死刑廃止 - 著名人メッセージ:玉本英子さん(アジアプレス・ジャーナリスト)

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玉本英子(アジアプレス・ジャーナリスト)

1999年11月16日、カブールのサッカー競技場。ひとりのアフガニスタン女性が公開銃殺刑になった。彼女の名はザルミーナ。罪状は夫殺しだった。

ザルミーナは売春婦だった。妻の売春の事実を知った夫は、当時の権力者だったタリバンに訴えると彼女に言った。タリバンによる石打ちの刑を恐れたザルミーナは、その日の深夜、寝ている夫をハンマーで殴り、殺したのだ。

ザルミーナはなぜ売春をしていたのか。私は現地に入り取材をすすめた。 内戦が激しさを増す1994年。彼女は家族とともに、カブール市内の高校で避難生活をおくっていた。 夫が仕事で家を開けたある日の晩、ザルミーナは3人の男たちに強姦される。その後、ザルミーナは人が変わったようになり、売春をはじめたことが分かった。 戦争と混乱のなかで起きた強姦事件は、彼女のその後の人生に暗い影を落としたのだった。

競技場で2万人の大群集が見守るなか、青いブルカ姿のザルミーナは頭を撃ちぬかれた。この処刑の模様は、アフガニスタンの女性人権団体のメンバーによってビデオカメラで隠し撮りされていた。タリバンの実態を世界に伝えたい、決死の覚悟での撮影だった。

しかし当初この処刑映像は、あまりにも残酷と欧米のメディアから敬遠されたのだという。映像が世界に知られるようになったのは、2001年9月11日の同時多発攻撃以後のことだ。衝撃映像として、CNNなどを通じて繰り返し放送されたことで、タリバン批判が高まり、英米軍によるアフガニスタン空爆を容認する世論に与することとなった。

タリバンを「野蛮」と評したアメリカのブッシュ大統領だが、テキサス州知事時代(1995年~2000年)には、152人の死刑囚に対して、死刑執行の許可をくだしている。そして公開処刑は、アメリカでも行われている。オクラホマ連邦ビル爆破事件の犯人は薬物注射により死刑執行された。その模様は被害者家族と報道関係者に公開されている。

また日本にも死刑制度は存在する。もし、死刑執行の映像が隠し撮りされ世界に公開されたなら、日本も「野蛮で残酷な国」と批判を浴びるだろう。 公開であってもなくても、国家が人を殺す「死刑」という行為はあってはならない制度だと私は考えている。

玉本 英子(たまもと・えいこ)さんのプロフィール

1966年東京生まれ。デザイン事務所勤務を経て、94年よりアジアプレス所属。イラク、トルコなど中東地域を中心に取材を続けている。2004年、ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性を追って」を監督した。共著に「アジアのビデオジャーナリストたち」。

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