イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ:ガザ支援船団の死者に関するイスラエルの調査は、「ごまかし」以外の何物でもない

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2011年2月 2日
国・地域:イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ
トピック:地域紛争
昨年、ガザに向かっていた支援船団が急襲された事件に関するイスラエルの調査結果は、「ごまかし」であり、9人のトルコ人が死亡したことの責任逃れであると、アムネスティ・インターナショナルは非難する。

2010年5月31日にイスラエル国防軍(IDF)がマヴィ・マルマラ号を拿捕し、乗船していた9人の活動家を殺害、他5隻の航行を妨害した件について、ティルケル氏を委員長とするイスラエルの調査委員会(ティルケル委員会)は1月23日に報告書を出し、IDFの行為は合法だったと結論づけた。この報告書は300ページにおよぶにもかかわらず、活動家らが死亡した状況について説明しておらず、個別の事例でIDFが具体的にとった行動について委員会がどのような結論に達したかについても触れていない。

死者を出したことについてティルケル委員会が説明責任を果たさずにいることは、イスラエル当局には自国軍の国際法違反について責任を追及する気がなく、またその能力もないという見方を裏付けるものである。このことからも、国連人権理事会が任命した国際事実調査団が出した正反対の結論に注意が向けられ、被害者が効果的な補償を受ける権利が守られるようにさらに後押しする必要性が浮き彫りになっている。同事実調査団は2010年9月22日に結論を発表したが、イスラエルの調査委員会は、そのことに一切触れていない。

ティルケル委員会は、マヴィ・マルマラ号襲撃事件で調査対象となったIDFの武力行使133件のうち、127件は国際法に沿ったもので、残りの6件(うち3件は実弾発射を伴うケース)については「十分な情報」がないため判定できないとしている。イスラエル軍の乗船に抵抗した人びとに対して軍がとった行動の合法性について、ティルケル委員会が国際人道法に基づいて検討することを選択したのは重要である。国際人道法は武力紛争に適用されるものであり、致死的な武力行使についての許容範囲もはるかに広い。今回の事件に国際人道法の法的枠組みを適用することに、アムネスティは断固として反対する。

ティルケル委員会は、どの武力行使で死者が出たかについて明示していないばかりか、このことについて情報を得ているかどうかについてさえ触れていない。だが同委員会は、死者を出した個々の武力行使についての詳細な分析、およびこの分析の根拠となったイスラエル軍兵士の供述書は報告書の未公開付属文書に含まれていると述べ、イスラエル政府に対し「これを公開する可能性を検討」するよう勧告している。アムネスティは、第三者機関がこれを読むことができるよう、速やかに公開することをイスラエル当局に要求する。

2010年9月に発表された国際事実調査団の報告書の結論は、マヴィ・マルマラ号急襲の際のIDFの武力行使は「不必要で不均衡、過剰、不適切で、多数の民間人乗船者から出さなくてすむはずの死傷者を出した」というものだった。同事実調査団は、法医学的証拠や火器使用の証拠に基づき、少なくとも6件の死亡事件は、超法規的・恣意的・即決処刑といえるものであると述べている。

また同事実調査団によると、マヴィ・マルマラ号の乗船者のうち少なくとも24人がイスラエル軍の実弾発砲で重傷を負い、他にもイスラエル兵士に抵抗を示していない乗船者らが電気ショック武器や、プラスティック弾、至近距離からの小散弾発射、スタン擲(てき)弾、あるいは腕力の行使により負傷させられたという。また船団の別の3隻、チャレンジャー1号、スフェンドニ号、エレフセリ・メソジオス号を停止させる目的でも、IDFが過剰な武力を行使したと同事実調査団は結論づけている。

ティルケル委員会は、IDFからの申し立てがあったにもかかわらず、活動家らが火器を積み込んでいたことを立証できなかったが、それでもマヴィ・マルマラ号の活動家らがイスラエル軍に対し火器を使用したと主張した。同委員会は、供述書を根拠にしてこのような結論を出したが、一方で、現場が「かなり混乱した状況」だったことが供述書からわかると認めている。供述書を提出した兵士らは反対尋問を受けていない。また、イスラエル軍の兵士2名が銃創の治療を受けた事実についても調査されていない。ティルケル委員会の報告書には、銃撃で負傷した兵士を治療した医療専門家が取り調べを受けたとは書かれておらず、負傷のもととなった発砲元を特定する弾道学的検査が行われたとも書かれていない。

これとは対照的に国際事実調査団は、「乗船者が火器を使用したり、船に火器が積み込まれたりしたことを示す証拠はみつからなかった」とし、船団の活動家が火器を使用したという申し立てを裏付ける医療記録その他の証拠を提供することをイスラエル当局が拒否したと記している。

ティルケル委員会の報告書は、分析の根拠となる証拠が限られていると記しているが、事件から報告書発表までの7カ月間にわたる調査の間、あらたな証拠や証言を得るために同委員会が十分な努力をしたとは到底言い難い。ティルケル委員会はイスラエル軍兵士を尋問する権限を持っていないため、根拠とするのは兵士らの供述書や、IDF上級将校や政治指導者の供述書および口頭の証言であるが、これらの多くは未公開である。

船団の700名を超える乗員・乗客のうち、ティルケル委員会が証言を聴取したのは、わずか2名である。乗船者の大多数がイスラエル在住ではなく、同委員会は証言を得るため乗船者を呼び寄せた。だが同委員会は本腰を入れて証言を得ようとはせず、国際事実調査団が集めた広範な目撃証言を利用しようとはしなかった。また、国際事実調査団への協力も拒否した。

