- 2020年10月14日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:英国
- トピック:
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新型コロナウイルスの大流行が続く中、英国では政府のあまりに無責任な決定の連続で、介護施設に入居する高齢者が、感染や重症化のリスクにさらされ、多くの人が命を落としている。
介護施設の入居者は、感染流行の初期段階から政府から事実上見放され、人権を侵害される結果になっている。アムネスティの調査でわかった。
3月2日から6月12日の間、介護施設での超過死亡(平年の死者数に基づく予想死者数を超える死亡)の人数は、全土で28,186人、うち18,500人超が、新型コロナウイルスに感染して亡くなった。
介護施設の職員らはアムネスティに、ウイルスの大流行が始まってからの6週間は、「何もかもがお手上げだった」と話した。関係機関からの指示はなく、防護具の入手に苦戦し、PCR検査は受けられず、その一方で、病院から突然退院させられた新型コロナ感染者を引き取らなければならなかった。
「最も衝撃的」と話すのは、政府が3月17日、25,000人の高齢者患者を病院から介護施設に戻すよう命じたことだった。その数日前、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が、新型コロナウイルスの感染拡大で「パンデミック(世界的大流行)は現実になった」と発表したばかりだったからだ。退院させられた人の中には、感染者や感染が疑われる人もいた。
また、WHOが4月2日、陽性でも無症状のこともあると説明しているにもかかわらず、同じ日、政府は「介護施設への転院・入所前に陰性検査は必要ない」と退院時の指針をあらためて強調した。複数の介護施設はアムネスティに、病院から患者を受け入れる前は、施設内にコロナ感染者は一人もいなかったと話した。
政府の一連の対応は、介護施設の高齢者の人権、とりわけ生存権、健康に対する権利、差別されない権利を侵害していることは明らかだ。
40万人の入居者に高まるリスク
高齢の感染者は、とりわけ重症化しやすいことは当初から言われてきた。介護施設入居者は約40万人いるが、その多くが何らかの体調不良にあり、重症化のリスクがある。にもかかわらず、政府は入居者を保護する対策を打ってこなかった。英国公衆衛生庁は3月半ばには、「個々の施設の状況にかかわらず、現在、特段の対応を必要としない」との声明を出している。
介護施設の入居者は、まるで使い捨ての消耗品のように扱われている。数千の空きベッドがあるにもかかわらず、優先順位を下げられ、また、心肺停止時に蘇生は不要という意思を示す書類が、本来必要とされる手続きを踏まずに用意されるなどの扱いを受けてきた。
入院拒否
新型コロナの流行拡大以降、介護施設入居者は国の健康保険サービスを受けられなくなった。その影響か、当局の発表によると、介護施設入居者で3月から4月にかけて入院していた人は、前年比で11,800人少なかった。
また、アムネスティが得た施設関係者の証言によると、入居者の病状に関わらず、医者から介護施設への立ち入りを拒否され、電話かオンラインなら診察すると告げられた施設が複数あったという。
「蘇生不要」指示書の悪用
新型コロナ流行の中、蘇生不要指示が不適切に運用されているという懸念の声が、度々上がっている。
介護施設によると、地元の医院や病院、開業医団体(地域ごとに設けられた団体・診療方針などを決める)は、施設に対し蘇生不要指示書を一律に入居者ファイルに入れておくよう要請した。
アムネスティの調査では、サセックスの6つの開業医団体は3月23日、35の医療機関と98の介護施設に蘇生不要指示書の取り扱い指針を通達し、介護施設の患者で蘇生に関する指示が、要不要にかかわらず記録されていない者を臨床システムで検索して、指示を用意するように求めた。また、入院にも言及し、医療機関に対して、蘇生に関する意思を病院に伝えないとまだ決めていない患者を優先して受け入れ、意思確認するよう求めている。
検査不足
介護施設は、入居者がPCR検査を受けられない事態にも直面している。すべての介護施設で高齢者(65歳以上)が検査を受けられるようになったのは、6月7日になってからで、定期的な検査が可能になったのは、7月6日からだった。
防護具不足
財務大臣は、「国民保険サービス事業では、新型コロナ対策に必要なものは、コストにかかわらず実行できるようにする」と約束したが、介護施設は、防護具の入手でさえ四苦八苦していた。
アムネスティが聞き取りをした施設の職員らは、そのほとんどが、「出入り業者から防護具を入手するのに非常に苦労した」と話した。複数の施設は、業者から「国民保険サービス事業から要請を受けたときのために取ってある」と言われたという。
ある介護施設では、3月に在庫用にエプロンや手袋などの防護具を発注すると、業者からは「国民保険サービスからの受注で、対応できない」という回答がきたという。防護具不足で、入居者だけでなく施設職員も感染のおそれがあるということだった。
隔離で深刻な体調不良
夏に入ると感染者数が減少し、施設への訪問禁止は、限定的ながら解除された。一方、長期間の隔離が高齢者に与えた心身への負担は、症状という目に見える形で現れた。運動や認知機能の衰え、食欲低下、うつ、生きる意欲の喪失などだ。
ある女性は、施設にいる母親に6カ月間、会っていない。母親は、ベッドに縛られていて、面会は認められず、「会えるのは、死ぬ間際だけです」と施設から言われているという。
介護施設の入居者は、私生活や家族の行動を一律に制限されてはならない。制限が必要な場合は、個別のリスク評価に応じた適切なもの、心身の健康への影響を考慮したものであることが必要だ。
英国政府は、全土がコロナウイルス流行の第二波にあるとき、介護施設で感染者の多くが重症化したり、亡くなったりしている異常事態に対して、独立した立場での早急な調査をすべきだ。さもなければ、高齢者の死者が増えるだけだ。
アムネスティは、政府に対して新型コロナの流行拡大中に発生してきたさまざまな問題についての調査を求める運動を始めた。当座は、介護施設にいる高齢者が置かれている状況の調査だ。
さらに政府には、介護施設の入居者に関わる次の4点について、早急の対応を求めている。
- ケアプランや医療ファイルにある蘇生不要指示書の徹底的な見直しを命じ、正当な手続きを経ずに強制されていないことを確認すること
- すべての入居者が、国民健康サービスを利用できるようにすること
- 訪問者、入居者、職員が定期的にPCR検査を受けられるようにすること
- 訪問者を受け入れるか否かの基準は、まず第一に入居者本位であること、制限は個々のリスク評価に基づいており、介護職員、入居者、訪問者に対する頻繁な検査などのリスク軽減手段を考慮に入れていることを確認すること
アムネスティ国際ニュース
2020年10月4日
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