- 2012年2月13日
- 国・地域:イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ
- トピック:先住民族/少数民族
アムネスティは「移転を中止せよ:入植地拡大のためにベドウィンを住居から追い出そうとするイスラエル」と題する報告書を新たに発表した。報告書の中でアムネスティは、移転計画の対象である20のコミュニティでのすべての破壊行為を即時停止する命令を出すよう、イスラエル軍に要請している。
イスラエル軍の高官は先週、「被占領西岸地区のエルサレム地区で立ち退き対象であるベドウィン・コミュニティのひとつ、ハーン・アルアマールの取り壊し命令は、現在保留になっているが、これを実行することはない」と口頭で約束した。しかしこの口約束だけでは不十分であると、アムネスティは述べた。
「西岸地区でもっとも弱い立場にあるコミュニティに住んでいる数千のベドウィンの人たちが、イスラエル軍の計画により家屋と生計手段を破壊されようとしています。多くは難民として登録されており、1948年以来、何度も土地を追われた人もいます」と、アムネスティの中東・北アフリカプログラムの臨時副部長、アン・ハリソンは述べた。
「イスラエル当局は、被占領西岸地区のパレスチナ人に加えて、20のすべてのコミュニティの住民に対し必要で十分な居住権を保障しなければなりません。そのためには、強制立ち退きから住民を守り、すべてのコミュニティと誠実に協議することです」
2011年7月、イスラエル市民局はまず国連機関に対し、エルサレム地区の20のベドウィン・コミュニティの住民約2300名を立ち退かせ、エルサレム市の廃棄物処分場から約300メートルの場所に移す計画を伝えた。
これらのコミュニティは、すべてマーレ・アドミム入植地圏の違法入植地の近くにあり、多くが入植地拡張のための立ち退き対象となっている。
被占領西岸地区のC地区(イスラエルが都市計画と区域指定の権限を持つ)にあるこれらのコミュニティのほとんどの構造物は、必要な許可を得ずに違法に建築されたとイスラエル軍は考えている。しかし、C地区のパレスチナ・コミュニティが建築許可を得ることはほとんど不可能である。家屋、台所、外付けトイレ、畜舎、2つの小学校を含め、これらのコミュニティにあるほとんどの建築物は取り壊し命令を受けている。
イスラエル軍は、立ち退き計画についてベドウィン・コミュニティの代表と協議したことはない。コミュニティの代表たちは、もし廃棄物処理場近くの制限地域に移転すると、自分たちの伝統的な生活様式を維持できなくなるため、計画は拒否する、とアムネスティに語った。
1990年代後半、イスラエルは同じ地域にベドウィンの家族を移転させ、廃棄物処理場から150メートルほどの家屋に住まわせた。そこに暮らすベドウィンはアムネスティに対し、ここは自分たちの生活様式に適さず、牧草地不足のため家畜を売り払うしかなく、高い失業率に苦しんでいると述べた。中には立ち退かされた地域に戻った人びともいる。
イスラエル環境保護省によると、その廃棄物処理場は1日当たり最大1100トンのゴミを受け入れている。ほとんどがエルサレムからのゴミである。同省は、「この処分場はきちんと柵で囲われておらず大気汚染や土壌汚染を生み、水質汚濁の可能性もあるとし、またゴミの分解で生じる未処理のメタンガスによって爆発や火災の危険さえある」としている。
この場所への廃棄物の投棄は2012年後半で終了する予定だが、土地の修復計画のめどは皆目立っておらず、環境を害する要因が何年も放置される見通しである。
イスラエルの高官は、この立ち退き計画が実現すれば、移転したベドウィン・コミュニティが電気と水道を利用できるようになることを強調している。しかし、イスラエルがなぜそうした公共インフラを西岸地区の違法入植地と非公認の入植地には提供でき、従来のベドウィン・コミュニティには提供できないのか、説明はない。
20のベドウィン・コミュニティは立ち退き計画への対応を協議するために「保護委員会」を結成した。委員会は国際的に認められている帰還権に沿って、1950年代にイスラエル当局によって立ち退かされたイスラエルのネゲブ砂漠の土地に戻ることがより望ましいと述べた。
ベドウィン・コミュニティは、次の選択肢として、自分たちが現在の家屋に住み続け、水、電気、道路網を利用する権利をイスラエル当局が認め、さらに移動の恣意的な制限を解除することだとしている。こうした制限により多くのベドウィンは、かつて羊やヤギに牧草地の草を与えられたが、今後は飼料を買わなくてはならず、そのため家畜を売らざるをえなくなっている。
三つ目の選択肢として、もし市民局がベドウィンを対等な交渉相手として扱うならば、彼らは移転の可能性について再び交渉する意思はあるという。
当該地域担当の政府活動調整官のエイタン・ダンゴット少将は先週、ハーン・アルアマールのコミュニティを訪問し、コミュニティの家屋や学校を壊すことはしないし、廃棄物処理場の隣接地に移転させることはない、と約束したという。そして、コミュニティは被占領西岸地区の別の場所に移転されることになるだろうと語った。
しかし、アムネスティはこの約束では不十分だと述べた。
「イスラエル軍高官は、水や電気といった生活の基本インフラをベドウィンに提供するために移転させるのだと説明していますが、実際は、長年続いてきた強奪と差別を永続させるだけのものであり、戦争犯罪といえるものです」とアン・ハリソンは述べた。
「コミュニティにとって、口先の約束などあてにならないなのです。イスラエル国防相はこの政策を正式な形で中止しなければなりません」
◆背景情報
イスラエルの監視団体ピース・ナウによると、イスラエル人の違法入植地の建物は2011年に20パーセント増加した。またイスラエル当局は、無許可で建設された開拓地を合法化し、11の新たな入植地(約2300名の入植者の家屋)を認可した。
2011年には、イスラエルは被占領西岸地区でパレスチナ人家屋を破壊して1100名近い人びとを強制的に立ち退かせた。これは2010年に比べ80パーセントの増加であり、2005年に国連が総合的な記録を取り始めて以来、最多となった。取り壊しの90パーセントは、ジャハリン族ベドウィンのコミュニティ取り壊しなど、C地区において収入が不安定な農業と牧畜を営むコミュニティで行われてきた。
また、ネタニヤフ政権はエルサレムとマーレ・アドミムの間の入植地を拡張するためE1計画の実行を進めている。立ち退きの対象となっているベドウィン・コミュニティの半分余りがこの計画に指定された地域で暮らしている。もしこの計画が実行されれば、西岸地区の北部と南部を事実上、分断することになろう。
アムネスティ発表国際ニュース
2012年2月8日
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