リトアニア:国境での追い返し、不法拘束、暴力を受ける難民・移民

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2022年7月 6日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:リトアニア
トピック:難民と移民

リトアニアで、難民・移民が何カ月も軍施設に拘束され、拷問、虐待など非人道的な扱いを受けている。当局は難民・移民の自主的帰国に期待を寄せ、彼らが本来受けられるはずの庇護申請手続きを受けられないようにしている。

アムネスティはリトアニアのキバルタイとメディニカイにある収容所2カ所を訪ね、31人に話を聞いた。カメルーン、コンゴ民主共和国、イラク、ナイジェリア、シリアなどから逃れてリトアニアに入国し不当に拘束されている人たちだ。

その多くが、「不潔で医療も不十分な収容所で暴行や嫌がらせ、人種差別に基づく脅迫を受けている」と訴えた。ヤジディ教徒の女性は、「イラクにいたときは、ヨーロッパの人権や女性の権利が尊重されると聞いていたのに、ここではなんの権利もない」と嘆く。

庇護を求める人たちは誰しも公正な扱いを受けるべきだが、今回話を聞いた人たちは、劣悪な施設に何カ月も収容され、虐待的な扱いを受けていると語る。同国の移民制度に構造的な人種差別があるのではないかという懸念もある。

リトアニア当局は、収容者の拘束を解き、庇護を希望する人たちに公正な手続きの機会を与えるべきだ。

機械的に拘束し、庇護を拒否

昨年7月、ベラルーシ国境を超えてリトアニアに入国する人たちが増えたことを受け、国会は違法入国者を機械的に拘束する新法を制定した。恣意的な拘束を禁じるEUの法的保障を拘束者から奪いたいリトアニア当局は、この機械的な拘束を「一時的な宿泊施設」と説明した。

非人道的な収容所

昨年9月まで刑務所だったキバルタイ収容所には、数百人の男性が収容されている。周りは高い壁で囲まれ、窓には鉄格子がはまり、ドアには防犯装置が付いている。収容者は施設内の移動も制限され、温かいシャワーは週2回しか利用できない。施設内は収容者であふれ、何カ月も清掃されないため、洗面所やトイレ、シャワーのいずれも不潔だ。

シリア人男性は、「リトアニアが受け入れてくれたことに感謝するが、この扱いはひどい。周りは鉄条網だし、これでは刑務所同然で、難民施設とは言えない。私は犯罪者ではない。避難民だ」と話した。

収容者への暴力

メディニカイ収容所には数百人が収容されているが、寝場所はサッカー場のコンテナ内だ。トイレは外にあるため、冬なら雪の中を歩いてトイレへ行くことになる。聞き取りをした人は、粗暴な係員に恐怖心を覚えると話した。

また、不当な拘束と劣悪な収容環境に抗議した収容者たちが「係員に警棒で殴られ、唐辛子スプレーやスタンガンを向けられた」「手錠をかけられ、コンテナから引きずり出された」「女性の中には、手を縛られ半裸の状態で極寒の戸外で性的屈辱を受けた」などと話した。

収容所に勤務する心理学者が、収容者に対し性暴力を加えた疑いで捜査を受けているという事例もあった。また、主に黒人の男女らが、人種差別的な中傷を受けているという事例もある。

サハラ以南のアフリカから来た女性は、「お前を狩猟者の餌食として森に送ってやると脅されたし、気分が悪い時に救急車を頼んでも、倒れて意識を失うまで呼んでくれなかった」などと話した。

難民申請手続きと法的支援制度の構造的欠陥

昨年8月、リトアニアは非正規入国者の難民申請受付を停止した。それ以前に受けていた申請も反故にしかねなかった。本来取るべき手続きを無視し、庇護申請に必要な情報収集を妨害し、しばしば通訳の提供もしなかった。

同国がいう庇護希望者への法的支援制度は見せかけでしかない。難民申請で代理人を務める弁護士の雇い主は、異議を申し立てる相手の移民局であり、利益相反になるおそれがある。庇護申請をめぐるこのような不適切な体制は、庇護への障害を高くするだけだ。

今こそ、受け入れ体制の見直しを

リトアニア当局は最近、拘束期間について現在の12カ月の期限を超えることはないとの見解を示したが、当局がこれまでに侵してきた違法行為にどう対応するのかはつまびらかにしていない。

緊急事態法や関連政策の導入から1年、同国は難民・移民の取り扱いを抜本的に見直す必要がある。まずは、「一時的宿泊所」に拘束する人たちを直ちに解放し、庇護手続きを受けられるようにすべきだ。さらに、心理的・身体的苦痛を味わった人たちが必要とする対応を取り、虐待や暴力を加えた関係者を処罰しなければならない。同時に2021年から2022年にかけて施行された有害な法律の廃止に向けた手続きを取るべきだ。

欧州の対応

欧州連合(EU)は、この数カ月の間に国外からの難民・移民の受け入れで、2つの異なる対応を取ってきた。ウクライナ人は保護され庇護を受けられるのに、他の国からの難民・移民は拘束され、劣悪な環境に置かれ、人種的差別を受けるという結果になっている。

リトアニアが国境での押し戻し、機械的拘束、庇護の否定を合法化しようとしたとき、欧州委員会内の反応は、賞賛から暗黙の承認までさまざまだった。欧州委員会の幹部は欧州議会の議員に、「国境での押し戻しは明らかに違法だが、押し戻しの確たる証拠はない」と語った。だが、実際にはその証拠は数多くあった。アムネスティが今回公表した報告書でも、また、他の国際団体や地元団体が昨年来報告してきた文書でも押し戻しを示す十二分な証拠を示している。

欧州司法裁判所はEU法違反と判断

6月30日、欧州司法裁判所は、非正規入国者の機械的拘束を命じ、庇護を求める権利を事実上否定するリトアニアの国内法はEU法と相容れないという判決を下した。庇護を求める権利を否定する慣行は、EU基本権憲章を含むEU法に違反しているとし、「異常事態」や「外国人の大量流入」の際にはEU法を逸脱する権利があるというリトアニアの主張を覆したのだ。

この判決を受け、リトアニア当局は抑圧的な法律を直ちに撤廃すべきである。リトアニアは、国際的な保護を受ける必要があると表明するすべての人に、公正な庇護手続きが受けられるようにしなければならない。

アムネスティ国際ニュース
2022年6月27日・6月30日

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