- 2025年9月10日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:ポーランド
- トピック:女性の権利
ソーシャルメディアプラットフォームのX(旧ツイッター)は、ポーランドにおけるLGBTIの人びとを標的としたヘイト(憎悪)の拡散を助長している。アムネスティはXのビジネスモデルを初めて分析して新たな報告書を発表した。
報告書は、Xのビジネスモデルとコンテンツモデレーションの不備が、デジタルジェンダー暴力(テクノロジーによって助長されたジェンダーに基づく暴力)の拡散につながった経緯を詳述している。投稿の内容を監視し、不適切な投稿を削除・非表示にするコンテンツモデレーションの実施が不十分で、人権に対する適切な配慮が欠けているため、XはポーランドのLGBTIの人びとに対する人権侵害に加担する結果となった。
これらの失策に加え、有害な発言を防ぐ対策が正当な理由もなく廃止された結果、Xは現在、デジタルジェンダー暴力をもたらすコンテンツの温床となっている。これにより、LGBTIの人びとの表現の自由、結社の自由、差別を受けない権利、そして社会のなかで安全を感じ得る力が損なわれている。
ポーランドのLGBTIの人びとは、X上でさまざまなデジタルジェンダー暴力を受けている。これには暴力の脅し、オンライン上の嫌がらせ、ドクシング(悪意を持って個人の個人情報をオンラインでさらすこと)、特定の個人・集団を標的としたオンラインでのヘイトなどが含まれる。そのため暴露されたり疎外されることを恐れて、Xの利用をやめざるを得ない人たちもいる。
Xでの反LGBTIコンテンツのまん延
アムネスティは全米公民権会議傘下のアルゴリズム透明性研究所(ATI)との連携のもと、32の調査用アカウントをつくり、2025年3月1日から3月31日までの間に163,048件のツイートを収集した。
これらのツイートの分析により、X上でLGBTIに差別的なコンテンツが広がっていることが明らかになった。1,387件のサンプル分析では、LGBTの権利に反対する政治家をフォローするアカウント上で、同性愛嫌悪やトランスジェンダー嫌悪のコンテンツがまん延していることが示唆された。
Xのレコメンダーシステム(「For You」のタイムラインにおすすめツイートを表示させるアルゴリズム)は、ユーザーエンゲージメント(「コメント」「いいね」「シェア」など投稿に対するユーザーの反応)の最大化を主眼として設計されている。エンゲージメント優先のアルゴリズムのため、相互作用を生むコンテンツが表示されることになる。安全対策があるとしても、レコメンダーシステム自体が、有害なコンテンツを増幅させ、強い反応を引き出してエンゲージメントを循環させ続けるリスクをはらんでいる。
アムネスティがXのビジネスモデルについて、人権に基づく分析を行ったのも今回が初めてである。この分析により、Xの監視に基づくビジネスモデルの規模が明らかになった。Xのビジネスモデルは、他のソーシャルメディアプラットフォームと同様、広告のターゲティングに利用するために、ユーザーに関するデータをプライバシーの領域を踏み越えて収集することで成り立っている。
このビジネスモデルとコンテンツモデレーション方針・運用のつたなさが相まって、ポーランドのLGBTIの人びとは、デジタルジェンダー暴力コンテンツの的になる深刻なリスクにさらされているのだ。
個人への影響
LGBTIユーザーは、彼らの実際の、あるいはそう受け取られている性別、性的指向、または性表現に関連して、標的にされている。
クラクフ出身のアーティストでアセクシュアル(無性愛)の女性、アレクサンドラ・ヘジクさんは、乳房縮小手術について投稿したことで誤ってトランスジェンダー女性と見なされ、嫌がらせを受けた。「ジムなどで私を見かけたら骨を折ってやるとか、誰かあいつを殺してくれないか、といった発言があった」と、ヘイトの的となったことでXをやめざるを得なくなったと語る。
42歳のLGBTIで妊娠中絶支援の活動家であるマグダ・ドロペクさんは、負の影響があるにもかかわらず、今も活動にXを利用している。
「私は主にツイッターでクィア活動や政治活動を行っています。コミュニケーションや活動のためには、とても重要なツールなんです。私の経験では、私や他の人がクィアに関して投稿すると、最初は30~40の「いいね」や5件のコメントしかなかったのに、数時間か1日後には500件もの反LGBTIのコメントで埋め尽くされることが、よくあります。発言を封じ込め『ここはおまえの居場所ではない、黙っていろ、目立つな』と示すためです」。
デジタルジェンダー暴力へのXの加担
ポーランド語のコンテンツモデレーションに対し、X社の投資が慢性的に過少だったことが、デジタルジェンダー暴力コンテンツへの対応の失敗の大きな要因となっている。同社の透明性報告書によれば、ポーランド語を話すコンテンツモデレーター(監視員)はわずか2人のみであり、うち1人はポーランド語を第2言語としている。この2人だけで、3,745万人の人口と533万人のXユーザーをカバーする任務を引き受けているのだ。こうしたリソース不足と方針・運用のつたなさが相まって、XはLGBTIを標的とした憎悪コンテンツが氾濫するプラットフォームと化した。
2024年8月22日、アムネスティはX社に対し、2019年から2024年までのポーランドでの事業活動に関する質問状を送付したが、回答は得られなかった。2025年6月25日、本報告書の主張内容を提示し再度書簡を送付して回答を求めたが、依然として返答はない。
デジタルサービス法を遵守せず
EUのデジタルサービス法(DSA)では、Xのような超大規模オンラインプラットフォームは、内在する人権リスクを評価・軽減する義務を負う。Xによる2024年のリスク評価では、プラットフォーム上のヘイトや脅しのリスクを認めたものの、LGBTIに特化した危害については言及がなかった。2024年8月23日までの1年間を対象としたXのリスク評価と軽減措置に関する独立したDSA監査では、評価・措置は説得力や有効性に欠け、アルゴリズムシステムに対する安全策が欠如していると指摘された。
ポーランドにおけるX社の対応には繰り返し不備が見られ、同社が本質的に抱える人権リスクに対処できていないことを示す。デジタルサービス法は責任追及と救済に向けた大切な手段であり、強力かつ有意義に実施されなければならない。
欧州委員会は、X社に対する現行調査の範囲を拡大し、デジタルジェンダー暴力のリスクへの対処能力まで含めるべきだ。X社はポーランドにおけるLGBTIの人びとに対する人権侵害に加担することをやめ、ポーランド語のコンテンツモデレーションにリソースを投入し、監視に基づくビジネスモデルを終了させるための改革に速やかに着手しなければならない。
アムネスティ国際ニュース
2025年9月1日
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