化石燃料インフラ 生態系と20億人の権利を危険にさらす

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2025年11月17日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:
トピック:気候変動と人権

アムネスティとベタープラネットラボは、化石燃料産業が世界の気候、人びと、生態系に与えている危害に関する報告書を発表し、化石燃料インフラが、世界で少なくとも20億人、世界総人口のおよそ4分の1の人びとの健康と暮らしを危険にさらしていることを訴えた。

報告書が明らかにしたのは、化石燃料の全ライフサイクルが、かけがえのない自然の生態系を破壊し、人権、とりわけ化石燃料インフラの近くで暮らしている人びとの人権を損なっていることだ。石炭、石油、ガスの設備の近くでは、癌、循環器疾患、生殖への悪影響など、健康への悪影響を招くことがわかっている。アムネスティはベタープラネットラボ(BPL)とともに、コロラド大学ボルダー校で、化石燃料生産の既存および将来の現場から起こり得る、地球規模の危害を測定する世界初のデータマッピングを実施した。

拡大し続ける化石燃料産業は、数十億の人びとの命を危険にさらし、気候系に取り返しのつかない変化を与えている。今日まで、化石燃料インフラに近接して生活している世界の人びとの数は、推計されていなかった。BPLとアムネスティとの共同作業により、化石燃料のライフサイクル全体におよぼす重大なリスクの規模が明らかになった。石炭、石油、ガスのプロジェクトは、気候の大混乱を引き起こし、人びとと自然に危害を与えている。

今回の報告書は、人権に与える気候危機の最悪の影響を軽減するため、国と企業が世界経済の「脱化石燃料」が不可欠だというさらに多くの証拠を提示している。化石燃料の時代は、今すぐ終わりにしなければならない。

BPLは調査と世界規模の計算を主導し、化石燃料インフラの既知の所在地データと、グリッド化された人口データ、重要生態系の指標となる一連のデータ、世界の日々の排出量グリッドデータ、先住民族の土地保有に関するデータを重ね合わせることで、化石燃料インフラにさらされている規模を図で可視化した。化石燃料プロジェクトの資料に食い違いがあり、さらに各国の国勢調査データも限られているため、BPLの調査結果は実際の規模より低いと思われる。

同報告書はまた、コロンビア大学ロースクールのスミスファミリー人権クリニックともに行った徹底的な定性調査に基づいている。調査では直接影響を受けているグアナバラ湾の小規模漁業を営む人びと(ブラジル)、先祖伝来の土地を守るために活動している先住民族ウェトスウェッテンの人びと(カナダ)、サルーム・デルタ沿岸の村人(セネガル)、学者、ジャーナリスト、市民社会団体、政府の職員など90人以上に対する聞き取りを行った。また、調査結果を裏付け、可視化するため、オープンソースのデータとリモートセンシング技術を利用している。さらに、これらを補完する形で、エクアドル、コロンビア、ナイジェリアの石油、ガスの大手企業に対するアムネスティの過去の調査結果・結論、継続中の活動も反映させている。

危険にさらされている人びとの驚異的な多さ

世界の170カ国に分散して操業している18,000以上の化石燃料インフラの5km以内には、少なくとも20億人が暮らしている。このうち、およそ5億2千万人が子どもで、4億6,300万人が設備の1km以内に住んでおり、はるかに高い環境と健康リスクにさらされている。また、世界の化石燃料インフラの16%以上が先住民族の土地にあり、彼らが際立って影響を受けている。また、地図に示された現存の化石燃料インフラの少なくとも32%は、1カ所以上の「極めて重要な生態系※1」と重なり合っている。

化石燃料産業は拡大し続けており、世界で3,500カ所以上の化石燃料インフラが計画中、開発中、または建設中だ。BPLの数字は、このような拡張がさらに1億3,500万の人びとを危険にさらすことを示す。注目すべきは、石油とガスのプロジェクト数は全大陸での増加が見込まれている一方で、石炭発電所と炭鉱が主に中国とインドで増加している点だ。

「各国政府は、化石燃料を段階的に廃止すると公約したが、新たな化石燃料プロジェクトが世界の最も重要な生態系で選択的に拡張し続けているという明確な証拠がある。これは、表明されている気候変動対策の目標に真っ向から対立するものだ」と、報告書の世界的な調査結果を支える論文を主導したBPLの上級データサイエンティストは言う。

化石燃料生産の犠牲者

化石燃料を採取し、加工し、運搬することは、近隣住民の人権を損ね、深刻な環境劣化、健康被害、文化と生計の喪失をもたらす。

聞き取りに応じた人たちの一部は、採取は、企業が脅しや強制を通じて行う、経済的あるいは文化的な略奪の一形態だと称した。「私たちは金銭が目当てではない。自分たちの物を取り戻したいだけだ。私たちはグアナバラ湾で漁がしたいだけなのだ。それは私たちの権利だ。それなのに、あの人たちは私たちの権利を奪っている」と、ブラジル、リオデジャネイロで小規模漁を営む漁師は言う。

