- 2020年11月25日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:ウクライナ
- トピック:女性の権利
(C) Amnesty International
ウクライナ東部の家庭内暴力や性的暴力の被害者は、国や自治体の対応の不備から法律や警察の保護を得られず、社会からも顧みられず、ますます悪化する事態に直面している。アムネスティが昨年、ドネツク州とルハンスク州で6回にわたり実施した調査で明らかになった。
同国の被害者を保護する法律や制度には、さまざまな欠陥がある。目の前にある暴力から逃れたくても、守ってくれるべき自治体や警察が頼りにならない。その上、ウクライナ政府と親ロシア分離独立派勢力の長引く紛争で社会や経済は疲弊し、武器が出回り、被害女性を取り巻く状況の悪化が、追い打ちをかける。紛争によるトラウマと破壊ですでに打ちのめされている女性たちにとって、絶望的な状態だ。
信頼性には欠けるものの、公的統計によると、家庭内暴力は近年急増の傾向にある。2018年の家庭内暴力の報告件数は、その前の3年間の平均件数と比較して、ドネツク州では76%増、ルハンスク州で158%増だった。
不十分な暴力対策
この3年間、ウクライナ政府は国際人権法に準ずるべく、ジェンダーに基づく暴力に対する法制化と組織的な枠組みづくりに取り組んできた。その結果、2018年の家庭内暴力防止対策法や緊急保護命令が施行され、保護施設や家庭内暴力専門の警察隊が設置された。
しかし、適用されるべき法律がしばしば適用されず、各種制度の運用も不十分で、欧州評議会のイスタンブール条約(女性に対する暴力およびドメスティック・バイオレンス防止条約)の批准には、はるかに遠い状態だ。
警察は、家庭内暴力の被害届の受理を渋り、加害者は罪を問われることもないのが一般的なため、被害者はますます、声を上げられないでいる。アムネスティの調査で明らかになった27件の家庭内暴力のうち10件で、被害届が出されていない。自治体や警察の対応は期待できないと思っているからだ。
事例の一つに、軍人の夫から殴られた妻のケースがある。妻は妊娠していたが、被害届を出さなかった。以前、夫に殴られて鼻骨を折られたとき、軍当局から「夫の名誉のため」として、被害届の取り下げを迫られたことがあったからだ。
暴力から保護されない被害者たち
法律上、警察は加害者に対し、被害者への接近や連絡を10日間禁止する緊急保護命令を出すことができる。アムネスティが確認した事例では、警察がこの権限を行使した例はまれで、発令した場合でも甘い執行だった。
法制化や制度化が進んでいるにも関わらず、このような適用との落差は、残ったままだ。家庭内暴力は、行政法と刑事法、両方が適用されるが、現状では、加害者は行政処分を2回受けなければ、訴追されない。また、軍人や警察官は、行政処分の対象にならないため、事実上、家庭内暴力で訴追されることもない。
ある女性は、20年間、夫から暴行や暴言を受け続け、金銭トラブルにも耐えかねて、子を連れて家を出た。女性の申し立てに基づき、裁判所は昨年1年間、元夫に対し女性宅への立ち入り禁止などの命令を出したが、元夫が命令を無視し続けたため、今年5月、命令不服従で執行猶予付きの刑を言い渡した。しかし、夫は、家庭内暴力に対する罰は問われないままだ。
性的暴力
アムネスティの調べで、軍関係者による一般女性への性的暴力が常態化しているおそれがあることもわかった。
アムネスティは軍人による女性や少女に対する性的暴力を、2017年と翌年の2年間で8件確認した。内訳は、強かん2件、強かん未遂1件、セクハラ5件だ。
ジェンダーに基づく暴力・家庭内暴力の被害者を保護する包括的な法整備が欠かせない。政府や関係自治体には、法制化に向けた迅速な対応が求められている。また、法制化にあたっては、被害者や関係女性団体と十分な協議を重ねる必要がある。
ここ数年、ウクライナ政府は、女性に対する暴力問題に取り組む意欲を示してきた。今こそ、その意欲を形に変える取り組みを開始すべきだ。その取り組みを後押しするためにも、ウクライナは、イスタンブール条約を批准すべきだ。条約への参加が、法整備の推進、公務員と市民に向けた教育プログラム、国連機関への報告など、改革に不可欠な施策のロードマップづくりにつながる。
アムネスティ国際ニュース
2020年11月11日
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