- 2006年3月15日
- 国・地域:フィリピン
- トピック:危機にある個人
「国民の生命」を脅かす国家の真の緊急事態においてとられる、表現や集会の自由などの基本的権利の制限措置は、他の権利や自由に対する危険と相応かつ必要最小限のものでなければならない。そのような保護対策は、フィリピンが締約国となっている国際法に謳われている。
またアムネスティは、緊急事態であろうがなかろうが、いかなる場合においても完全かつ無条件に尊重されるべき権利があることを、フィリピン政府に対して喚起する。それらは、恣意的に生命を奪われない権利、拷問を受けない権利、そして公正な裁判を受ける権利などである。
こうした中、アムネスティはフィリピン各地で起こっている左派の組織のメンバーの不法な殺害に関する情報について深い憂慮の念を表明する。
過去数年にわたり、バヤン・ムナ党やアナクパウィス党をはじめとする左派の政党メンバーが正体不明の武装集団に襲撃されているという報告が増えている。最近、こうした政党の国会議員が逮捕されたり、あるいは逮捕される恐れがあることに加え、左派政党が共産主義武装勢力に直接関係しているという声明を政府高官が繰り返し出していることによって、政治的殺害が助長される風潮を生み出している恐れがある。
アムネスティは、フィリピン政府が生命に対する権利を保護する義務を遵守し、とりわけすべての不法な殺害に対して迅速・完全かつ公正な調査を実施するよう要請する。このような調査によって、加害者は起訴され、処罰されなければならない。免責に立ち向かうため、政府当局は警察、軍、その他の治安部隊に対して、そのような不法な殺害に関与したり黙殺したりすることは決して許されないということを、明確に伝えなければならない。
先のクーデター未遂疑惑は、「反逆者」、あるいは報告されているクーデター謀議に関与したという嫌疑をかけられている左派と右派の政治家、軍人、その他の人びとの逮捕やその危険を引き起こした。アムネスティは、こうした動きによって恣意的な拘禁が増え、容疑者に対する司法手続きや公正な裁判の権利が侵害されることを懸念する。
とりわけ、アムネスティは、フィリピン法上の「継続的な犯罪」であるとされ、裁判所の令状がなくても身柄を拘束できる、「反逆者」嫌疑の適用について懸念する。この規定は、政治的意図によって不当に拘禁が利用される危険をはらんでいる。令状なしの逮捕による略式の審問手続きは、警察による申立ての根拠が法廷で十分に審理、検討されないうちに、長期にわたって拘禁されることにつながりかねない。
アムネスティはまた、最近の選択的な逮捕と刑事訴訟の開始には、明らかな政治的な意図があると懸念している。クーデター疑惑にはあらゆる政治組織が関与していると報道されているにもかかわらず、政治的左派が特に標的にされ、さまざまな偽りの起訴に基づく逮捕が続いている。
このことは、公表された逮捕者リストの48人以上が名の知られた左派の活動家、その多くは合法な政党のメンバーであること、また、2月25日に拘束されたアナクパウィス党の議員で73歳のクリスピン・ベルトランが、20年以上も昔のものを含むさまざまな容疑でいまだに拘禁が正当化されている状況からも、推察できる。クリスピン・ベルトランは心臓病と高血圧を患っており、アムネスティはベルトランが本人が選択する病院に移送され必要な治療を受けられるよう要請する。
背景情報
アロヨ大統領は、主流の野党、左派、共産主義者、「軍の冒険主義者」による政府転覆計画があったとして、2月24日に非常事態宣言を発令した。
非常事態宣言による権力によって、大統領は軍に対し、「すべての形態の無法な暴力を防止し鎮圧する」ことを命令した。警察は集会を禁止し、平和的なデモを解散させる際に警察が過剰な暴力を行使したという報告も複数ある。さらに、新聞社への家宅捜索の後に、「責任ある」報道に関する指針を尊重しなかったメディアに対して会社の閉鎖を迫った。
非常事態宣言は1週間後、当局がクーデターの脅威が緩和され、「法と秩序」が回復したと発表して解除された。しかし、当局は、必要に応じて非常事態宣言が再び発令されると警告し、表現の自由や平和的な集会の権利の制限に対する懸念は残されたままである。当局は少なくとも7人のジャーナリストを扇動の容疑で取り調べていると発表した。また、3月8日の国際女性デーに、左派政党アカバヤン党と労働組合連合の女性メンバーたちによる平和的な行進を警察が解散させた。アカバヤン党の女性議員と労働組合連合の代表が、警察によって「取調べに招待され」た。組合の指導者はその後、違法に集会を開いたという理由で起訴され。拘留された。
一方、クーデターを支持した容疑をかけられている複数の軍人が拘束され、クーデター計画に加わったという容疑で右派グループの指導者たちは刑事罰に問われた。しかし、政府当局は、国家の治安に対する主たる脅威は、合法的な左派グループによって支援されている共産主義者の暴動であると公に断言した。
フィリピン共産党(CPP)の軍事部門である新人民軍(NPA)に対する対暴動軍事行動が続く中、恣意的な拘禁、超法規的処刑、拷問といった人権侵害が継続的に報告されている。1970年代から政府と戦闘を続けているNPAによる人権侵害も報告されている。
NPAメンバーであるという他に、地域コミュニティの活動家、司祭、教会関係者、弁護士、左派政党(バヤン・ムナ党やアナクパウィスを含む)のメンバーが人権侵害を受ける危険に晒されている。彼らは、広い意味で共産運動に共感していると当局から見られている。また、ジャーナリストも人権を脅かされている。
2005年には、CPPとNPAの支持者と考えられて襲撃され、殺された人の数が劇的に増加した。また、革新左派グループとみなされた活動家が多数射殺された。報告によると、殺人犯はしばしば正体不明の男で、軍との関係が疑われている。当局は、こうした犯罪に対して効果的で公正な調査を実施せず、加害者を処罰できていない。そのため、フィリピンにおいて免責の風潮が広がっている。
アムネスティ国際ニュース
(2006年3月8日)
AI Index: ASA35/002/2006
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