- 2025年7月17日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:メキシコ
- トピック:
メキシコでは失踪者が128,000人以上に上るが、家族など大切な人を捜索する女性たちは暴力にさらされ、2011年からこれまでに少なくとも16人の女性が命を落としている。アムネスティはこうした女性600人を対象に調査を行い、彼女たちが直面する事態を報告書にまとめた。メキシコ(30州)だけでなく、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの女性も対象とした。グループインタビュー、個別の聞き取りも行った。女性たちは経験を公表することを快諾してくれた。
失踪者を懸命に捜索する女性たちは、極めて敵対的な状況の中、人権を擁護する上で非常に重要な役割を果たしている。数々の深刻な暴力や脅しを受けているにもかかわらず、失踪した身内を持つ他の家族を支援し、失踪者の捜索に特化した法制、公共政策、機関の創設を推進してきた。当局は、大切な人を探す家族の権利を保証し、捜索の過程で直面する絶え間ない人権侵害を終わらせるために行動しなければならない。
失踪した家族を探す女性たちが直面する困難
調査に回答してくれた女性の97%が、捜索中に何らかの形の暴力を受けた。最も多かったのは、脅迫(45%)、恐喝(39%)、攻撃(27%)、立ち退き(27%)、拷問(10%)、誘拐(6%)で、性暴力、行方不明、殺害すらあった。
ゲレロ州の州都チルパンシンゴの女性の捜索者は「家が100発の銃弾を浴びた。娘と一緒にいたが、恐ろしかった」と語った。
さらに、女性捜索者の2人に1人が、ジェンダー、経済状況、民族や人種、先住民族であること、出身国、在留資格を理由に、差別を受けていた。また、2人に1人は、当局や自身の家族、地域社会からも汚名を着せられ、二重の被害を受けていた。コリマ州の州都コリマ出身の女性は次のように話した。「金持ちと貧乏人は同じではない。金持ちが失踪すると、検察が優先事項にするから見つかる。私の息子の捜索では、話も聞いてくれない」。
失踪者の家族も影響を受けている。調査対象にした600人の女性のうち60%の家族関係が崩壊してた。捜索と家族の面倒を見る役割を両立させる仕組みがないことが、家族関係を悪化させている。70%が、うつ病、不眠、他の病気の発症、あるいは既往症の悪化など、心身に影響を受け、60%が経済的に厳しい状況に追い込まれた。
「息子を探すために出かける燃料がもうない。もう1年半も電気も飲み水もなく、食べ物がない時もある」と、グアナファトの女性は嘆く。
当局に対する信頼の欠如
証言によれば、公的な機関は失踪した人の捜索に対し積極的に動いてはくれない。そのため、女性たちは自分たちが行動するしかなく、当局が組織した捜索でさえ主導した。
政府が失踪者を捜索する国々とは対照的に、メキシコでは、女性たちが自ら率先して捜索する。集団墓地を探し当て、自らの手でつるはしとシャベルを使い掘り起こす。家族を探し続けるために、危険な地域に踏み入り、国境さえ超える。このような国の怠慢は、彼女たちを極度に弱い立場に置くだけでなく、真実と正義を手にし、被害に対する包括的な補償を受けるという、彼女たちの権利の実現を阻む。
女性の捜索者のうち、当局に暴力の被害を届け出るか、支援を要請したのは、わずか17%だった。これは、政府への不信、自分たちの権利に関する認識不足などが要因で、公務員と組織犯罪が結託していると思われている節もあった。
話を聞いた女性たちは、人権擁護者・ジャーナリスト保護機構と国家の保護機構が、彼女たちを人権擁護活動家と認め、安全策を講じたことを歓迎した。しかしながら、「そういった機構は、注目を浴びていない人は無視する」と指摘。また、これらの保護機構は、安全対策をする際、ジェンダーと子どもの視点での包括的な取り組みをせず、対策の効果を適切に管理し評価することもしていない、とも述べた。
女性の捜索者たちによれば、自分たちも被害者だと認めてもらうことが難しく、国の被害者委員会による支援は不十分なうえに遅れがちで、文化的にも不適切なものだという。先住民族の女性や失踪者が移民の場合の家族が支援を受けるのは、さらに厳しい。
また、検察局や検事総長はいつも、失踪届は72時間待つようになど、国際基準に反した実務を行っている。
捜索と捜査のためのメキシコ海外支援機構(MAEBI)は、移民と別の国に在住するその家族が司法制度を利用しやすいように創設された。しかし失踪した移民の家族が届け出を出し、捜索過程をチェックし、メキシコ領内に入ることは困難だと、女性たちは強調した。
アムネスティは報告書で、メキシコ当局に対し、捜索者全体を保護するために一連の勧告を行った。女性捜索者の活動の重要性を認識し、当局と協力した活動か単独での活動かを問わず、捜索する権利を認め、彼女たちの経済的、社会的、文化的権利を保障することなどだ。
失踪に関する政府の方策はすべて、女性の捜索者の意味ある参加を組み入れなければならない。また、捜索には女性が大きな役割を果たすことを認め、ジェンダーの視点、重なり合う人権課題の視点を取り入れることが不可欠だ。
アムネスティ国際ニュース
2025年7月8日
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