人権の進展 2022

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. ブログ
  4. 人権の進展 2022
2023年6月13日
[ブログ]
国・地域:
トピック:

2022年、メディアでは時に悲惨なニュースが絶え間なく報じられることがあり、気が重くなることもあった。しかし、一方で嬉しいニュースも数多く届いたことも忘れてはならない。

2022年を通じ、アムネスティが世界中で取り組んだキャンペーンや政策提言などさまざまな活動は、人権侵害を受けていた人たちが置かれていた事態の改善に大きく貢献した。不当に拘束されている人たちが刑務所から釈放され、人権侵害の加害者が罪に問われ、国レベルや国際レベルで、人権に資する法案や決議案が可決されるなど、数多くの進展があった。世界的な死刑廃止に向けた進展も続いた。さらに、女性の権利やLGBTI(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人びとの権利にも大きな前進がみられた。

2022年の人権活動の成果を示す事例を紹介する。

不当な拘束を解かれた人たち

アムネスティの粘り強い要請活動が、世界中で不当な拘束を受けていた人たちの釈放や、被害者家族への正義、人権侵害の加害者の責任追求などに結びついた。

1月、タリバンに不当に拘束されていた大学教授のファイズラ・ジャラルさんが釈放された。

2月、スリランカの弁護士ヒジャーズ・ヒズボラさんが保釈された。ヒズボラさんは、テロ防止法違反の容疑で2年近く拘禁されていた。同様の容疑で拘禁されていたアーナフ・モハメド・イムランさんとディバニヤ・ムクンタンさんも、それぞれ8月と9月に保釈された。

ホンジュラスでは、鉄鋼採掘から川を守ろうとしたために2年以上収監されてい環境活動家8人が、自由を手にしました。

3月、グアテマラで、先住民族マヤのベルナルド・カアル・ソルさんの早期釈放が実現した。ソルさんは、先住民族にとって神聖な川での水力発電建設中止を求めたために、罪をでっちあげられて有罪判決を受けた。前年2021年のライティングマラソンでは、ソルさんの釈放を求める市民の手紙やメールや署名は、50万件に達した。

ケニアのアムネスティ地域事務所で自由を祝うマガイ・マティオップ・ンゴングさん
ケニアのアムネスティ地域事務所で自由を祝うマガイ・マティオップ・ンゴングさん ©Amnesty International

南スーダンでは、15歳の時に犯した罪で死刑判決を受けたマガイ・マティオップ・ンゴングさんが釈放された。2019年のライティングマラソンでは、釈放を求める70万以上の声が当局に送られた。

5月、慢性自己免疫疾患を抱える中で行政拘禁されていたパレスチナ人アマル・ナクレさん(18歳)が釈放された。アムネスイティは16カ月間、ナクレさんの釈放を求める活動を展開していた。

7月、ロシアの裁判所でユリア・ツヴェトコワさんが無罪判決を言い渡された。ネット上に公開したボディー・ポジティブな膣の絵をめぐり、ユリアさんは「ポルノ画の制作と流布」の罪に問われていた。

8月、教室で科学と宗教の違いを考えさせる授業をしたことで拘束された教諭のフリデイ・チャンドラ・モンダルさんが、釈放された。その後、モンダルさんの容疑は取り下げられた。

8月、SNSの投稿が冒涜罪にあたるとして勾留されていたモルディブの活動家ラスサム・ムジュタバさんが釈放された。アムネスティはムジュタバさんの釈放を求める緊急行動(UA)を展開していた。

10月、サウジアラビアで3年以上不当に拘置されてたパレスチナ人モハメド・アル=フダリさんが、息子のハニ・アル=フダリさんと共に釈放された。親子とも虚偽の容疑で禁錮刑を言い渡され収監されていた。ハニ・アル=フダリさんたちは、2月に刑期が終了したにもかかわらず刑務所に留め置かれたままだったため、アムネスティは2人の釈放を求める活動を続けていた。

11月、パレスチナ自治政府の刑務所で拷問を受けたと主張していたパレスチナ人男性6人が、保釈された。アムネスティが当局に働きかけて2週間足らずのことだった。

11月、アムネスティ・アルゼンチン支部の活動が功を奏し、戦火を逃れてきたウクライナ人家族のアルゼンチンへの入国が認められ、同国で生活できるようになった。

12月、イエメンではジャーナリストのユニス・アブデルサラムさんが釈放された。アブデルサラムさんは、表現の自由を行使したというだけで1年も拘束されていた。

被害者家族に正義を 加害者に処罰を

4月、マラウイでアルビノのマクドナルド・マサムカさんを殺害した容疑で12人が有罪判決を言い渡された。

ベルタ・カセレさん
ベルタ・カセレさん ©Goldman Environmental Prize

ホンジュラスで環境保護活動と先住民族の権利擁護活動をしていたベルタ・カセレさんが2016年に殺害された事件で、裁きがようやく一部もたらされた。6月、デビッド・カスティーヨ被告が殺害の共謀で禁錮刑が言い渡された。他の殺人犯にも司直の手が入るよう、アムネスティは引き続きこの件に取り組んでいる。