アムネスティが話を聞いた環境人権保護活動家と先住民族の土地の権利活動家の全員が、深刻な安全上の危険に直面していた。その多くは、伝統的な生活様式と生態系の健全性を脅かしている企業活動に抵抗したことが原因だ。

国と企業関係者は、身体的な脅しやオンラインでの脅しだけでなく、法律を悪用して活動家を黙らせ、非合法化し、威嚇している。「私たちウェトスウェッテンが先祖伝来の土地を守るために立ち上がれば、犯罪者にされる。民事差し止め命令は、植民地時代の法的武器であり、私たちの地域社会を軍事化し、同胞を犯罪者に仕立て、先住民の同意なしに企業が破壊的な採取を行うための仕組みとなっている」と自分たちの土地のために闘っているウェトスウェッテンは言う。

化石燃料インフラに近接して住んでいる人たちは、企業側との直接、有意義な協議はなく、透明性に欠けていると非難する。多くの人が事業の活動範囲も拡張計画も十分理解しておらず、自分たちの地域に悪影響を及ぼす計画に同意したことはない、と述べた。

セネガルのサルーム・デルタでアムネスティが聞き取りをした人たちは、サンゴマールプロジェクト(海洋油田開発プロジェクト)が与える環境と経済社会上の潜在的影響についての情報が、当局とプロジェクト運営者のオーストラリアの化石燃料大手ウッドサイド・エナジー・グループから十分に提供されていないと懸念を口にした。

これらの事例は、世界の問題のほんの一例に過ぎない。最も影響を受けている複数のグループは、地域社会と運営企業の力の不均衡と効果的な救済策の欠如を非難した。化石燃料の時代は必ず終わりが来る。各国は、地域社会を守るために闘っている環境人権保護活動家を犯罪者扱いしてはならない。

各国は、活動家が直面している身体的脅迫、オンライン上の脅迫を調査し、緊急かつ公正なエネルギー移行を提唱する人たちが、安全かつ有意義に気候行動を形成できるよう、確固とした保護計画を確立しなければならない。

かけがえのない生態系の破壊

確認されたプロジェクトの多くが、汚染多発地域を生み出し、近隣の地域社会と非常に重要な生態系を「犠牲地帯※2」に変えている。化石燃料の調査、加工処理、開発、運送、廃棄は、人びとと野生生物に害を及ぼし、危険にさらし、深刻な汚染、温室効果ガスの排出、重要な生物多様性地域や炭素吸収源を損ねる原因となっている。

気候変動に関する国際的な合意に基づく公約や、化石燃料の段階的な廃止への速やかな着手を求める国連の度重なる呼びかけにもかかわらず、各国政府の取り組みはまったく不十分だ。化石燃料は今もって、世界の主要なエネルギー供給の80%を占める一方、産業界は、気候政策フォーラムで不適切な影響力を行使し、早急な段階的廃止を阻止しようと躍起になっている。

各国は、化石燃料の段階的廃止に迅速かつ公正に資金を投じて徹底して取り組み、人権を尊重した方法で生産される再生可能エネルギーへの公正な移行に着手すべきだ。アムネスティは、化石燃料不拡散条約の採択と履行を早急に求めている。

気候危機は、根深い不正義の現れであり、それを促進するものだ。この報告書は、今年のCOP30の開催国ブラジルが掲げる「COP30を先住民族、伝統的な地域社会、市民社会を含む森林住民の有意義な参加の場とする」という展望に応えるものだ。報告書は、化石燃料生産が世界中で気候と人権に及ぼしている危害の深刻さを明らかにし、先住民族と伝統的な地域社会が影響を偏って受けていることを浮き彫りにし、彼らが取り組む抵抗を強調している。

化石燃料産業とそれを支援する国は、何十年にもわたり、人類の発展には化石燃料が欠かせないと主張してきた。しかし、経済発展と称して、彼らは限度なく欲と利益のために働き、人権を侵害しながらほぼ罰せられることなく、大気、生物圏、海を破壊してきた。こうした継続的な構造と抑圧的な世界の化石燃料の政治経済に対して、私たちは共に抵抗し、世界の指導者たちに義務と公約を果たすよう要求しなければならない。人間性が勝利しなければならないのだ。

※1 重要な生態系:生物多様性に富み、炭素隔離に不可欠な自然環境、または環境劣化が継続したり災害が起こると生態系が連鎖的に崩壊する可能性がある地域

※2 犠牲地帯:深刻に汚染され、その中で低所得者層や社会的弱者が不平等に汚染と有毒物質にさらされる区域。

アムネスティ国際ニュース
2025年11月12日

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