さらにティルケル委員会は、遺体返還前に検死をしないようトルコ政府が要請してきたことを理由に、死亡者の検死報告書を閲覧することができなかったと述べている。しかしトルコ当局は遺体返還後に検死を行っており、国際事実調査団は検死報告書の閲覧要請をしたが、ティルケル委員会がこの要請をした形跡はない。

国際人権法や法執行基準ではなく国際人道法を適用することについて、ティルケル委員会は非常に論議の余地のある法的議論を展開した。同委員会はマヴィ・マルマラ号事件を、IDFと暴力を行使する活動家の間の武力衝突とみなし、活動家らは「武力衝突に直接参加する場合には民間人として保護されない」と主張した。ティルケル委員会は事実上、これらの活動家は、イスラエル軍の兵士の生命を直接におびやかしていなくても、射殺は合法であり得ると主張しているのだ。

アムネスティはこのような法解釈を認めない。そして、ガザ支援船団に対するイスラエルの妨害行為と、それに対するマヴィ・マルマラ号の乗船者の抵抗は武力紛争の要素を構成しないと考える。今回の事件に適用されるべきなのは、国際人権法や法執行基準である。したがって、武力行使(とくに致死的な武力行使)は、最終手段であるべきだった。

またアムネスティは、ガザ地区の地位、ガザ地区に対するイスラエルの管理の性質、イスラエルによるガザ封鎖に関するティルケル委員会の結論にも反対である。

ティルケル委員会は、バッショーニ対首相事件に関するイスラエル最高裁の判決を引用して、イスラエルによるガザ地区の「実効支配」は、2005年の「撤退」の下、ガザに駐屯していたイスラエル軍が撤退しガザ地区のイスラエル人不法入植地が撤去されたことによって終了したと主張した。アムネスティは、ガザ地区においてイスラエルは引き続き占領権力であると繰り返し強調してきた。その理由は、ガザ内部の「緩衝地帯」のみならず、ガザの土地の出入り、領空、領海を、イスラエルが引き続き支配しているからである。

ティルケル委員会は、ガザの海上封鎖の目的は「第一に安全保障」の問題だと結論づけているが、アムネスティはこれにも異議がある。調査委員会が引用したバッショーニのケースを含め、イスラエルはこれまで繰り返し、封鎖は「敵」に対する経済制裁であるとして正当化してきた。海上封鎖は、2007年6月に始まったイスラエル政府の封鎖政策(ジュネーブ第四条約違反の集団的懲罰である包囲)の文脈の中で査定されねばならない。

最後に、封鎖政策が合法であるというティルケル委員会の結論にも、アムネスティは反対である。ガザ包囲によって、2007年6月以降、ガザの150万人の全住民(その半数が子ども)がひどい目にあっている。ガザ支援船団急襲後の2010年6月、イスラエルは封鎖を「緩和する」とし、同年12月には一部の輸出を認めると発表したが、ガザの人道危機は終わらず、人口の80パーセントが、必要な基本食料品を国際援助に依存している。

2010年6月14日、イスラエル政府の決議により、同年5月31日の海上での事件を調査する政府委員会が設置された。委員長はヤコブ・ティルケル元最高裁判事で、アモス・ホレフ将軍、シャブタイ・ロゼーヌ教授(2010年9月21日死去)、ルーベン・メルハフ大使、ミゲル・ドイチュ教授などが委員となった。さらに外国人オブザーバーとして、デービッド・トリンブル元北アイルランド第一首相と、ケン・ワトキン元カナダ統合軍主席法務官が委員会の聴聞会に参加し、結果を承認する。委員会の報告書は以下で閲覧できる。(英語・ヘブライ語)
www.turkel-committee.gov.il/content-107.html

国際事実調査団は、国連人権理事会議長が、元国際刑事裁判所判事で元トリニダード・トバゴ司法長官のカール・T・ハドソン・フィリップス氏を団長に任命して設置された。他にメンバーとして任命されたのは、元国連シエラレオネ特別法廷の主任検察官デズモンド・ド・シルヴァ卿(英国)、アジア太平洋国際女性の権利行動監視協会創立メンバーで、元女性差別撤廃委員会委員メアリー・シャンティ・ダイリアム氏(マレーシア)だった。2010年9月29日、国連人権理事会は事実調査団が9月22日に出した報告書の結論を承認し、その実施を求める決議を採択した。同理事会はさらに、国連人権高等弁務官に対し、2011年3月の人権理事会第16会期で実施状況を報告するように要請し、国連総会に対し、報告書を審議するよう勧告した。

国際事実調査団の報告書の結論は、「効果的な救済を受ける権利がすべての被害者に保障されるべきである」、また、被害者は「十分に、また迅速に補償を受けるべきである」というものだった。そのうえで、イスラエル当局に対し、不法に獲得した財産を返還するよう求め、「犯人を訴追し、状況を解決に導く」ために、重大な人権侵害を行った者の特定に協力するよう要請した。最後に同調査団は、イスラエルによる封鎖は、「国際人道法に基づくイスラエルの義務に反する集団的懲罰」であり、その結果ガザで起きている「悲惨」で「容認できない」人道状況を緊急に解決する必要があると記した。

アムネスティ・インターナショナル声明
2011年1月28日