10月、米国当局の圧力とバイデン大統領のイスラエル訪問を受け、イスラエル国防省は、殺害されたパレスチナ系米国人オマール・アサドさんの賠償金を家族に支払うことに同意した。アサドさんは1月、検問所のイスラエル兵士に暴行を受け命を落とした。

パレスチナ系米国人ジャーナリスト、シリーン・アブ・アクレさんが5月にイスラエル兵に殺害された事件で、米連邦捜査局は11月、殺害事件の捜査に入ることをイスラエル政府に通告した。

12月、シリア難民バシャール・アブデル・サウドさんが8月に拘禁中に死亡した事件で、レバノンの判事は国家治安局の職員5人を拷問容疑で起訴した。

死刑廃止に向けた動き

死刑の全面廃止に向けたアムネスティの全世界での活動は、2022年も大きな成果をあげた。多くの国が死刑を廃止するか、廃止に向けた手続きを取った。

1月、カザフスタンではすべての犯罪で死刑が廃止された。4月、パプアニューギニアも再導入から30年を経て死刑を撤廃した。

麻薬密売の罪でシンガポールで死刑執行の危機にあったマレーシア人の執行停止を求めて抗議する活動家
麻薬密売の罪でシンガポールで死刑執行の危機にあったマレーシア人の執行停止を求めて抗議する活動家 ©AFP via Getty Images

5月、ザンビアの大統領はSNSで、死刑廃止に向けた手続きを開始すると発表し、6月には、マレーシア政府が11の犯罪に適用されていた絶対的法定刑としての死刑を排除する手続きに入った。

9月、赤道ギニアでは刑法から死刑規定を削除した新法が施行された。

また、サハラ以南アフリカ地域では、圧倒的多数の国(ケニア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエなど)が死刑制度を存置しているが、いずれの国でもこの年も死刑の執行がなかった。

画期的な国内法と国際協定

国内と国際レベルの双方で、アムネスティの活動は、重要な法案や決議案の可決や企業の人権責任の遂行を後押しする上で大きな役割を果たした。

国レベルの動き

米国では、難民と移民の権利向上に大きな進展があった。一例を挙げれば、3月、国土安全保障省がアフガニスタン人に「一時的保護資格」を認めたことで、2022年3月以前にビザ無しで米国に入国したアフガニスタン人が、タリバン政権下の母国に強制送還されるおそれが当面なくなった。アムネスティ米国支部は、庇護を求めるアフガニスタン人に市民権を与える法案の成立を求めるキャンペーンを実施した。

5月にはインドの最高裁が、152年前に施行された治安妨害法を停止する措置をとった。この措置は、表現の自由の権利を保護・推進する上で勝利と言える。

シエラレオネ政府は6月、1902年に成立した時代錯誤的で差別的な「精神異常法」に代わる法律として、国際人権基準にさらに準拠した精神衛生法を起草した。アムネスティは、2021年の人権報告書の同国の欄でこの問題を大きく取り上げていた。

ニジェールでは6月、国会でサイバー犯罪改正法案が採択され、名誉毀損罪と侮辱罪への実刑を廃止した。この法律はしばしば、人権擁護者、活動家、ジャーナリストなどの恣意的拘束に利用されていた。

米国では、アムネスティを含む複数の団体が銃犯罪に歯止めをかける法律の必要性を訴えていたが、6月に「安全なコミュニティ法」が可決され、施行された。その結果、「コミュニティ暴力防止プログラム」に追加で2億5千万ドルが充てられることになった。

ニジェールの紛争地帯で子どもを対象としたアムネスティの活動に進展があった。その一つが、国連による監視の強化だ。7月、国連総長は子どもと武力紛争特別代表に対し、国境地帯を含む中央サヘル地域での監視の強化を求めた。監視の強化については、アムネスティも報告書(2021年9月)で勧告していた。

またこの1年は、企業数社が人権擁護への取り組みを強化した年でもあった。

アムネスティの要請を受け、シエラレオネ当局は、コノ地方で操業するメヤ鉱業に地元住民の生活に悪影響を及ぼすおそれがある事態への対応を求めた。同社は当局に「住民の安全や飲料水の利用に関するさまざまな改善活動に取り組んでいる」と回答した。

