岐路に立つ世界 強権的で反人権的な新秩序に歯止めを

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. 国際事務局発表ニュース
  4. 岐路に立つ世界 強権的で反人権的な新秩序に歯止めを
2026年4月22日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:
トピック:

アムネスティは本日4月21日、毎年発行している世界の人権状況をまとめた『The State of the World’s Human Rights』を発表した。今回の報告書では144カ国の人権状況の評価の中で、強大な国家、企業、そして人権を否定する運動が多国間主義、国際法、人権を攻撃しており、世界が危険な新時代の瀬戸際に立っていると警告した。そして、国家、国際機関、市民社会は、事なかれ主義の政治姿勢を退け、攻撃に対し連帯して立ち向かわなければ、この新たな秩序が定着するだろうと指摘した。

私たちは今、現代において最も困難な局面に直面している。違法な戦争やあからさまな経済的威嚇によって自らの支配力を誇示しようとする、国境を越えた反人権運動や強権的かつ収奪的な政府によって、人類の尊厳が攻撃にさらされているのだ。

長年にわたり、アムネスティは世界中のあらゆる地域で人権が徐々に崩壊していることを糾弾し、政府や企業による甚だしいルール違反がもたらす結果について警鐘を鳴らしてきた。また、国際法に対するダブルスタンダードや選別的な遵守が、多国間体制や責任追及をいかに弱体化させてきたかを、繰り返し明らかにしてきた。

現在の状況がこれまでと根本的に異なる点は、もはや周辺で起きている問題ではないということだ。支配や不処罰、利益を目的に最も強力な主体が、人権とルールに基づく国際秩序の土台を直接、攻撃しているのだ。

中東で激化する紛争は、このように無法状態に陥った結果だ。米国とイスラエルによる国連憲章違反の攻撃がイランの無差別な報復を引き起こし、紛争は急速に民間人や民間インフラを攻撃する公然の戦闘状態へと変貌。すでに深刻で広範な苦難に直面している地域の人びとの状況を、さらに悪化させている。今やこの紛争は世界中の国々を巻き込み、あらゆる場所の人に影響を及ぼし、何百万人もの生計を脅かしている。人類の尊厳を守るために丹念に築き上げられた規範、制度、法的枠組みが支配を目的に空洞化されると、このような事態に陥る。

国際法の破壊を加速させる強権的な攻撃

本報告書やアムネスティが今年に入ってこれまでに発表した文書は、国際法上の犯罪の横行と、国際司法制度への攻撃の高まりを詳述している。こうした事態は、世界の人権を支えてきた基盤に著しく害を及ぼす。

イスラエルは、2025年10月の停戦合意にもかかわらず、ガザのパレスチナ人に対するジェノサイドと、パレスチナ人に対するアパルトヘイト体制を維持し続けている。同時に、東エルサレムを含む占領下のヨルダン川西岸で違法な入植拡大を加速させ、併合に向けて歩を進めている。入植者はパレスチナ人を攻撃し恐怖に陥れているが、イスラエル当局はこれをさらに容認・助長しており、高官たちは不当逮捕や被拘禁者への拷問など、パレスチナ人に対する暴力を称賛し美化している。

米国は、カリブ海と太平洋の船舶を爆撃して150件を超える超法規的処刑を行い、2026年1月にはベネズエラに対する侵略行為を実行。ロシアはウクライナの重要な民間インフラへの空爆を強化しており、一方、ミャンマー軍は、モーター付きパラグライダーを用いて村々に爆発物を投下し、子どもを含む数十人の民間人を殺害した。

アラブ首長国連邦は、スーダンの準軍事組織に兵器を供給することで同国の紛争を煽っている。コンゴ民主共和国では、ルワンダの積極的な支援を受けた武装集団M23がゴマとブカブの両都市を占領し、民間人を殺害し、拘束者を拷問した。

2026年初頭、米国とイスラエルによる国連憲章違反のイランへの違法な武力行使をきっかけに、イランはイスラエルおよび湾岸協力会議(GCC)加盟国に対して報復攻撃を行い、一方、イスラエルはレバノンへの攻撃をエスカレートさせた。イランの学校に対する米国の違法な空爆で100人以上の子どもが殺害されたことや、全紛争当事者がエネルギーインフラを攻撃したことなど、この紛争は数百万人の民間人の生命と健康を危険にさらしてきた。また、長期にわたって民間人および環境に広範な被害をもたらすことが予想され、すでに不安定な状況にあるこの地域とその周辺において、エネルギー、医療、食料、水の供給や利用に深刻な影響を及ぼしかねない。

アフガニスタンでは、タリバンが女性に対する抑圧的な政策を強化し、教育、就労、移動の自由をさらに制限した。一方、イランでは、2026年1月、当局が抗議者を虐殺した。この弾圧による死者数は、過去数十年で最多であろう。

