フィリピン:パンデミックから1年 深まる健康・人権の危機

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2021年5月 6日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:フィリピン
トピック:

(C) Ryan Eduard Benaid/NurPhoto via Getty Images
(C) Ryan Eduard Benaid/NurPhoto via Getty Images

フィリピンでは、新型コロナウイルス感染拡大で医療がひっ迫し、大勢の人が医療を受けることすら困難な状況に置かれている。今年3月以降入院患者と新規感染者が急増し、医療機関は医療崩壊寸前の事態にある。政府は早急に対応を講じるべきだ。

パンデミック(感染の世界的大流行)が始まってから1年以上経つが、ドゥテルテ政権の対応が相変わらず不十分なため、重大な人権問題を引き起こしている。政権は最大限可能な手立てを尽くし、差別なくすべての人に医療を提供しなければならない。医療従事者や重症化リスクの高い人を保護するための具体的な方策を、これ以上遅らせることなく打ち出すべきだ。また、権利擁護活動家らへの弾圧は事態を悪化させるだけであり、直ちにやめるべきだ。

フィリピンでは新規感染者数が急増している。昨年10月以降の1日あたりの感染者数は2千人から3千人だったが、今年3月半ばから急上昇し、4月3日にはこの1年で最多の15,000人となった。この人数は、この1年で最も多い。今年4月の1日あたりの感染死者数も過去最高を記録している。パンデミックが始まって以来の感染者数は累計100万人近くが感染し、東南アジア諸国で2番目に多い。17,000人が命を落としている。

ひっ迫する医療体制

新規感染者が急増する中、国の対応の誤りが医療のひっ迫を招き、ここ数週間の医療体制はとりわけ危機的な状況にある。医療従事者は、病床不足や人手不足で医療崩壊が起きていると、警告を発している。一方で、医療従事者への手当未払いや医療用防護具不足も発生しているという。

過去数週間の間に、マニラ首都圏、ブラカン、キャヴィテ、ラグナ、リサールの各州では、感染拡大で複数の病院がほぼ満床にあるという。

その結果、悲痛な状況が各地で発生している。

何十台もの救急車やマイカーが病院の前で列をなしている。病院内では、家族に付き添われた感染者の姿があり、治療を待つ間に瀕死の状態になる人もいる。何キロも離れた他の病院にフェリーで運ばれても、そこも満床や医療従事者不足で入院を断られてしまうといった有様だ。

救急医療の専門家ポーリーン・コンヴォカー博士は、「医療制度の不備が問題だ」と指摘する。この問題はフィリピンでは今に始まったことではないが、新型コロナウイルスで一層深刻になっている。

政府の感染症対策を主導する機関が、公衆衛生の専門家ではなく軍の高官が指揮を取っていることも大きな問題で、各方面から厳しい批判を受けている。さらに、スキャンダルまみれの「共産主義者による武力紛争を終わらせるためのタスクフォース」(以下「タスクフォース」)に190億ペソ (およそ429億円)もの巨額予算をあてていることも非難されている。

感染リスクにさらされる医療従事者

パンデミックの再来は、医療従事者が直面する課題がこの1年、ほとんど手をつけられてこなかったことを浮き彫りにしている。

4月時点の医療従事者の感染死者数は少なくとも80人だ。公衆衛生上の危機では、医療関係者の健康維持は最優先課題だ。政府は直ちに、必要かつ十分な防護具を医療従事者に提供し、彼らの労働環境や労働条件の整備に取り組まなければならない。

病院や保健施設で働く労働者の全国組織「医療従事者連合」によると、多くの医療従事者が法律で決められている手当を受け取っていないという。昨年9月以来、食費、交通、住居などの各種手当も特殊危険手当の支給も滞っている。医療従事者連合は、看護師や看護助師の仕事はストレスが避けられないだけに、担い手不足への不安も口にしている。

貧困地区住民に降りかかる問題

最近、貧困地域出身の男性2人が、感染対策に従わなかったとして警官に射殺される事件があった。貧困地域出身者や住民は、取り締まり対象になりやすいが、感染拡大で新たな問題に直面している。例えば、感染しても病院にかかれなかったり、パンデミックの影響で失職し収入源を断たれたりしている。低所得世帯の感染リスクが高まる一方で、通院が容易ではなくなっている。

直近2週間のロックダウン中、政府は、最低所得層の家庭に1家庭当たり1,000~4,000ペソ(約2,200円から9,000円)を支給したのはよかったが、給付が遅れ、多くの住民から批判の声が上がった。   

パンデミックでも続く「赤狩り」

新型コロナウイルス感染対策を口実にした人権侵害は、他の国でもみられることだが、ドゥテルテ政権は、感染対策と称して新たな人権侵害を始めた。「共産主義者」や「テロリスト集団」との関係があるとして「赤」呼ばわりされた人物や人権活動家の摘発に乗り出し、強制捜査、逮捕、殺害を行っている。

最近、個人やグループが、地元で食料品や生活必需品を無償で提供する「コミュニティー配給所」を立ち上げる動きがあったが、この善意の取り組みに対しても、警察当局が「共産主義者集団」とつながっていると非難したため、世間の怒りを買うことになった。

パンデミックの中、国に対して感染対策への支援強化と改善を求めた医療従事者連合が、政府高官から「赤」呼ばわりされた。同連合は「あまりに破廉恥な侮辱だ」と怒りを露わにしている。「赤」呼ばわりの背後には常にタスクフォースの存在があるとされ、「赤」のレッテルを貼られた人権活動家らの多くは、嫌がらせや襲撃の対象になっている。

ドゥテルテ政権は、「赤狩り」や人権への攻撃を現在も続けており、人権状況は悪化の一途をたどっている。政権は人権侵害をやめ、感染拡大で深刻化する事態の打開にこそ全力を尽くすべきだ。少しでも手を抜けば、またしても失政となる。

アムネスティ国際ニュース
2021年4月26日

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