電池メーカーに対する新たな規制 人権侵害の被害者保護には不十分

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2022年12月27日
[国際事務局発表ニュース]
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トピック:企業の社会的責任

EU(欧州連合)で、電気自動車や電子機器などに使用される電池を販売する企業に対し、サプライチェーン(※1)での人権侵害や環境破壊の防止を目的とする新たな規則の遵守を求める法律が可決した。

新法には、人権侵害や環境破壊を引き起こすことなく再生可能な製品に移行しなければならないという強い意志が込められている。電気自動車の駆動力でもある電池の製造に欠かせない鉱物の採掘とサプライチェーンに、しばしば人権侵害と環境破壊が起きているからだ。

しかし、同法は、水質汚染、強制退去、児童労働などの問題に対処する基準を定めている一方、電池に使用するすべての原材料に適用されるわけではない。また、被害者保護の対策としては不十分であり、問題がある企業が民事責任を問われることもない。

気候変動への対処にはエネルギーの転換は欠かせない。一方、電動自動車の利用者増は、コバルト、ニッケル、リチウムなどへの大幅な需要増につながっているが、採掘現場では、7歳ほどの子どもが危険な環境で採掘をさせられるなど、さまざまな人権侵害が起きている。

また新法は、エネルギーの転換が起きているサプライチェーン上にある企業がその不作為で人権侵害を起こしたとき、被害者の救済手段の強化に向けた対策には触れていない。

声を上げ、補償を求めて奮闘する被害者が、欧州裁判所に申し立てができるような措置が欠かせない。

背景情報

12月9日に成立した法律は、EU市場で販売する電池生産者に対し、人と環境に関わるさまざまなリスクの特定と対応を義務付けている。同法はまた、現在使用されている電池の原材料をリサイクルする上での最低限の要件を設けている。

2027年以降、電池メーカーは、使用済みのニッケルとコバルトの90%を回収し、2031年には回収率を95%に引き上げなければならないと定めている。また、リチウムについては、その回収率を2027年から50%に、2031年には80%に引き上げられるとしている。さらに、電池のバリューチェーン(※2)全体のカーボン・ディスクロージャー(排出される二酸化炭素量を可視化し、その情報を公開すること)も求めている。

2030年までの需要を満たすには、世界で現行より少なくとも2倍のニッケル、8倍のマンガン、10倍のコバルトとリチウムの生産が必要とされている。

一方で、アムネスティの調査で、これらの原材料を採取する現場で人権を脅かす行為がたびたび発生していることがわかっている。

※1 サプライチェーン:製品等の原材料・部品調達から生産加工、販売、消費までの一連の流れ
※2 バリューチェーン:製品等が顧客に届くまでの各活動における一連の付加価値。サプライチェーンが物の連鎖であるのに対し、バリューチェンは価値の連鎖に着目する

アムネスティ国際ニュース
2022年12月13日

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