米国、イスラエル、ロシアは昨年、国際的な責任追及の枠組み、とりわけ国際刑事裁判所(ICC)をさらに弱体化させた。トランプ政権はICC職員、協力者、および被占領地パレスチナに関する国連特別報告者に対して制裁を発動し、一方、ロシアの裁判所はICC職員に対する逮捕状を発行した。また複数の国が、ICCに関するローマ規程やクラスター爆弾禁止条約、対人地雷禁条約からの脱退を表明、あるいは脱退した。

大多数の国は、米国、ロシア、イスラエル、中国による強権的で収奪的な行為を非難したり外交的な解決策を模索することに、一貫して消極的であったか、あるいはその能力を欠いていた。欧州連合(EU)とほとんどの欧州諸国は、国際法や多国間の協調体制に対する米国の攻撃を容認。イスラエルによるジェノサイドの阻止や、世界中で国際法上の犯罪を助長している無責任な武器・技術移転を終わらせる実効性のある行動をとることができなかった。また、ICCの裁判官や検察官など米国の制裁対象者の保護に向け、制裁の効力が自国に及ぶことを防ぐ法制度を整備することにも消極的であった。一方でイタリアとハンガリーは、自国内におけるICCの逮捕状対象者の身柄拘束を拒否し、フランス、ドイツ、ポーランドも同様の対応をほのめかした。

世界の指導者たちは、国際法や多国間体制への攻撃に対し、従属的な姿勢をとり続けてきた。こうした沈黙と不作為には弁解の余地はない。道義的に破綻しており、結果として後退と敗北をもたらし、長年にわたって勝ち取ってきた人権の成果が消し去られるだけだ。侵略者に迎合することは、私たち全員を焼き尽くし、将来の世代の未来を焼き焦がす火に油を注ぐようなものだ。

過去80年間にわたって築かれた制度を、しょせん幻想に過ぎないと一蹴したくなる人もいるかもしれない。しかしそれでは、普遍的権利の承認、人種差別や女性に対する暴力から人びとを守るための国際条約や国内法の採択、労働者や労働組合の権利の明文化、先住民族の権利の承認などに向け、苦闘の末に勝ち取ってきた成果を無視することになる。また、各国が国連憲章および世界人権宣言を尊重してきたからこそ、貧困が軽減され、生殖に関する権利が強化され、正義が実現されてきたという実態を忘れ去ることでもある。

政治的・経済的収奪者たち、そして彼らを助長する者たちは、自分たちの覇権と支配に役立たないという理由で、多国間体制の終焉を宣言している。それに対する答えは、幻想だとか修復不能だとか宣告することではなく、失敗と向き合い、選択的な適用をやめ、あらゆる人を等しく守り抜くことができるよう、変革し続けることにある。

世界中で激化する市民社会への攻撃

2025年、市民社会や社会運動に対する攻撃が激化し、人権擁護者、人権団体、異議を唱える人びとの声を抑え込み、力を奪おうとする動きが、世界のほぼすべての地域に広がった。

ネパールとタンザニアの当局は、政治的・社会経済的な不満を表明する抗議活動を弾圧するために、違法で致死的な武力を用いた点で特に露骨だった。アフガニスタン、中国、エジプト、インド、ケニア、米国、ベネズエラなどの政府もまた、抗議活動を暴力的に弾圧し、対テロ法や治安法を通じて抗議の声を犯罪視したり、権力を乱用し人権を侵害する取り締まりや強制失踪、あるいは超法規的な処刑を行った。

英国では当局が、主にイスラエルの武器メーカーとその子会社を標的とする直接行動型抗議ネットワーク「パレスチナ・アクション」を、過度に広範な対テロ法に基づいて禁止、そして禁止措置に平和的に反対した2,700人以上を逮捕した。2026年2月、英国高等法院は禁止措置を違法とする判決を下しており、政府が現在、控訴している。

トルコ当局は、イスタンブール市長兼大統領候補のエクレム・イマモグルさんを逮捕した後、数百人の平和的抗議者を拘束した。トルコでは同氏を含め、政治的動機により400人以上が汚職容疑で起訴に直面している。

米国当局は、移民、難民、庇護希望者に対して違法な弾圧を開始。不必要かつ過剰な武力を行使し、人種的プロファイリングや恣意的な拘禁、さらには拷問や強制失踪に相当する行為に及んだ。ラテンアメリカでは、エクアドル、エルサルバドル、ニカラグア、パラグアイ、ペルー、ベネズエラなどの国々が、市民社会組織に対して過度な規制を課す法的枠組みを採択または改正した。こうした試みは、市民社会組織の運営や資金確保、地域社会を支援し人権を守る活動に直接、影響を及ぼしている。

多くの政府は、企業の協力を得て、スパイウェアやデジタル検閲を用いて、表現の自由や情報の権利を制限している。米国当局はAIを活用した監視ツールを用いて、パレスチナ人への連帯を表明した留学生を標的にし、逮捕や国外退去処分を行った。セルビア政府は、学生デモ参加者、市民社会、ジャーナリストに対してスパイウェアや本来は犯罪捜査に使うデジタル鑑識ツールを使用した。ケニア当局は、若者主導の抗議活動を抑圧するため、オンライン上での威圧、脅し、憎悪の扇動、違法な監視など、テクノロジーを活用した弾圧を戦術として展開した。

