イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ:顔認証技術の導入でアパルトヘイトを強化

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2023年5月11日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:イスラエル/被占領パレスチナ地域/パレスチナ
トピック:

 イスラエル当局はレッドウルフとして知られる実験的な顔認証技術を導入して、パレスチナ人の行動を追跡し、移動の自由に対する厳しい制限を自動化しようとしている。パレスチナ人に対する監視網の拡充はイスラエル政府によるパレスチナ人支配とアパルトヘイト体制の維持・強化を狙ったものであり、レッドウルフの導入はその一環だ。アムネスティは新しい調査報告書『アパルトヘイトの自動化』で、明らかにした。

被占領西岸地区ヘブロンの軍検問所の監視カメラに搭載されたレッドウルフは、パレスチナ人の顔を読み取り、得られた情報を監視データベースに取り込む。個人情報が読み取られる際、本人に同意を求められることはない。

イスラエル当局は、戦略的地域でのパレスチナ人の影響力の矮小化を狙っているが、パレスチナ人への敵対的、威圧的な環境を作り出す上で、監視技術が果たす役割は大きい。

ヘブロンのH2地区では、レッドウルフが違法に取得した生体情報の利用で、パレスチナ住民の移動の制限が強化される事態になっている。

パレスチナ人は、過剰な物理的な力と恣意的逮捕という脅威にさらされる上、アルゴリズムによる追跡を受けたり、差別的監視データベース内の情報に基づいて自身の居住区に入ることを禁止されたりするリスクとの闘いを余儀なくされている。

アムネスティは、監視目的の顔認証技術の開発・販売・使用を禁止するよう世界に呼びかけている。アムネスティの調査で、インドや米国でも顔認証技術に基づく人権リスクが発生していることが明らかになっている。

報告書は、パレスチナ住民への聞き取り、公開資料の分析、元・現イスラエル軍関係者の証言など、2022年の現地で収集した情報に基づく。

レッドウルフ

イスラエルとパレスチナ解放機構の1997年合意に基づき、ヘブロンはH1とH2と呼ばれる2つの区画に分けられた。ヘブロンの80%を占めるH1は、パレスチナ当局の管理下にあり、旧市街を含むH2はイスラエルの支配下にある。H2には約33,000人のパレスチナ人と、7以上の入植地に違法に住む約800人のイスラエル人がいる。

H2のパレスチナ住民は移動制限を受けている。特定の道路の利用は認められず、軍の検問所などパレスチナ人が足止めされる障害が至る所にあり、日常生活に多大な支障となっている。一方でイスラエル人入植者には別の道路が用意されているため、検問所に煩わされることはない。

レッドウルフは、ウルフパックとブルーウルフと呼ばれる2種類の監視システムに繋がっている可能性が極めて高い。

ウルフパックは、被占領パレスチナ地域のパレスチナ人の居住地、家族構成、イスラエル当局の出頭要請対象者か否かなどの情報が入った巨大なデータベースだ。イスラエル軍がスマートフォンやタブレット端末で利用するアプリ「ブルーウルフ」を使えば、ウルフパックのデータベースから情報を瞬時に引き出すことができる。

パレスチナ人が、レッドウルフが設置された検問所を通る際、顔がスキャンされ、データベース内の生体認証情報と照合される。照合の結果、検問所の通過の可否が判断され、スキャンされた顔は自動的に生体認証情報に登録される。

登録情報がなければ通過を認められない。また、レッドウルフがデータベースで確認した個人情報によっては、検問所の通過を認められないことがある。例えば尋問や逮捕のために指名手配中などの情報だ。

イスラエル軍にとってパレスチナ人の監視は、一種のゲームだ。例えば、2020年にヘブロンに駐留していた兵士2人によると、兵士がブルーウルフのアプリに登録したパレスチナ人の数で順位が決まり、最高得点者には軍司令官から賞が与えられるといった具合だ。兵士にとってゲームがパレスチナ人監視の動機づけになっている。

至る所に設置された監視カメラ

イスラエルのAIによる顔認証技術は、監視用ハードウェアの膨大なインフラに支えられている。

ヘブロンは、イスラエル軍当局から「スマートシティ」と揶揄されている。監視カメラが建物の壁面、屋上、街灯、監視塔など至る所に設置されているからだ。一方で、H2で特に監視カメラが多い特定の地区は、パレスチナ人にとっては「立ち入り禁止」となる。その地区がたとえ自宅からほんの数メートル先だったとしてもだ。

56番検問所近くにあるテル・ルメイダ地区には24台以上の監視カメラやセンサーが設置されている。かつては活気に満ちていたが、検問所の設置や軍の駐留、さらに30年近い移動制限下での事業廃業や閉店などで、活気はすっかり失われてしまった。

旧市街と新技術

占領下の東エルサレムでは、旧市街に設置されたCCTVカメラは数千台にのぼる。イスラエルは2017年以降、監視体制の強化に向け顔認証技術の積極的な活用を図ってきた。

アムネスティは被占領東エルサレムの10平方キロメートル内にあるCCTVカメラの配置図を作り、5メートルごとに1、2台のカメラがあることを確認した。イスラエル当局は、特にパレスチナ人が集会や抗議行動によく利用する文化的、政治的な場所に重点的にカメラを設置してきた。

大規模な監視は、プライバシー、平等、非差別の権利を侵害する。また、大規模監視は表現と集会の自由の権利の脅威になる。

シェイク・ジャラー地区とシルワン地区では、入植者用の居住地建設のためにパレスチナ人家族を強制的に立ち退かせることに反対する2021年の抗議活動が契機になって、CCTVカメラの数が急増した。

入植拡大に対する抗議活動への意欲を削ぐだけが監視の目的ではない。イスラエル当局や入植者は、違法に入植した地域の周辺地域にも監視機器を設置している。イスラエルの支配をデジタル領域でも強化しようとしているのだ。

監視技術の提供企業

アムネスティは、イスラエル当局に顔認証機器を提供する企業名を確実に挙げるまでには至っていない。しかし中国の監視カメラ大手ハイクビジョン製の高解像度CCTVカメラが住宅街に設置されたり軍のインフラに搭載されているのは確認している。同社の宣伝によれば、このカメラには外部の顔認証ソフトへの接続が可能なモデルがある。また、オランダのTKHセキュリティ社製のカメラも確認した。

アムネスティは、両社に書簡を送り、それぞれの製品がパレスチナ人の顔認証に使用され、人権侵害につながるおそれがあるという懸念を伝えた。アムネスティは両社にデューデリジェンス(不法行為等を避けるための適切な手続き)についての説明も求めたが、人権を侵害するリスクが高い製品を販売する責任をどう果たしてきたかという問いに対する具体的な回答はなかった。

TKHセキュリティ社のウェブサイトによると、2017年、イスラエルの企業Mal-Techテクノロジカル・ソリューションズがイスラエルでの公式販売代理店になった。TKHセキュリティ社は「過去数年間、Mal-Techとは取引がない」「イスラエルの治安部隊との取引関係はない」と回答し、アムネスティが詳しい説明を求めたが返答はなかった。ハイクビジョンにも何度か照会したが、一度も回答はなかった。

TKHセキュリティとハイクビジョンは、自社技術がパレスチナ人に対するアパルトヘイトの維持・強化に利用されないよう責任を持つべきだ。また、違法な入植地の維持に利用される技術の提供を停止し、販売は人権を遵守する顧客に限定すべきだ。

アムネスティ国際ニュース
2023年5月2日

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