコーディネートのもと10カ国17の報道機関の記者が参加した。アムネスティはスパイウェアの携帯情報への侵入状況の解析を担当し、セキュリティ―ラボが最先端のデジタル技術と調査手法を用いて、多数の携帯電話が標的になり侵入されていたことを確認した。携帯電話の持ち主には、世界中の人権活動家、政治指導者、ジャーナリスト、弁護士らが含まれていた。

同調査プロジェクトは、監視業界に対する規制が急務だとして警鐘を鳴らすものだった。しかし残念ながら世界中の国は、いまだデジタル監視という深刻な問題への対応の強化を怠っている。

その後、監視業界に規制を繰り返し求めた結果、ある程度の前進は見られる一方で、国の対応はまだまだ充分とは言えなかった。その結果、依然として監視業界が世界的規模の人権侵害により利益を得るという状況が続いている。

NSOグループのスパイウェアの標的になった人たちには、国の救済を受ける権利がある。実効性ある対応を取らない国の無策ぶりは、この侵略的なソフトウェアの標的にされ、身体的、精神的に被害を被った人たちへの侮蔑とも言える。

昨年、モロッコ/西サハラとポーランドでもペガサスの標的となった新たな事例が明らかになった。さらにアムネスティのセキュリティーラボは、エルサルバドル、イスラエル/被占領パレスチナ地域、ポーランド、スペインでも、ペガサスによる違法な監視が行われているという数多くの事例を独自に特定している。

違法な監視はプライバシーの権利の侵害であり、表現、意見の表明、結社、集会の自由の権利の侵害でもある。

極めて「暴力的な」検閲

アムネスティは何年にもわたり違法な監視を調べてきた。国家による人権侵害や企業が違法な監視で利益を得ていることを示す証拠は、枚挙にいとまがない。

ペガサスの標的にされた事例は、毎月、確認されている。アムネスティは、標的にされた被害者に聞き取りをしたが、彼らの苦悩は深刻だ。

エルサルバドルのジャーナリスト、ジュリア・ガバレテさんは「犯罪への対応に開発された強力なツールが、独立系ジャーナリストや人権活動家から情報を盗むために利用されているのは、非常に残念だ。被害者の背後に誰がいるのか、何の手がかりもない。自分の一挙手一投足が何者かの手中にあることや、誰に責任があるのか正解がないことに、怒りを覚えずにはいられない」と語る。

「標的になったことで私の通信方法も、訪れる場所も変わった。自分だけでなく通信の相手を守るために、共有する情報について深く考えるようにもなった。ジャーナリストとして情報源を守る義務があり、一人の女性としても家族や友人を守る必要がある。監視は私たちの仕事と生活への挑戦だ」

フランス在住のモロッコ人ジャーナリスト、ヒチャム・マンスウリさんはこう話す。

「監視は、大変乱暴な検閲だ。仕事面、生活面で自分の意見を言うことができなくなるからだ。 監視側の狙いはそこにある。こちら側を被害妄想に陥らせ、周囲から孤立させ、牢獄に閉じ込めるのだ」

調査が進行中

NSOグループに対する捜査と訴訟が現在、フランス、インド、メキシコ、ポーランドで進んでいる。

今年3月、欧州議会で欧州でのペガサスなどのスパイウェアの使用状況を調査する「ペガ委員会」が設置された。

昨年11月、米国議会は「国家の安全または外交政策上の利益に反する活動に従事している」として、NSOグループを貿易取引制限リストに載せた。

同月後半、アップル社は顧客を監視・標的にした責任を追求するとして、NSOグループを提訴している。

この数週間、米国の防衛請負業者L3ハリス・テクノロジーズ社がペガサスのソフトウェアの所有権買収に向けた協議に入ったと報じられている。このためNSOグループの今後の行方は見通せない。

NSOグループが責任回避に向けてビジネスモデルを変える試みを、どんなものでも許してはならない。監視業界全体が破綻しており、業界の改革は喫緊の課題だ。アムネスティは、スパイウェアの使用に関する人権保護規定が整備されるまで、スパイウェアの販売、移転、使用に関する世界的な停止を求め続ける。

各国は、個人の人権を尊重するだけでなく、企業を含む第三者による人権侵害から個人を保護する国際法上の義務を負う。

アムネスティ国際ニュース
2022年7月18日

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