アジア/太平洋地域:<2019年人権状況>抗議デモを若者が主導

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2020年2月10日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:アジア/太平洋地域
トピック:

© Nicolas Asfouri / AFP via Getty Images
© Nicolas Asfouri / AFP via Getty Images

  • アムネスティはアジア太平洋地域の2019年年次報告書を発表。
  • 強まる弾圧に抗議し、若者が街頭に出た。
  • 警察はデモ参加者を拘束・勾留し、過剰な対応で死者も出した。
  • 人権を勝ち取る上で、デモは不可欠だった。

アジアで表現と集会の自由が制限を受け、弾圧が激化する中、若者が主導する抗議デモがアジア地域のうねりとなった。

アムネスティはアジアの年次報告書で、アジア太平洋の25カ国・地域における人権状況の動向を詳細に分析し、市民に強まる監視やSNSの制限、激しくなる弾圧に、若い世代がいかに抵抗し、闘ってきたかを記録した。

2019年は、アジア諸国にとって抑圧の年であるとともに、抵抗の年でもあった。

国家が、人びとの基本的自由を根こそぎにしようとする中、市民は果敢に抵抗し、若者はその闘いの最前線に立った。

強まる中国の介入に反発して、大規模なデモを率いた香港の学生。イスラム教徒に差別的な政策に抗議するインドの学生。新生野党のもとに結集するタイの若者。LGBTIの人びとに平等の権利を求める台湾のデモ参加者。インターネットでも街頭でも、若者主導の抗議運動は、社会に広まり、既成の体制に闘いを挑んだ。

香港市民に世界が共鳴

アジアの2大国、中国とインドはあからさまに人権を否定し、アジアの他の国々での弾圧の風潮を決定づけた。

香港では、容疑者を中国本土に引き渡す権限を香港政府に与える逃亡犯条例改正に反対するデモが、前例のない規模に拡大した。市民は6月から定期的にデモを行い、警察は、催涙ガス、襲撃、拘束、拘束中の暴行などで対抗した。

インドでは、イスラム教徒に差別的な政策に抗議するデモが、数百万人規模であった。インドネシアでは、市民の自由を脅かす法律の施行に対して、人びとが結集して反対した。アフガニスタンの市民は、長年続く紛争の終結を、命がけで求めた。パキスタンでは、非暴力のパシュトゥーン・タハフズ運動が、国家による弾圧、強制失踪、超法規的処刑などに抗議の声を上げた。

封じ込められる国家批判

抗議のデモや集会は、頻繁に治安当局の報復を受けた。

ベトナム、ラオス、カンボジア、タイでは、横暴な政権が、批判的言動に対して執拗に圧力をかけ、デモ参加者を逮捕・投獄し、批判的な報道を規制した。

インドネシアでは、警察が過剰な力でデモを鎮圧し、デモ参加者数人が亡くなった。警官は、誰一人取り調べられることも処罰されることもなかった。

パキスタンとバングラデシュでは、活動家やジャーナリストらが、表現の自由を制限され、インターネットでの政府批判を禁止する法律の標的にされた。

香港では、警察がデモ参加者への見せしめに拘束中に拷問するなど卑劣な手段を取った。警察の暴力に対し捜査を求める声が上がったが、警察が動くことはなかった。

各国当局はいかなる形の批判も封じ、表現の自由を抑制し、政府批判に多大な代償を払わせた。その非情さは、予期された通りだった。

こうした抑圧は「公平な社会など幻想だ」「経済格差はどうにもならない」「地球温暖化は止められない」「自然災害は避けられない」という当局からのメッセージだ。つまりは「国の言い分に異議を唱えることは、許されない」ということだ。

少数民族にのしかかる国家主義

インドや中国の、「自治区」とは名ばかりの地域で、少数民族の人びとは、国家の命令にわずかでも背くと「国家の脅威」とみなされ、処罰された。

中国の新彊ウイグル自治区では、ウイグル族などイスラム教徒が多数を占める少数民族100万人が、自らの文化や宗教を守ろうとしたために「脱過激化」教育の名のもと、強制収容された。

インド政府は、イスラム教徒が多数を占める唯一の州ジャム・カシミールで、同州の自治権をはく奪し、夜間外出の禁止、通信手段の遮断、政治的リーダーらの拘束など抑圧的施策を取った。

スリランカでは、4月の復活祭の日に教会などが爆破され、その後、イスラム教徒への襲撃事件が多発した。ゴダバヤ・ラージャパクサ新大統領の誕生で強権回帰が懸念され、人権状況の進展に影を落とした。

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、強引な薬物犯罪の取り締まりで多数の犠牲者を出したが、取り締まり方針を見直すことはなかった。

各国は、政権批判者を「外国勢力の手先だ」と決めつけて、取り締まりを正当化した。取り締まりには、SNSを巧妙に利用した。

アジアには、アジア諸国連合(ASEAN)と南アジア地域協力連合(SAARC)という地域協力機構があるが、そのいずれも、重大な人権侵害を抱える加盟国にその説明責任を問うことはなかった。

ミャンマー国軍がラカイン州のロヒンギャの人びとに行った人道に対する罪の捜査が、国際刑事裁判所(ICC)に付託された。

ICCは、フィリピンの薬物取り締まりなどで数千人の市民が警察に殺害された問題の捜査に着手した。また、アフガニスタンの戦争犯罪と人道に対する罪の正式捜査を認めないとしたICC予審裁判部門の判断を不服とする上訴審が行われた。

オーストラリアの難民と庇護希望者は、ナウル、マヌス、パプアニューギニアの島々の極めて劣悪な施設に収容され、心身ともに疲弊する状況が続いた。

逆風の中での進展

国家批判は、常に処罰の対象となった。しかし、人びとが立ち上がることで、変化が生まれた。そして、その訴えが報われた例は、数多くあった。

台湾では、根気強い運動の結果、同性婚が合法化された。スリランカでは、弁護士や活動家らが、死刑再開に反対する運動を展開し、死刑の再開を阻止した。

ブルネイでは、不貞や男性間の性行為に石打ちの刑を科す法律が、反対を受けて施行前に撤回された。マレーシアでは、ラザク元首相が汚職容疑で初めて出廷した。

パキスタンでは政府が、気候変動と大気汚染対策に取り組むことを約束した。モルディブでは、女性初の最高裁判所判事が2人、誕生した。

香港では、市民の抗議を受けた政府が、逃亡犯条例改正案の撤回に追い込まれた。ただ、警察による暴力に対する責任は誰も問われなかったため、デモは続いた。

2019年、アジアでの抗議活動は、血で染まったが、人びとの心は折れなかった。抑えつけらはしても、沈黙することはなかった。権力の手綱を締め人権侵害を強める政府に対し、抵抗への強い意志を示し続けたたのだ。

アムネスティ国際ニュース
2020年1月29日

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