米国、カナダ、フランス、ドイツ、英国などは、海外援助予算の大幅な削減を発表または実施した。削減で数百万人の命が脅かされるであろうことを承知の上でだ。これはNGOが取り組んできた、報道の自由の促進、気候変動への適応力・回復力強化、ジェンダー正義の推進、難民・移民・庇護希望者の保護、医療支援や性と生殖に関する権利の実現に向けた支援などの活動に、壊滅的な影響を与えている。援助削減と軍事費の大幅な増額がセットになって予算が組まれた国もあった。

多くの国は、億万長者や巨大企業による強引な租税回避や脱税の抑制には動かず、その一方で企業権力に対する規制をさらに弱めた。米国では、スラップ訴訟(批判に対し名誉棄損などを主張して、相手を時間・費用・精神的消耗に追い込もうとする訴訟)が市民社会に萎縮効果をもたらし、ある訴訟では裁判所がグリーンピースに対し、化石燃料企業に3億4,500万ドル(約540億円・当初の6億6,000万ドルから減額)の損害賠償支払いを命じた。

気候変動を「詐欺」と表現する米国大統領が主導する状況下で、気候変動による避難民問題への対処、化石燃料からの公平な脱却、気候変動対策のための資金拡大などに向けた各国政府の取り組みは、まったく不十分だった。国連環境計画が、各国が現状の不十分な対策をこのまま続ければ、2100年までに世界の平均気温は産業革命前比で3℃上昇する軌道にあると警告していたにもかかわらずだ。

強権的な政府や企業が提案する国際秩序は、人種的正義、ジェンダー正義、気候正義を見下して切り捨て、市民社会を敵視し、国際的な連帯を拒絶するものであり、異議を封じ、法を攻撃の武器に使い、「他者」と見なす人びとを人間扱いしない状況の上に築かれるものだ。彼らの描く世界は、私たちに共通する人間性の尊重ではなく、軍事力、貿易での圧倒的な優位性、技術的覇権に基づいている。結局のところ、道徳的指針を欠く構想にほかならない。

抵抗と変革を主導する市民社会

こうした逆境にも屈することなく、世界中で何百万人もの人が不正義や権威主義的な行為に抗っている。

2025年には、インドネシア、ケニア、マダガスカル、モロッコ、ネパール、ペルーなど十数カ国でZ世代による抗議活動が巻き起こり、ハンガリーでは約30万人がLGBTIの権利を守るため、ブダペスト・プライドの禁止令に抗議した。2026年初頭にかけて、ロサンゼルスからミネアポリスに至るまで、デモ参加者は通りごと、ブロックごとに集まって、暴力的で高度に軍事化された米国の移民取り締りに反対の声を上げた。

イスラエルによるジェノサイドに抗議する大規模なデモが世界中に広がり、40カ国以上の人道支援活動家がパレスチナ人への連帯を示すため支援船団を派遣した。イスラエルへの武器供給に反対する世界的な運動も拡大し、フランス、ギリシャ、イタリア、モロッコ、スペイン、スウェーデンの港湾労働者たちは武器輸送ルートの妨害を試みた。こうした活動や法的圧力により、複数の国が武器輸出の制限や禁止に至った。

国際司法への攻撃を多くの政府が容認する一方で、いくつかの国や機関はこうした流れに抗い、多国間主義と法の支配を尊重する姿勢を示した。イスラエルがジェノサイドを行っていると認める国も増え、複数の国が、イスラエルの国際法違反を追及するために結成された「ハーグ・グループ」に参加したほか、南アフリカによる国際司法裁判所へのイスラエル提訴を支持した。

国連人権理事会は、アフガニスタンに関する独立調査機構を設置するとともに、コンゴ民主共和国東部に関する事実調査団および調査委員会を設け、さらにイランに関する事実調査団の任務継続を決定した。拘束力のある国連租税条約および人道に対する罪条約の策定に向けても著しい進展が見られ、国際司法裁判所と米州人権裁判所は、気候変動による被害に対処する国家の人権上の義務を確認する画期的な勧告的意見を出した。

2026年には、権威主義的な行動やルールに基づく国際秩序への攻撃に反対の声を上げ始める国が増えており、特にスペイン政府は原則に基づく立場を明確に示した。こうした呼びかけを支えるためには、断固とした行動を続ける必要がある。

街頭から多国間協議の場に至るまで、2025年は世界中の抗議者、外交官、政治指導者らによる、力強い抵抗と連帯の姿が見られた。私たちは彼らの模範と勇気を土台に大胆な連帯を築き、人権、法の支配、普遍的価値を中心に据えて、国際秩序を再構築しなければならない。

2026年を、私たちが主体性を発揮し、歴史はただ押し付けられるものではなく、私たち自身がつくり上げるものであることを示す年にしよう。人類の尊厳ために、いまこそ歴史を作る時だ。

アムネスティ国際ニュース
2026年4月21日

英語のニュースを読む