アムネスティはャンマー国軍による戦争犯罪と航空燃料のサプライチェーンとのつながりを調査し、輸入ジェット燃料が空爆に使用され多数の犠牲者を出しているリスクを指摘した。これを受け、複数の企業がミャンマーへのジェット燃料の輸出停止を発表した。そのうちの一社プーマエナジーは、アムネスティが調査結果を公表してから2週間もたたないうちに撤退を発表した。タイオイルとノルウェーの船会社ウィルヘルムセンもサプライチェーンからの撤退を表明し、他の企業もこの動きに追随すると予想される。

国際的な動き

アムネスティの報告を受け、マイケル・リンク国連特別報告者が3月、イスラエルは被占領パレスチナ地域でアパルトヘイト政策を取っていると発言、7月にはバラクリシュナン・ラジャゴパル国連特別報告者も同様の指摘をするなど、イスラエルによるアパルトヘイトをめぐる専門家からの指摘が相次いだ。

4月、欧州連合がデジタルサービス法案で政治的合意に至った。同法は巨大IT企業に対して、プラットフォーム上での憎悪の促進や偽情報の拡散など、サービスがもたらすシステム上のリスク評価・管理などを義務付ける、画期的な規制枠組みだ。

7月の国連総会で健全な環境の権利を認める決議が可決された。同様の決議は2021年末に国連人権理事会でも採択されていた。

イスラエル国防省は、パレスチナの7市民団体をテロリスト集団だとして違法団体に指定したが、欧州のベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデンの10カ国は7月、イスラエル国防省の見解を批判した。米国政府は、8月にイスラエル軍が7団体の事務所を強制捜索したことに懸念を示し、10月には国連の専門家からも強制捜索を非難する声が上がった。

9月、国連人権理事会は第51回会合で、アフガニスタンに関する特別決議を発表した。アムネスティは、国連特別報告者に女性・少女の状況に関するテーマ別報告書を作成するよう求める内容を決議に入れることを提案していたが、複数の国がこの提案に賛同したことで、最終決議に盛り込まれることになった。

国連人権理事会は10月、「ベネズエラに関する事実調査団」の任期を2024年9月まで延長することを決めた。この調査団は、過去・現在の国際犯罪と人権侵害を調査し、定期的に報告する役割を担う。

11月、国連人権理事会は、イランの人権侵害を調査する事実調査団を設置する決議を採択した。イランでは、2022年9月16日に始まった全土の抗議行動が11月も続いていた。

10月、国連人権高等弁務官事務所によるスリランカ責任追及プロジェクトが、向こう2年間延長されることが決まった。このプロジェクトは、責任追及のための証拠の収集や保存をスリランカ政府に義務付けていた。これまでの人権侵害の被害者に補償を提供し、今後の人権侵害に歯止めをかける上で、証拠の収集や保存は重大な意味を持つ。

女性の権利の勝利

2022年は、アムネスティが先頭に立つ形で数々の女性の権利の向上を勝ち取った年だった。

妊娠24週までの中絶を非犯罪化するコロンビア高裁の決定を祝う人たち
妊娠24週までの中絶を非犯罪化するコロンビア高裁の決定を祝う人たち ©AFP via Getty Images

ラテンアメリカでの性と生殖に関する権利が進展した事例として、コロンビアで2月、妊娠24週目までの人工妊娠中絶が非犯罪化されたことが挙げられる。これは、アルゼンチンでの2020年の妊娠中絶合法化、メキシコでの2021年の中絶非犯罪化に続くものだ。

5月、スペイン下院が強かんの防止と起訴のための重要な措置を盛り込んだ法案を可決した。6月には、フィンランド国会も同意がない性行為を強かんとする改正法案を採択した。また、フィンランドは10月、北欧で最も厳しい中絶法の規定を緩和する法案を可決した。

9月、中絶が法的に認められているアルゼンチンで、中絶手術で不当に起訴されていた医師ミランダ・ルイスさんが無罪になった。

LGBTIの権利の勝利

アムネスティは2022年を通し、LGBTIの人たちの権利向上に貢献した。

韓国の最高裁は、未成年の子がいることをトランスジェンダーの法的性別変更を認めない理由にしてはならないとの判断を示した。この判決は、トランスジェンダーの尊厳、幸福、家族生活への権利を肯定する上で重要な意味を持つ。

7月には、スイスで全人口の3分の2近くの賛成で同性婚が合法化された。10月には、スロベニアでも憲法裁判所の判断を受けて同性婚が合法化された。

11月にはパキスタンで、上映が禁止されていたトランスジェンダーが主人公の映画「ジョイランド」が解禁になった。