ケニア:難民キャンプで危険にさらされるLGBTIの人びと

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2023年6月 5日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:ケニア
トピック:難民と移民

ケニア北西部にあるカクマ難民キャンプで暮らすLGBTI(レスビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス)の難民が、日常的にヘイトクライム(憎悪犯罪)や強かんなどの人権侵害に見舞われている。アムネスティとケニアの全国ゲイ・レスビアン人権委員会による合同調査で、同キャンプでのLGBTIへの人権侵害の実態が明らかになった。

カクマキャンプには20万人を超える難民が暮らす。数百人がLGBTIの人びとだ。難民であることに加え、性的指向や性自認のため、深刻な差別と暴力に直面している。LGBTIへのヘイトクライムは、LGBTIの難民が直面する差別の延長線上にある犯罪と言える。

調査では、2018年から2023年2月にかけてLGBTIの難民41人に聞き取りを実施した。その結果、LGBTIの人たちが脅しや暴行を受けても、当局の不作為で暴行の加害者のほとんどが何の処罰も受けていないことが浮き彫りになった。

ケニアにはすべての人の命と尊厳を保護する憲法があるにもかかわらず、LGBTI難民は公務員や警官、サービス提供者による差別や同性愛嫌悪・トランスジェンダー嫌悪の態度に苦しめられている。差別的な扱いは、難民申請の手続きでもしばしば見受けられ、ケニアでの定住や第三国への再定住の機会が大きく制限される事態になっている。

アフリカの54カ国中、32カ国で同性間の関係は違法とされ処罰の対象となることもある。ケニアでは、同性間の行為は最高14年の刑を受ける。

ヘイトクライムは、被害者や周囲への悪影響が長く続くため、政治家、検察や警察などには一貫した政策と対応が求められている。

証言

聞き取りで得た数多くの証言で、LGBTI難民がヘイトクライムを受けたと申し立てても動かない警察の組織的な怠慢が明らかになった。

レスビアンのエシャーさん(41歳)は、2度強かんされたと話す。2018年初め、キャンプの入り口近くの区画でシャワーを浴びている時、ナイフを持った男2人に襲われた。1人に抑えつけられ、もう1人に強かんされた。2度目は、その年の暮れ、自宅に押し入ってきた男4人に強かんされた。7歳の息子の目の前でのことだった。

もう1人のレスビアン女性ウィニーさんは、市場に店を持っていて、その店にはLGBTIの友人がよく買い物に来ていた。2019年のある日、ウィニーさんは用事で店に出られなくなったため、息子に店を頼んだ。息子が店番をしていると数人の男がやってきて、「LGBTIの客は他人の商売を邪魔している」と怒鳴りながら店を叩き潰し、息子に怪我を負わせた。ウィニーさんが警察に通報すると、「自分で襲撃犯を探し出して連れて来れば逮捕してやる」と言われたという。

一連の聞き取りで明らかになったことは、難民キャンプはLGBTIの難民にとって安全な場所ではないということだ。難民キャンプ政策を2021年の新難民法に沿った内容に改め、LGBTI難民の恒久的解決策につながる地域統合を実現するために、ケニア政府、国連高等難民弁務官(UNHCR)、第三国政府は、今回の調査に基づく勧告に沿った対応を取る必要がある。

アムネスティと全国ゲイ・レスビアン人権委員会はケニア政府に対し、カクマ難民キャンプにいるLGBTIの難民が心身の安全を確保できるよう早急の対応を求めている。また、当局はヘイトクライムを含む差別の撲滅に向け、被害者を含むLGBTIの人たちと実効性のある対応策を幅広く議論し、合意を得る必要がある。

LGBTIの難民一人ひとりに政策の恩恵が届くように、当局は難民キャンプ政策を変更し、あるいは政策の執行を一時的に中断して、一時的または恒久的にLGBTIの人たちをナイロビなどの都市部に移転させることも検討しなければならない。

また、難民を受け入れる第三国は、受け入れ人数を拡大するために、LGBTIの難民に対する柔軟な受け入れ方法の導入や拡大を検討すべきだ。LGBTI難民は第三国での定住を必要とするが、従来の再定住や移住に必要な資格を持たないからだ。

背景情報

ケニアは、東アフリカで性的指向、性自認、性表現などを理由に保護を求める個人を受け入れる唯一の国だ。

東アフリカでは、同性間の性行為や関係が犯罪とされ、LGBTIを否定する法律や文化的・宗教的伝統が根強く残っているため、LGBTIの人たちが他国に逃れざるをえない状況が続いている。

LGBTIの人たちの多くは、地理的に近いケニアに逃れる。しかし、ケニアの法律でも同性間の性的関係は犯罪とされ、LGBTIの権利が踏みにじられている。

今年4月、ケニア議会の議員が、家族保護法案を発表した。同法案は、同性関係をさらに犯罪化し、LGBTI向けサービスを違法とし、政府には、性的関心や性的指向に基づいてLGBTI難民の庇護を拒否あるいは追放することを義務付けている。

アムネスティ国際ニュース
2023年5月19日

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