クロアチア:入国者を暴力で排除する警察

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2020年6月19日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:クロアチア
トピック:難民と移民

(C) Danish Refugee Counci
(C) Danish Refugee Counci

ボスニア・ヘルツェゴビナとの国境沿いで移民・難民に対する人権侵害が激しくなる中、移民・難民の一団が警官から激しく殴打され、大怪我を負う事件が発生した。

5月16日の夜、西欧州を目指すパキスタンとアフガニスタンからの移民・難民16人が、ボスニア・ヘルツェゴビナの国境を超えてクロアチアに入ったとき、警官に拘束された。

特殊部隊の黒い制服を着た警官10人近くが空に向けて銃を撃った後、移民・難民に殴る蹴るの暴行を加え始めた。さらに、移民らがバックパックに持っていたケチャップやマヨネーズを出血する頭部やズボンに擦り付けた。暴行は夜中、5時間あまりも続いた。

欧州連合(EU)は、国境でのクロアチア警察の暴行と人権侵害をこれ以上黙認してはならない。欧州委員会は、警官の移民・難民に対する目に余る暴行を調査しなければならない。

心身に受けた拭い難い傷

アムネスティは、襲われた人たちのうち6人から話を聞いた。

警官の暴力で、10人が大怪我をした。男性の一人(30才)は、両腕と片足にギプスをはめ、頭と顔の傷とあざが生々しく、胸には激しい痛みがあった。移動に車椅子が必要で、歩けるまでには数カ月はかかるということだった。

長時間にわたる暴行を受けた後、国境警察に引き渡されたが、男性によると、血まみれの自分たちの様子を見て驚いた表情だったという。

ボスニア・ヘルツェゴビナの国境近くまで連れて行かれ、「ここから歩いて行け」と告げられた。立っていることさえできない人もいるというのに、隣国の町まで何時間も歩くなどできるわけがなかったが「歩けない奴は担いでやれ」とだけ言われた。

何人かはその後、国境沿いのヴェリカ・クラドゥサにある国際移住機関の施設にたどり着いた。しかし、歩けない5人は置き去りにするしかなかった。幸いにして難民キャンプで活動していたNGOスタッフに救助された。

常態化するクロアチア警察の暴力と押し戻し

過去3年間の数多くの報告で、クロアチアの国境での警官による暴行と押し戻しが繰り返えされていることが明らかになっている。その中には、真冬に衣服と靴を脱がされ、何時間も雪の中や凍つくほど冷たい川を歩かされた人たちもいる。

負傷者を診た外科医によると、損傷の多くは上腕骨など長骨や関節の骨折で、これらの部位の骨折は、治るのに時間がかかり、その間、不自由を強いられるという。

これこそが、クロアチア当局が意図する戦略のようだ。長期間の身体的精神的ダメージを与えて、二度と国境を超える意欲を削いでしまうのだ。

クロアチアの内務大臣はこれまでのところ、警官による暴行を否定し、捜査を拒否している。アムネスティは直接、内務大臣に暴力事件を詳細に記録した文書を送ったが、これまでのところ返答は得ていない。

加害警官の不処罰が繰り返されることで、国境での暴力と違法な追い返しに歯止めが掛からなくなっている。

クロアチアに説明を求めようとしないEU

欧州委員会は、今回のような大規模な人権侵害の報告や欧州議会からの再三の調査要請に対して、沈黙を守ったままだ。

EUは、クロアチアに対し国境警備におよそ7百万ユーロ(約8億5千万円)の支援金を拠出しているが、その大半が、警備関連のインフラや警官の配備や人件費に当てられている。また、EUは、支援金の一部30万ユーロ(3,600万円)が国境での対応を監視する予算だと説明するが、単なる目くらましに過ぎない。

さらに、昨年、クロアチアで人権侵害が日常化しているにもかかわらず、同国のシェンゲン地域への全面的な加入を推薦した。

クロアチアでは、警官が移民・難民たちの額に十字の焼き印を押すという激痛と屈辱を与えることもある。欧州委員会は、クロアチアのこのようなあからさまなEU法違反をこれ以上見過ごしてはならない。

欧州委員会は、クロアチアの違法行為を強く批判し、その人権侵害の調査に乗り出し、EUの支援金が警官の暴力や違法な移民の押し戻しに使われないようにすることが必要だ。さもなければ、EUはその入り口で行われている重大な人権侵害の加担者となり下がってしまう。

背景情報

クロアチア国境での暴行と押し戻しは、2017年後半から日常的に行われてきた。

デンマーク難民評議会は昨年だけでも、クロアチアからボスニア・ヘルツェゴビナへの強制送還や違法な押し戻しを7,000件近く確認した。その大半に、警官の暴行がからんでいた。

新型コロナ禍でのロックダウン(都市封鎖)で、押し戻し件数は減ったとはいえ、この4月だけでも1,600件あった。移動制限が解除され、気候が温かくなるにつれ、件数は日々増加している。

アムネスティは、2018年7月以降、クロアチアから押し戻された人たち160人以上から話を聞いてきた。その3分の1近くの人たちが、警官に殴打され、罵声を浴びせられ、身分証明書類や携帯電話を奪われた。警官の暴力の背景には、移民・難民の再入国を阻止したい当局の意思が働いているように思われる。

アムネスティ国際ニュース
2020年6月19日

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