アオテアロア・ニュージーランド:太平洋諸島の人びとを苦境に追いやる差別的な移住制度

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2025年10月 9日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:アオテアロア・ニュージーランド
トピック:気候変動と人権

アムネスティは、国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)を1か月後に控えた10月8日、新しい報告書を発表し、アオテアロア・ニュージーランド当局が気候被害を受けるおそれに直面するツバルとキリバスの住民に対し、家族を引き裂き子どもの権利を無視する差別的な移民政策を課していると指摘した。

本報告書は、気候変動の影響を受ける太平洋諸島の人びとに抽選でビザを発給するアオテアロア・ニュージーランドの移住制度が、年齢、障がいの有無、健康状態を理由に人びとを排除し、国際人権法に違反している実態を明らかにしている。さらに、同国でビザの滞在期限超過を余儀なくされ、国外退去の危険にさらされ続ける太平洋諸島出身者の現実にも迫っている。

太平洋諸島の人びとは二重の罰を受けている。彼らが引き起こしたのではない気候危機によって、そして彼らの権利を侵害する差別的な移住制度によって、だ。

差別的な移住制度

近年、気候変動・災害が太平洋地域全体で社会的不平等と経済的苦境を深刻化させる中、多くの人が移住を最善の選択肢だと考えるようになった。多くのツバルとキリバスの人にとっては、歴史的・文化的な結びつきが深いアオテアロア・ニュージーランドが最も現実的な移住先である。

しかし、同国の移住の枠組みは気候変動や災害の影響を考慮していない。ツバル、トンガ、フィジーの限られた数の国民に永住権を付与する太平洋アクセスカテゴリー居住ビザ(PAC)という制度があるが、対象となるのは18歳から45歳までの年齢層で、同国での就職が内定していて、かつ「許容可能な健康水準」にあることを証明できる者だけだ。これにより、障がいを持つ人や、アオテアロア・ニュージーランドにとって費用負担のある特定の病状を抱える人は対象外となる。

ツバルやキリバスの多くの人にとって、自国にとどまるか去るかは選択の問題ではなく、生存の問題だ。太平洋諸島の人びとは、自らの土地にとどまれるよう気候危機に対し適応策と緩和策を推し進め、並外れた回復力を示してきた。アオテアロア・ニュージーランド政府は、その彼らを差別なく彼らを支援するため、さらなる取り組みが必要である。

アムネスティは、ビザ要件のために離ればなれになった複数の障がい者とその家族に話を聞いた。

ツバル出身の視覚障がいを持つ教師は、2016年に6歳の娘と夫がアオテアロア・ニュージーランドに移住できるように、家族のPAC申請から自身の名前を削除せざるを得なかった。それ以来、彼女は家族と離ればなれになっている。

この女性は気候変動の影響について「満潮になると道路も家も水浸しになる。だから海から離れたい」と話した。娘の移住に同意したのは、離れるのは辛いが、娘により良い人生を送ってほしいからだという。 

「最初はニュージーランドに怒りを感じていませんでした。ビザは申請し続けていました。でも娘のことを思うと胸が痛みます。娘と離れるのは望んでいませんでした。子どもには辛いことです」

気候変動による極端な気象現象が起これば障がいを持つ人びとがより高い危険にさらされることを認識しながら、アオテアロア・ニュージーランドのような二酸化炭素排出量の多い国が、受け入れに要する費用を理由に受け入れられないと主張することは、到底容認できない。

悪化するツバルとキリバスの状況

ツバルとキリバスは海抜が平均2メートルと低く、海面上昇の影響を特に受けやすい。海岸浸食、洪水、干ばつに加え、水質・土壌汚染や塩害が深刻化、飲料水の確保は厳しくなり、食物を育てたり家を建てたりするのに適した土地は劇的に減少している。この状況は人びとの健康、特に高齢者や障がいを持つ人びとの健康に深刻な影響を及ぼしている。

ツバルの首都フナフティに住む女性がアムネスティに語ったところによると、清潔な飲料水の確保は困難になっているという。「私たちはバケツを持って政府庁舎に行き、毎日ろ過水を飲料水として汲んでいます」。

キリバスでは、海水による土壌汚染が深刻な問題となっている。ほとんどの作物の栽培ができなくなり、現在、島内の食料のほぼすべてが輸入に頼っている。輸入食品は種類が限られている上、高価で手が出せない場合が多い。

キリバス出身の女性はアムネスティにこう語った。「キリバスではまともな食べ物はほとんど見つかりません。米と缶詰しかなく、野菜とかそういうものは手に入りません。家で食べ物を育てたりもしません。熱波や干ばつ、高潮で、植物はすべて破壊されてしまったのです」

送還の危機に直面

アオテアロア・ニュージーランドに来たものの、ビザの期限が切れて非正規滞在者となった人びともまた、不安定な状況に置かれている。これに特化した保護制度がないため、こうした人びとは常に国外退去の恐怖に苛まれ、医療や教育を含む公共サービスを受けることもできない。

国際人権法の下では、すべての人が深刻な人権侵害の危険にさらされるおそれのある場所への強制的な移送から守られる権利がある。気候変動や災害が理由の人権侵害の場合もだ。

アムネスティは、気候変動で家を追われる状況を念頭に権利に基づいた移民政策となるよう、アオテアロア・ニュージーランド政府にすみやかな改革を要請している。その際、政府はワイタンギ条約(先住民族マオリの権利を保障する条約)および先住民族の権利との整合性も考慮する必要がある。

具体的には、移住を希望する人の家族単位の移住といった権利を保障するため、従来の移住要件を満たせない人に配慮した特別な人道ビザなどだ。また、ツバルとキリバス国民の国外退去停止を含む、国外退去に特化した保護措置も必要である。

アオテアロア・ニュージーランド、そして国際社会全体は、気候危機に直面する太平洋諸島の人びとの権利と尊厳を、自国と移住先の双方の地で保護し、尊重し、促進するため、今こそ行動を起こさなければならない。気候変動と移住問題への対応は、もはや政治的選択ではなく法的義務である。太平洋諸島が警鐘を鳴らしている。世界がここで行動を起こさなければ、あらゆる場所での失敗は避けられない。

アムネスティ国際ニュース
2025年10月8日

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