グアテマラ:母親になることを強制された少女 条約機関が国の人権侵害を認める

  1. ホーム
  2. ニュースリリース
  3. 国際事務局発表ニュース
  4. グアテマラ:母親になることを強制された少女 条約機関が国の人権侵害を認める
2025年6月18日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:グアテマラ
トピック:性と生殖の権利

2025年6月5日、国連自由権規約委員会は、グアテマラは強かんにより妊娠した少女の人権を侵害したと結論付けた。この少女ファティマさんは、教師から繰り返し性的暴行を受け、その結果、妊娠継続と母親となることを強いられた。2019年の「ソン・ニーニャ・ノ・マドレ(母親じゃない、少女だ)」運動が起こした申し立てに対する裁定であり、「いかなる少女も望まない妊娠と母親になることを強いられてはならない」という基本原則を再確認するものだ。

「ソン・ニーニャ・ノ・マドレ」運動は今回の裁定を受け、「性暴行の被害者となった少女の人権を保護する根本的な先例だ。グアテマラ当局には、被害者が必要な法的支援と包括的な補償を保証し、再発を防止する責任があることをあらためて断言するものだ。また、ファティマさんに対する正義と、どの少女も子ども時代を奪われてはならないという彼女の強い願いの実現に向けた、重要な一歩だ」と述べた。

同委員会は、ファティマさんが妊娠を継続したくない意思をはっきり示したにもかかわらず、国は彼女の、尊厳のある生活を送る権利、身体に関する自己決定権、情報を得る権利、平等で差別を受けない権利を侵害したと強調。そして、母親となることを強いるのは、少女の個人的、教育的、職業的な目標を阻み、尊厳ある生活への権利を甚だしく損なうものだと指摘した。

委員会はまた、性的暴行、妊娠の強要、母親になることを強要したことが、自殺未遂に追い込むなどファティマさんに極度の苦しみを与えたと認定した。同様に、彼女が当然受けるべき生殖に関わる保健サービスを国が認めなかったことは、残虐で非人道的な扱いであり、女性の生殖機能をめぐる固定観念に基づく差別に当たるとした。

委員会はまた、グアテマラにおける児童妊娠の深刻な状況を踏まえ、ファティマさんのような事態を防ぐための再発防止措置を示した。グアテマラでは市民登録によると、2018年から2024年にかけ、10歳から14歳の少女の出産が1万4千件以上(年平均2千件)にのぼる。この傾向は続いており、グアテマラの性と生殖の健康に関する政策実施の監視機関の記録によると、2025年1月から3月まで、同じ年齢層の少女の出産数は556件だった。

委員会がグアテマラに要請した措置は以下の通りだ。

  • 生殖に関わる保健サービスが確実に受けられるようにし、医療、司法、行政の壁をなくすとともに、医療目的の妊娠中絶に関する現行の取り組みを強化する。
  • 包括的な性教育など、性暴力を防止するための行動を起こす。
  • 性暴力、妊娠の強要、母親となることを強要された被害者の公的補償政策を策定し、教育、保健、心理社会的な支援を行う。
  • 効果的な公共政策策定に向け、性暴力と妊娠強要の被害に関する全国統一の登録制度を構築する。
  • 保健、司法、教育に携わる者に対し、ジェンダーや子ども、人権に関する必須研修を行う。

生殖の権利のために活動する国際的な人権団体は次のように述べている。

「国連は、この世界において少女は誰しもが母親になることを強制されてはならない、そのことを私たちはもはや無視できないと認めたのだ。少女たちは学び、遊び、輝かしい未来を夢見るために生まれた。母親になる、あるいは暴力の結果を耐え忍ぶためではない。母親になることを強いるのは一種の拷問だ。そう国連は示したのだ。性暴力の根絶、基本的な保健サービスの確保、身体と人生設計の自己決定権などの少女の権利保障のために行動するのは国家の義務だ。ファティマさんの勇気に敬意を表し、全世界に基本的な事実を再認識させたい。彼女たちは母親ではない、少女なのだ」

人権規約員会は2025年1月にも、性暴力により望まぬ妊娠・出産を強いられた3人の少女(ノーマさん、ルチアさん、スザンナさん)の件での訴えに対し、エクアドルとニカラグアに責任があると結論づけた。また、2023年に児童の権利委員会は、性暴力により妊娠し流産した少女カミラさんが罪に問われた件に関し、ペルーは子どもの権利を侵害したと判断している。ファティマさんの件に関する裁定はこれらに続くものだ。

「こうした裁定は、自国の司法制度のもとで正義を何年も待っていた彼女たちだけでなく、強かんのような痛ましい事件の犠牲となり、何の保護もない状況下にある数多くの少女たちの希望の光となる。今回の裁定は、被害者たちの声が持つ力、力を合わせて闘うことの重要性、包括的な取り組みの緊急性を浮き彫りにした。少女が母親になることを強いられ子ども時代を諦めるようなことがあってはならない」(性と生殖に関する医療・教育の拡大に取り組む国際ネットワーク、プランド・ペアレントフッド・グローバル)

今回の裁定は、地域レベルだけではなく世界規模での人権保障の節目となる。自由権規約に加盟する170カ国以上に、国内法を改正して人工妊娠中絶を保障し、少女たちが望まぬ妊娠や母になることを強いられないような措置を義務付けたに等しい。

背景情報

ファティマさんは、社会経済的に恵まれない環境で育った。彼女が13歳の時(2009年~2010年)、皮肉にも、子どもを保護する責任のある機関の職員だった教師に強かんされ、妊娠させられた。制度はまったく役に立たなかった。保健担当者は彼女の妊娠を非難し、司法は加害者を逮捕できなかった。

妊娠中、学校職員から嫌がらせを受けたファティマさんは、学校を辞めざるを得なかった。彼女が復学したいと言ったとき、結婚を条件にされた。学校の成績がトップだったのにもかかわらず、休日のパレードで旗を持つことも許可されなかった。「妊娠中の学生がいるなど、どう思われるか」 というのが理由だった。ファティマさんと家族は復学のために法的支援を求めるしかなかった。

性暴力と望まない妊娠のため、ファティマさんは自殺を考えた。医療従事者からは、性暴力はファティマさんが招いたと責められた。

「ソン・ニーニャ・ノ・マドレ」運動について

ラテンアメリカにおける少女たちの権利に取り組む「ソン・ニーニャ・ノ・マドレ」は、プランド・ペアレントフッド・グローバル、アムネスティなど4団体が立ち上げた運動で、少女たちに対する性暴力と母親になることの強要がもたらす深刻な影響に関する情報提供を目的としている。現在、アメリカ大陸で10以上の団体が参加し、すべての少女たちが、健康で力強く安全に成長し、自分の健康と未来について、自由で十分な情報を得て決定できるよう取り組んでいる。

ノーマさん、ファティマさん、スザンナさん、ルチアさんの件では、国連人権委員会に対する画期的な戦略的訴訟を主導した。他の6団体と共同で、再発防止と適切な賠償を求めた。

アムネスティ国際ニュース
2025年6月9日

英語のニュースを読む

関連ニュースリリース