日本:死刑執行に対する抗議声明

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2014年8月29日
[日本支部声明]
国・地域:日本
トピック:死刑廃止

アムネスティ・インターナショナル日本は、本日、仙台拘置所の小林光弘さん、東京拘置所の高見澤勤さんに死刑が執行されたことに対して強く抗議する。安倍政権は、昨年4回の死刑執行で8人および本年6月に1人を処刑し、これまでに11人の命を奪った。内閣改造が9月3日にも行われると報道されている今、直前になり交代が予想される谷垣禎一法務大臣は、最後の職務として2人の処刑を断行したのである。安倍政権下では、2006年の第1次安倍内閣時と合わせて2年半あまりの間に通算21人という、近年の政権にはない人数を執行している。

世界は死刑廃止に向かっている。この7月、国連自由権規約委員会の第6回日本政府審査において、日本政府はあらためて、死刑制度の廃止を含む勧告を受けた。その直後である今回の執行は、死刑廃止に向かう国際社会への挑戦である。死刑は、生きる権利の侵害である。国家が生命を奪うという最も残虐で究極的な人権侵害は直ちにやめなければならない。

現在日本には、125人(注1)の死刑確定者が、昼夜間独居の状態で収容されている。この独居の状態で数十年、最長で約40年という長い期間留め置かれている。この125人は、いつ死刑を執行され、命を絶たれるのか不安にさいなまれながら日々を過ごしている。人間はすべて平等であり、生きる権利を侵すことは決して許されない。

日本政府は、国連自由権規約委員会、第6回日本政府審査に際し、死刑制度について国内で慎重に検討しており、世論に配慮していると返答している。世論に配慮といっても、内閣府の行う死刑世論調査は回収率が低いうえに設問が誘導的であって、これを根拠とすることは疑問がある。そもそも死刑制度の存廃を世論調査の結果で判断すること自体が、生きる権利を奪う人権侵害という性格上馴染まない。

また、死刑制度とは何か、誰がいつ、どのように誰を処罰するのか、人びとは具体的なことを知る機会が与えられていない。執行後に初めて、誰が絞首刑で亡くなったか知らされるだけである。秘密裡に行われる死刑執行に対して情報開示がされることがない中で、人びとの一定の理解があると判断することはあまりに危険である。情報公開がされた場合、人びとの死刑制度に対する意識は大きく変化するであろう。処罰感情ではなく、刑罰と生きる権利という視点でとらえ直さなければならない。

政府は、1人の人間の時間を簡単に奪うことができる。死刑制度の問題点は、本年3月27日に袴田巖さんの刑の執行停止および身柄の釈放によって一層明白になった。袴田さんは捜査機関によりねつ造された疑いのある証拠と強要された自白によって、48年も拘束され、今も拘禁反応による妄想障害に苦しんでいる。

この袴田巖さんの事件は、先に述べた自由権規約委員会でも取り上げられた。同委員会は、死刑廃止を求めるだけでなく、昼夜独居処遇による収容体制の見直し、検察側資料の十分な開示、死刑事件における義務的かつ効果的な再審査の制度の確立、および拷問等による自白の証拠不採用など、厳しい勧告を出した。本年8月には、袴田事件再審に向けた三者会議で、これまで存在しないとされた5点の衣類のネガが新たに発見された。検察側は資料の存在すら否定していたのである。死刑とは、命を奪う極刑であるからこそ、処遇および手続きは慎重に行わなければならない。

アムネスティは、あらゆる死刑に例外なく反対する。死刑は生きる権利の侵害であり、残虐で非人道的かつ品位を傷つける刑罰である。日本政府は、国際人権諸条約の締約国として、死刑にたよらない刑事司法制度を構築する国際的な義務を負っている。アムネスティは、日本政府に対し、死刑廃止への第一歩として公式に死刑の執行停止措置を導入し、全社会的な議論を速やかに開始することを要請する。

注1)死刑確定者126名の内、釈放された袴田巖さんを除く。

2014年8月29日
アムネスティ・インターナショナル日本

※死刑執行抗議声明における「敬称」について
アムネスティ日本は、現在、ニュースリリースや公式声明などで使用する敬称を、原則として「さん」に統一しています。また、人権擁護団体として、人間はす べて平等であるという原則に基づいて活動しており、死刑確定者とその他の人々を差別しない、差別してはならない、という立場に立っています。そのため、死刑確定者や執行された人の敬称も原則として「さん」を使用しています。

 

【背景情報】

日本は、国際社会の責任ある一員として、死刑廃止に向かう世界の情勢も十分に考慮しなければならない。現在、全世界の7割に当たる140カ国が、法律上または事実上、死刑を廃止している。2013年は、国連加盟国193カ国中、死刑執行があったのは日本を含む20カ国にすぎない。またあらゆる犯罪に対して死刑を廃止している国は、2013年に1カ国増えて98カ国となった。主要先進国G8の中で、死刑制度があるのは米国と日本だけだが、その米国も法律で死刑制度を廃止した州が18州に増え、廃止に向けた動きを加速している。

また2012年12月20日、国連総会で、2007年以降で4度目となる死刑執行停止決議が、前回より4カ国多い、過去最多の111カ国の賛成で可決された。決議は、廃止を視野に死刑の執行を停止することや、死刑を適用する罪名を減らすことなどを求めている。世界の死刑廃止への潮流に対して、日本は、ますます孤立状態に置かれている。

参考

第6 回日本定期報告に関する総括所見:死刑制度について勧告部分抜粋
締約国は、以下の行動をとるべきである。

(a) 死刑の廃止を十分に考慮すること、あるいはその代替として、死刑を科しうる犯罪の数を、生命の喪失に至る最も重大な犯罪に削減すること。

(b) 死刑確定者とその家族に対し予定されている死刑執行の日時を合理的な余裕をもって事前告知すること、及び、死刑確定者に対して非常に例外的な事情がある場合であり、かつ、厳格に制限された期間を除き、昼夜独居処遇を科さないことにより、死刑確定者の収容体制が残虐、非人道的あるいは品位を傷つける取扱いまたは刑罰とならないように確保すること。

(c) とりわけ、弁護側にすべての検察側資料への全面的なアクセスを保証し、かつ、拷問あるいは虐待により得られた自白が証拠として用いられることがないよう確保することによって、不当な死刑判決に対する法的な安全装置を即時に強化すること。

(d) 委員会の前回の総括所見(CCPR/C/JPN/CO/5、パラ17)の観点から、再審あるいは恩赦の申請に執行停止効果を持たせたうえで死刑事件における義務的かつ効果的な再審査の制度を確立し、かつ、死刑確定者とその弁護人との間における再審請求に関するすべての面会の厳格な秘密性を保証すること。

(e) 死刑確定者の精神状態の健康に関する独立した審査の制度を確立すること。

(f) 死刑の廃止を目指し、規約の第二選択議定書への加入を考慮すること

以上